三十三話 迷路状の通路を解明す
休日でカロリーと休息を補充したので、今日もまた東京ダンジョンの第二階層中層域にある迷路状の通路へ。
スマホ内のダンジョンアプリ。その地図に書き入れたメモを見ながら、開けた宝箱がある場所へ。
休日を一日挟んだので復活していると思って来てみたが、宝箱の覆いは開いたままだった。
「一階層の隠し部屋みたいに、一日で復活するわけじゃないみたいだな」
何日で復活するか気にはなるが、この宝箱から回収した物品を考えると、中身が復活しても不老長寿の秘薬が入っている確率は皆無に近いだろう。
それなら宝箱の復活を待つよりも、他の宝箱や隠し部屋を探してみるべきだろう。
俺は開いたままの宝箱から離れ、まだ探索していない通路へと足を踏み入れる。
魔物を倒し続け、通路を進み続け、分かれ道を選択肢続け、行き止まりに宝箱や隠し部屋がないかを探し続ける。
役所が提供している地図で未探索になっている――ダンジョンが出来てから二年間、訪れたであろう多くの探索者が探索を諦めた場所だけあり、通路は複雑怪奇に入り組んで広がっている。
そんな場所の探索が一朝一夕で終わるはずもなく、何日も日を跨いで探索する必要がある。
場所の入り組み具合と同じく、モンスターも厄介だ。特にモンスタードロップ品の収集が面倒くさい。
ゴブリンのミサンガやゾンビ犬の腐肉を捨て置くのは良いとしても、ゴブリンの短剣やゾンビ犬の毒牙、ミニゴーレムの石板とバックラーはそれなりの値段で売れるのだ。
それらを捨て置いて立ち去ろうとしても、道に数千円から数万円のお金が落ちていると感じて、どうしても拾いたくなってしまう。
そんな俺の貧乏性の所為もあり、この迷路状の通路の探索に、一ヶ月近くもの長い時間をかけることになってしまった。
「でも、ここに通い通した結果、十日に一度宝箱の中身が復活することが分かったけどな」
そうした発見もありながら、ようやく迷路状の通路の全貌を暴くことに成功した。
この場所は、元々判明していた第二階層の通路と同じぐらいの広さがあり、そして行き止まりの十五ヶ所に宝箱が配置されている。
それだけ広い場所のため、元々判明していた第二階層の通路に接続する部分が多々あり。場所によっては、少し遠回りで第三階層への階段への道を進みながら宝箱を回収するなんてことが出来ルートもあった。
ここではモンスターは二匹一組で出現し、通路内を巡回するものと、一定の地点に留まるものとで分かれている。不思議なことに、巡回型と定点型は敵対も協力もしないため、四匹同時に戦うという場面は起こらない。ただし、二匹倒した直後に連戦でもう二匹という事態はよくある。
ともあれ、全貌が明らかになったところで、俺は第二階層の全体図を改めて見直してみた。
そこで初めて、この迷路状の通路の場所で、不自然な空間があることに気付く。
まるで隠し部屋があるような場所が、一ヶ所だけ存在していたのだ。
「探索し忘れたか?」
行き止まりに出会えば、隠し部屋がないかを探した。だから、隠し部屋へ通じるためのギミックを見落としたはずがない。
不思議に思いつつ、その不自然な空間のある場所へと歩いていく。
その道中、少し道を外れて中身が復活した宝箱から銀貨と片手剣を回収する。
そうして辿り着いた場所は、やはりギミックのない行き止まりだった。
「この壁の向こう側に、隠し部屋があるはずなんだけど」
俺はメイスで周囲の壁を叩きながら歩き回り、普通の壁と違う手ごたえがないかを探す。
しかし残念なことに、音が違う場所はどこにもなかった。
「この行き止まりには接続していないのか?」
俺は通路を引き返しながら、メイスで壁を軽く叩いて回る。
そして通路を引き返し続け、隠し部屋のある場所に接する通路から外れかけたところで、メイスからの手応えが変わったことに気付いた。
メイスでゴンゴンと叩くと、パラパラと壁が崩れる。
俺は疑問に思い、普通の手応えの壁へ移動し、そこをメイスで殴りつけてみた。すると、その壁から破片は落ちなかった。
「こんな所に、隠し通路か?」
俺は崩すことの出来る壁の前に立つと、思いっきりメイスを叩きつけた。
一度目で小さなクラックが起こり、二度目で明確なヒビが入り、三度目でヒビがより大きくなる。
四度、五度、六度と叩きつけを重ねていき、十度目に助走をつけてメイスで殴ると、とうとう壁が崩落した。
隠されていた通路は、その奥にある隠し部屋へと真っ直ぐ続いている。
俺はメイスを構えながら、隠し部屋へと近づいていく。そして中に入る前に、中の様子を伺う。
モンスターはなし。部屋の中央にある宝箱一つ以外、他に物もない。
「ゲームだと、こういう場所は罠の可能性が高いんだけどな」
しかし宝箱の中身を確認しないわけにはいかない。
これほど巧妙に隠されていた部屋の宝箱だ。中身が他の宝箱と違っている可能性が高い。
それでも一応の用心のため、メイスの先で突くようにして、宝箱の覆いを開けた。
果たして、罠はなかった。
その事実に安堵しながら、宝箱の中を覗いてみると、コルクで栓がされたガラス試験管が三本と金貨が五枚入っていた。
試験管の中には、全量の半分ほど薄緑色の液体が入っている。
硬貨の方は、銀貨の見間違いかと拾って間近で見てみたが、明らかに金色のコインだった。図柄も銀貨と違い、ドラゴンフルーツのような果物と、老人の王様が掘り込まれている。
「これが金貨だとして、この試験管に入った液体は一体?」
俺の次元収納は、中に入れたものの簡単な内容が、俺の頭の中に浮かぶ仕組みになっている。
その機能に期待して、試験管を三本とも入れて、中身が何かを確認する。
「これは、治療薬――つまりはポーションか」
こうして中身が何なのかは分かったが、これ一本でどの程度の怪我まで回復できるのかは分からない。
それに俺が使える治癒方術のヒールとポーション、どちらが優れた回復能力があるかの比較もできない。
「でもまあ、虎の子の回復手段として、確保したままにしておこう」
次元収納に入れておけば、他人に俺がポーションを持っていることがバレる心配はない。
しかしながら、不老長寿の秘薬ではなかったか。
「試験管に入った水薬だったから、ちょっと期待したんだけどなぁ」
やっぱり、第二階層なんて低階層で出るような秘薬じゃないか。
俺は肩を落としつつ、迷路状の通路の全貌は分かったんだから、今日はダンジョンから引き上げることにしたのだった。