1/6
1
伯母さんが亡くなって、僕は彼女が残し
た家に住むことになった。
静岡出身の僕は大学時代に上京し、伯母
夫婦の住むこの家で世話になった。
子供がなかった伯母夫婦は、僕をとても
歓迎してくれた。
就職して数年経つと僕は独立し、住ま
いを変えたものの、盆や正月など年に
数回は必ずこの家を訪れた。
伯母さんは、学生時代の僕の部屋を
今だに手付かずで残してくれていた。
でも優しかった伯父さんが亡くなると、
その一年後、しっかり者の伯母さんも
後を追うように亡くなった。
◇◇
伯父さんの時と同様、伯母さんの葬儀
も身内だけですませた。
伯母さんの弟である僕の父は、葬儀が終
わって静岡に帰る時、僕にこう言った。
「啓太、この家の管理はお前に任せたぞ。
この家は俺が受け継いだが、いずれはお前
の物だ。千代子伯母ちゃんには小さい頃か
ら世話になったんだから、きちんとしてあ
げないとな。あの煩い犬も含めてな」
縁側で、フレンチ・ブルドッグが僕達に
向かって吠えていた。
伯母夫婦が数年前から飼い始めた雄犬だ。
褐色の短い体毛をしたその犬は、大きな
目玉を剥き出し、掠れた様な声で吠えて
いる。
不細工な犬だが、何となく愛嬌があって
憎めない風貌をしている。
醜いのに「ビューティー」と名付けられ
たその犬は、伯母さんによく懐いていた。
「…分かった」
僕は渋々頷いた。




