七十九話 手早く調査
第四階層の深層域にて、三匹一組で現れるモンスターを倒しつつ、通路の奥を目指す。
目的は、マップに描かれた通路上にある宝箱の確認と、隠し部屋がありそうな道と道の間に大きな空間がある場所だ。
まずは宝箱の方に行ってみようと移動していると、マップに書かれている休憩部屋に近づいていることに気付く。
ここまでの道程で、俺は休憩部屋を一人でしか使ったことがなかった。
しかしこの第四階層深層域の休憩部屋は、多数の探索者が使用しているはず。
どんな風景になっているのかと、興味本位で足を向けてみることにした。
そして休憩部屋の出入口にさしかかり、部屋の中の光景を見て、俺は入ることを止めた。
部屋中に探索者が座っていて、中には寝転がっている者もいる。湧き水が出るくぼみは、湧きだす端からペットボトルに水を入れられる関係から、傍目には枯れているようにしか見えない。まるで路上生活者の巣窟のよう。
さらには、この場所の臭いがキツイ。
運動部の着替え場所のような、汗をかいた男性特有の獣臭さ。それと、汗を吸った防具が放つ発酵臭。さらには年齢層高目の人が発する加齢臭。それらの臭いを誤魔化すための、制汗スプレーや除菌消臭剤の臭い。
それらが入り交じり、もはや掲揚できない異臭となっていた。
こんな場所で休めるもんかと、俺は休憩場所から遠のくべく足を動かすのだった。
通路を進み、宝箱を確認すると、中身は空だった。
あの休憩部屋から近い宝箱だから、復活する端から取られているのは当然だろうな。
続けて、隠し部屋がありそうな空間を目指して進み、隠し扉がないかを調べていく。
移動と調査の間も、モンスターたちはやってくる。
それを倒し倒ししていると、ホブゴブリンのレアドロップ品の革鎧が落ちた。革紐で調節できるタイプで、成人男性が装着できる大きさだ。
日本では革鎧は需要がない。海外向けにオークションに出してもいいけれど。
「岩珍工房なら構造研究用に喜ばれるか?」
装備更新する際の値引きを期待して、ダンジョンの移動の際にモンスターを倒して手に入る革と共に送ることに決定。次元収納へ入れる。
隠し部屋がないか確認する作業に戻るが、目星をつけていた場所は、ことごとく空振りに終わった。
これで後は、四匹一組でモンスターが現れる通路を進み、深層域の行き止まりまで行って、マップ情報にない場所があるか確かめることだけ。
「戦闘が目的じゃないから、モンスターに出くわさないよう、気を付けて移動しようか」
俺は慎重に移動しつつ、誰もいない通路なら駆け足で通り抜ける。
深層域の奥へ奥へと進んでいくと、他の探索者と出くわした。
彼らは戦闘中で、六人でミドルゴーレム四匹と戦っていた。
三人が一匹ずつのミドルゴーレムを相手どり、残る三人がツルハシでミドルゴーレム一匹をタコ殴りにしている。身体強化スキルを使っているようで、一撃でミドルゴーレムの身体に大穴を開けることに成功している。
そうしてツルハシでミドルゴーレムを倒しきったなら、更に一匹ずつ撃破していく。
なかなかに手慣れた連携と戦い方なので、かなりのベテラン探索者なんだろうな。
俺は一度通路を引き返し、あの探索者たちがいない通路を進んで、深層域の奥へと進む。
そうした行動の果てに得られたのは、この深層域に限ってはマップの情報に偽りはなく、そして新たな隠し部屋は見つからなかったという事実だけだった。