九十一話 続く、インタビュー
俺はナポリタンスパゲッティをフォークで巻きとりつつ、インタビューの続きを口にする。
「それで、初期スキルの次は武器の話だったか。確かに俺は、鈍器を武器にしている。つーか、メイスと戦槌を使ってる」
「メイスと戦槌ですか? 片手に一本ずつ持っている感じですか?」
「アホか。俺は次元収納スキル持ちだぞ。使ってないほうは、次元収納に入れているに決まってるだろうが」
「そういえば、そうでした。いやぁ、刀二本持ちの人って、それなりにいますから。鈍器二本持ちの人もいるかなーって」
なんとなく感じていたが、この江古田記者は典型的な『無能な働き者』タイプの人間だ。
正しく物事を考える頭がないうえに、やれと言われたことを言われた範囲を逸脱してまでやろうとする厄介者だ。
本来なら、こんな記者のインタビューなんて受けたくない。
しかし俺がイキリ探索者であることを大々的に喧伝するには、この手の記者が相応しい。
あることない事盛り込んで誇大気味な記事にして、俺のイキリ探索者具合を誇張して伝えてくれるだろうからだ。
「武器の話の次は――」
「いえ、待ってください。どうして鈍器を選んだんです? 探索者の多くは、手頃に手に入るうえに攻撃力も高い、刀を最初に手にするはずですけど?」
「確かに、十数万円で購入できる刀でも、トレントまでのダンジョンモンスターには不足なく通じる、コスパの良い武器だ。ダンジョンに稼ぎに来ている人なら、選ぶ武器は刀一択だろうよ」
「ならどうして、鈍器を?」
「逆に聞くが、どうして刀を選ぶんだ? 他にも武器の種類はたくさんあるだろう?」
俺の質問返しに、江古田記者は少し考える素振りをしてから答える。
「手作りの武器で簡単に手に入るから、ですよね?」
「実を言うと、日本の武道に関する武器の多くが、手作りであることが多い。弓道の弓と矢なんて、典型的な手作りだ。それこそ日本刀より簡単に買えるんじゃないか? 槍だって、穂先は日本刀づくりを応用すれば作れるだろう。どうして弓矢や槍を選ぶ奴は少ないんだ?」
「そういわれてみれば、どうしてでしょう?」
「おいおい、質問したのはこっちだぞ」
俺は苦笑しつつ、スパゲッティを一口食べる。
「もぐもぐ。まあ俺の考えを言ってしまうと、仲間と肩を並べて戦うのなら、日本刀が一番無難なんだろうな」
「無難、ですか?」
「弓矢は、扱う者の技量が求められる武器だ。満足に扱えるのなら日本刀より強力だが、現在の日本で動く的に百発百中に矢を当てられる弓道経験者なんているのか? 道場内で作法を守って弓を引いて放っても、的に中てられないのがザラだって聞くぞ? そんな命中不安のある武器を扱う人間を仲間に引き入れたところで、どれぐらいの活躍が見込めるってんだ?」
「弓矢は扱い難いので、ダンジョンで使う武器には選ばれなかったわけですね」
「槍は、初心者でも刀以上に扱いやすい武器ではある。しかし仲間と連れ立って使うには、少し難しさがある。横に並んで突いて引くぐらいは簡単にできても、その槍衾を超えてモンスターが懐に入ってきた際の対応は、良く訓練人じゃないと無理だろうからな」
「そうなんですか?」
「考えてもみろよ。槍ってのは柄が長いんだ。下手に振り回そうとすれば、近くの味方に当たっちまう。かと言って柄を短く持って戦おうとするなら、それは下手に絵が長い短剣を持つのと変わらない。つまり槍ってのは、初心者に門戸を広く開けている武器ではあるが、熟達するには難易度が高いって武器でもあるわけだ」
俺がネットで調べた知識を、さも俺が解明したかのように語る。
江古田記者は感心した様子をした後で、疑問を口にする。
「弓矢と槍の扱いが難しいのは分かりましたけど、刀はそうじゃないと?」
「刀の刀身はバットぐらいの長さで、柄を掴む手の位置もほぼ固定だ。つまり攻撃可能な距離は、弓矢や槍とちがって、ほぼ固定されている。その攻撃可能距離が固定されていることが、仲間と共闘するときに良い作用に働く」
「話の流れからすると、その距離の内側に踏み込まなければ、安全ってことですか?」
「仲間同士が適切な距離を持って戦えば、同士討ちの危険がない。それが日本刀を扱う長所だ」
現代の日本にある武道や格闘術は、基本的に個人戦を想定している。
だから、どれだけ武道や格闘に長じている人がいても、モンスター相手の集団戦闘となると素人同然でしかない。
仲間との連係を積み上げるためにも、同士討ちの心配がない距離を保って戦闘経験を積み上げることは、理に適った行いといえる。
「逆にだ。一人で戦う気でいるのなら、日本刀を選ぶ利点は少なくなる。遠距離攻撃で先制してモンスターを倒すのなら弓矢が良いし、距離を保ったまま戦うのなら槍がいい」
「そういう考えなのに、どうして鈍器を?」
「それなりの長さがある武器でありながら、整備の必要性が薄くて、買い替える必要がなくて長く使えるからだ。弓矢は矢の補充と弓の張り具合を、槍も穂先の切れ味の具合を気にしなきゃいけない武器だからな」
「雑に扱うには鈍器が一番ってことですね」
「……もう少し取り繕った言い方をしろよ。記者だろうが」
「えへへっ。正直者なもので」
喋りながらスパゲッティを半分食べ終えた頃、江古田記者の前に熱された鉄板に乗ったステーキが運ばれてきた。
メニューの表記によれば、百グラムであるはずのステーキ肉。
添えられたキャロットグラッセとベイクドポテトと比較すれば、そのステーキ肉の見た目はグラム数に合った大きさであると確認できる。
しかし、このステーキの焼き目の存在感と肉汁の香りは、こちらが受ける印象を実物よりも大きく感じさせてくる。
こんな風に俺が思わず目が引き寄せられてしまったように、江古田記者は目の前に置かれたステーキに目が釘付けだ。
「えっと、えっと」
取材と目の前のステーキのどちらを選ぼうと、江古田記者は迷う目つきをする。
俺は呆れ顔になると、身振りでステーキを食えと伝えた。
すると江古田記者は、一も二もなくフォークとナイフを手にすると、猛然とステーキを切り分け、切った肉片を口に放り込んだ。
「おはおおおおぉぉ。なにこれ、なにこれえええ……」
あまりの美味しさに一口で理性が破壊されたようで、江古田記者はステーキを食べきるまで「なにこれBOT」と化した。
これではインタビューどころではない。
俺は江古田記者の自我が戻るのを待つため、スパゲッティの残りを食べるべくタバスコと粉チーズをかけて味変した。




