《二人》
「その、アフィ、昨日の夜のことなんだけど」
「その話はまた後でしよう。事情は知らないけど人間のふりしてるんでしょ?朝ごはん食べないと不自然だよ、死神様」
ほら行くよ、と彼はリヴルーフェに手を差し出した。
リヴルーフェは手を取るか迷った。
(これまた離すの忘れていじられるやつじゃ……)
リヴルーフェは想像した、が、相手から差し出してきたのでまた勘違いされても相手のせいだ。なにより自分には全然ダメージがない。
リヴルーフェがゆっくり歩くと、彼は急かすように少し強く手を引いてきた。それが面白かったリヴルーフェは何度か続けていたら扉の前に着いていた。
昨夜、スープの味を感じたあの部屋の扉だ。昨夜同様メイドたちが扉を開くと同時に、そっと手が離された。
今度は昨夜と違い、明るい朝日に照らされたあの二人がいて、そして二人にいじられることもなかった。
「おはよう、リヴィちゃん、アフィ!素敵な朝ね」
「おはよう。さあ、席につきたまえ。」
リヴルーフェとアルフィリアは挨拶に返事をし、各々の席についた。
++++
朝食を食べ終わったリヴルーフェはアルフィリアに案内され、客間にいた。
もし、リヴルーフェの正体が誰かに聞かれたら、大変なんてものではない。世界中を混乱に陥れるには容易い情報である。
だが、アルフィリアはもう一周回ってとても冷静になっていた。
メイドたちに部屋から出て行ってもらい、許可があるまで、誰も何もしに来るなと指示を出した。
昨日と同じ様に紅茶の香りが漂っていた。
そうして二人きりになった客間には、少しの間沈黙が流れた。
アルフィリアの呆れの睨みと共に。
「……で?かの最古の神、死神様が人間どもに何のご用で?」
睨みがもう一段強くなった。
はやく話せ、と言われている気がしたリヴルーフェは事の顛末を語り始めた。
++++
「なるほど、じゃあ突然変異の"源"の主を調査しに来たわけと」
アルフィリアはふーん、と言ってテーブルカップを手に取り、一口飲み込んだ。
睨みが解け、先ほどより機嫌が良さそうなアルフィリアを見てリヴルーフェは安堵した。何とか即刻追い出される展開は回避できた。
「もっとすごい理由かと思ったよ。てっきり『世界を滅ぼしに来た』とか言うのかと思ってた。現地調査って……人間みたいなことするんだね」
アルフィリアはパッと顔を上げて笑った。
リヴルーフェはアルフィリアの笑顔に先ほどよりもさらに強く安堵した。
「アフィは世界が滅ぼされてもいいの?」
「君が一番分かってるだろうけど、死神様はとんでもなく有名かつ、素性が知れない存在だから、そんな神様と今みたいにお話できるのはすごいことでしょ?なら滅ぼすって言われても受け入れたかな。元々、神の意向に抵抗する方法もないし」
死神・リヴルーフェの素性が知れないのは神話が少ないからだ。
リヴルーフェは目立ってチヤホヤされることが面倒くさかったがために、自身が行った偉業をギリギリまで隠している。そして、死神として働き出してからは、最果ての森にめっきり引きこもる様になった。
なので人からしても、神からしても最古の神で数々の偉業や権能があるはずなのに多くが知られていない、ミステリアスで神秘的な存在だと思われている。そのせいでリヴルーフェはより神格化されていた。
どんな性格でどんな権能を持っているかが定かではないため、人々やその他の神には抗う術がない。いきなり滅ぼすと言われても割と皆『そういう神様なんだな。まあ仕方ない』と納得してしまうのだ。
アルフィリアは紅茶の入ったカップをくるくると揺らし、波紋をたたせて遊ぶ。
あ、でも……、と彼は言葉を続けた。
「ちょっとだけ、時間が欲しいかな」
「時間?」
「うん、今度受けることになってる国立魔法学院の編入試験の合否が出るまでは待って欲しいかな」
何かを懐かしむ様な、思い出す様な表情のアルフィリアにリヴルーフェもとあることを思い出した。
前、アルフィリアの"源"を覗いた時、彼は苦しみながら兄を呼んでいた。
だが、今は年頃のそれも裕福な貴族の男児には珍しい程華奢な体型をしているがぴんぴんしている。まるで、先日まで寝込んでいた病み上がりの人の様だった。
「それは、アフィのお兄さんのため?」
アルフィリアは目を見開いて驚いた。
カップを静かにテーブルに戻す。その手は僅かに震えていた。
「…………さすが神様。何でも分かるんだね」
アルフィリアは膝の上で少しキュッと手を握る。
余計なことを言って追い出されたくないリヴルーフェは必死になって何と声をかければいいか考えた。
すると、リヴルーフェが言葉を発する前にアルフィリアが問いかけた。
「……聞いてくれる?リヴィなら、死神様なら言わなくてもそのうちバレそうだし。それとも、もう知っているのかな?」
あまり面白味のない話だけど、とアルフィリアは少し苦しそうに苦笑いをする。
リヴルーフェは何だか少し、ほんの少しだけ、死神として、彼の兄を死なせてしまったのを申し訳なく思った。
せめて"源"の色がどんな色だったかぐらい教えてあげようと思い、死者の"源"の中から探す。
だが、リヴルーフェの検索にヒットしない。
もう一度検索し直した。
_____おかしい。アルフィリアの兄の"源"は死者の中になかった。
彼の兄以外の代々のサージェリー伯爵家の血筋のものばかりが検索に引っかかる。
つまりは、そういうことなのだ。
(アフィの兄は死んでいない)
ならば、生者の方で探せばいい。
だが、検索でヒットしたのは同じ血のアルフィリアだけだった。
リヴルーフェはそこである結論に辿り着いた。
(死者の検索で出てこなかったのは間違いじゃない。そして_____"生者の方にアフィだけが出てきたのは正解")
おそらく"源"の突然変異もこれが原因だ。
リヴルーフェは人間界に降り立つことになった元凶である目の前の"二人"を見る。
アルフィリアはいきなり押し黙ったリヴルーフェに軽く驚きながら何度か名前を呼ぶが、リヴルーフェからの反応は依然としてない。
(二人は融合、いや、正確にはそれに準ずるものをしている。胎児でもない人間が人と融合する手段として考えられるのは臓器移植。位置は_____)
リヴルーフェはアフィに鑑定をかける。
するとアフィの体の一部が光って点滅した。
(心臓_____)
リヴルーフェはアルフィリアの顔に向き直った。
アルフィリアは首を傾げてリヴルーフェを見つめていた。
「大丈夫?調子悪い?やっぱり神様も新しい環境には慣れが必要とか?」
「ん、ああ、大丈夫だよ。ちょっと考え事。それよりも、さっきのアフィの話の続き、聞かせて」
「……わかった」
アルフィリアは神妙な面持ちでリヴルーフェを見つめた。




