戦争と平和、その412~統一武術大会ベスト16、ロッハvsセイト②~
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――対するセイトの控室――
こちらには人がごった返していた。本来ならラインの控室にも多くの団員が押し掛けたのだが、他の者もいたせいで結局警備の騎士にまとめて締め出された。多くの団員がそのまますごすごと観客席に戻るのも悔しかったのか、なんとなくその足はセイトの控室に向いたのであった。
そしてセイトと言えば、自分の控室に多くの応援が来たことに驚きの表情をしていた。普段無表情かつ寡黙に過ごすセイトだが、今日この時ばかりは目が丸くなりっぱなしだった。
「どうした、セイト! 応援に来たぜ!」
「お前、天覧試合とか光栄に思えよ!?」
「きゃー、セイトさーん! 結婚してぇ~!」
「お前、気持ち悪いからやめろ!」
同僚の獣人の男が茶化すと、そいつの頭を小突く仲間がいた。そんな声援を受けてセイトは、
「・・・結婚は無理だが、全力で戦うと約束しよう」
と生真面目に返したのだった。その答えにどっと笑う仲間たち。賑やかな控室は、試合が近いことを知らせる役員が来ると、ぞろぞろと外に追い出されてあっという間に閑散とした。残ったのは隊長格や、獣人の仲間だけだった。
「で、実際どうなんだ? 昨日の試合で右腕は折れていたろ?」
「ああ、昨日アルネリアの回復魔術で治してもらったからな。問題ない」
「つっても、違和感とか痺れ、ちょっとした痛みは残るだろ?」
「まぁその通りだが」
セイトが立って軽く体を動かす。その拳の振りと身のこなし、体の重心の安定。体術を扱う者なら誰でもわかる程、セイトの体捌きはキレていた。彼らの知るセイトとは、まるで違う身のこなし。
そこにニアが持っていた飲み物に指を浸し、ぴっと弾いて水滴を数滴セイトに向ける。その行為に反応し、セイトが拳でそれらを正確に打ち抜いた。一分の隙もない反射速度と拳の速度。誰が見てもセイトは絶好調だった。
「・・・お前さ、今まで訓練で手を抜いていたろ? 組手でそんな動きしたことねぇじゃねぇか」
「いや、決して手を抜いてはいない。だができることをやっても仕方がないから、できないことをどうにかしようとは思っていた。訓練では殺されることはないが、戦場では味方の流れ矢に当たって死ぬこともあるだろう。それに腕が八本あるような魔物と戦うこともあるかもしれない。あるいは怪我で片腕が使えなかったり、誰か味方を庇いながら戦うこともあるかもしれない。そんな想定をしてはいた」
「なんだそりゃあ。お前、何と戦うつもりだったんだ?」
その仲間の問いかけに、セイトは澱みなく答えた。
「戦場で相対する、全てと」
「――だめだこりゃあ、真面目すぎてやってらんねぇ」
仲間達は笑いながら口々に応援の言葉を残して控室を後にしたが、セイトが至って真面目に答えていると理解していた者が何名いただろうか。
最後の方に残ったヤオは、セイトの胸を軽く小突いて励ました。
「お前は獣将になるのか? それとも王にでもなるつもりなのか?」
「それはまだわからん。だが獣将や獣王が強者の証というのなら、求めよう。だが我々の団長を見ていると、どうもそれだけが強さではないような気がしてきていてな」
「なるほど、『我々の』と来たか。毒されているようだな」
ヤオが薄く笑う。セイトはちらりとヤオを見た。
「おかしいか?」
「いや、まったく? 私も、私の姉も完全に毒されているからな」
「ああ、そのとおりだ」
残っていたニアもそう言って笑う。そして共に控室を後にしていた。
「勝てよ」
「勝って初めて見える光景もあるだろう。たまには後先考えず、戦ってみたらどうだ?」
その言葉を受けて、セイトは大きく深呼吸を繰り返した。繰り返すこと三度、一呼吸置きに体が絞られ、筋肉が隆起するのがわかる。
丁度三度目の深呼吸が終わると、係員がセイトを呼びに来た。
「セイト選手、時間です」
「わかった」
会場に向かうセイトに、もう迷いは全くなかった。
続く
次回投稿は、10/1(火)23:00です。夜の投稿に戻ります。




