神銀と東方領土
怖くて試せない事がある。それは装備合成だ。同一種類で武器枠を埋めて表面上の装備として同じ武器を現在扱っている。新しい装備合成はこれら十個の同一種類の一斉合成なのだが、何が出来るか不安でしょうがない。モノによってはお蔵入りだし、表面上の装備が無くなるのも痛い。という訳で魔銀の両手剣を予備として購入し、早速試してみる事にした。レッツトライ。
【魔星金の両手剣×10を合成しますか。Yes/No】
もちろんYesだ。ちょっとだけ、いや、かなり勿体ないと思うけどYesだ。
【合成に成功しました。神銀の両手剣に進化しました】
おぉ…最早、伝説と呼ばれる神銀製の武器になるとは。神銀とは、魔銀のような魔力を帯びているだけでなく、強力な浄化の力を帯びている為、悪しき存在と言われる不死者すら倒す事が出来る金属だ。
浄化の力を扱うには神官系統の天恵が必要で、相当の修練を積まないと浄化系の力を扱う事は出来ないらしい。つまりそんな浄化の力が備わったという事だ。これは防具も期待して良いんじゃなかろうか。
【魔星金の全身鎧×10を合成しますか。Yes/No】
Yesだ。十個目の魔星金全身鎧を用意するために販売用と偽って魔銀掘りを繰り返していたと言っても過言ではない。
【合成に成功しました。神銀の全身鎧に進化しました】
これで呪いや呪術に強くなったらだろうか。もしかしたら神銀に進化してくれるかなという俺の淡い期待に応えてくれて本当にありがとう。流石は全装備様です。あとついでに神様もありがとう。俺はこれからも強く生きていけそうです。
さて、これで全装備内の枠が武器防具共に八つも空いてしまった。この空いている枠に何を入れるべきかというと、暗殺者どもから奪ったアクセサリーセットを投入したいと思う。属性防御と状態異常防御は高めておいて損はない。という訳で投入だ。
全装備内(武器防具それぞれ9枠)
■防具
・神銀の全身鎧
・防毒のアミュレット
・麻痺逃れのリング
・呪い返しのピアス
・精神耐性のサークレット
・業火の腕輪(熱耐性)
・轟雷の腕輪(雷耐性)
・凍土の腕輪(冷耐性)
・深淵の腕輪(闇耐性)
■武器
・神銀の両手剣
・魔銀の毒短剣
・大樹の短杖(火属性)
・風斬りの魔法弓(風属性)
・転写の魔像人形(呪・闇属性)
表面上の装備
・猩々革の全身防具セット
・魔星銀の両手剣
・各種魔道具
いやぁ、暗殺者たちの戦利品が多いね。あとは俺の魔力を吸収して進化してもらうのを待つとしよう。神銀も、これ以上の進化先を俺は把握していないので、歴史上で未発見の金属があるのならば更なる進化も期待できるのではないかな。
にしても、表面上は革装備の立派な両手剣使いなのに、その実情は…。
【1】毒・麻痺・呪い・精神異常耐性
【2】熱・雷・冷・闇属性耐性
【3】浄化の力による瘴気耐性
【4】パッシブ毒攻撃、闇・風属性攻撃、ダメージ転写による複数同時攻撃
【5】浄化の力による不死者殺し
と、中々の性能になって来た。本当に北の大地に居座って正解だったと思う。有難うオーランド卿。君が俺を暗殺しようと頑張ってくれたお陰で、今の俺は英雄の領域に足を踏み入れたよ。
気分が高揚しますと冷静に報告しそうな気分になりつつ、俺は次なる町へと進むために酒房を出た。もう旅程を半分以上は進んだから、暑くなってくる前には東の地へ辿り着けるだろう。色々と楽しみになって来た。
◇◇
東方領土を治める街モバリス。鬱蒼を生い茂る樹海の只中にあっても大勢の人が生活する、傭兵探索者が数多く活動している場所だ。魔境ある所に傭兵ありとは良く言ったもので、この地域には魔境専門で活動する傭兵が大勢いる。
街そのものが魔境の中にあると言っていい程で、少し町を離れて森を歩けば気付けば魔境に入っている何て事がザラだ。蒸し暑い森の中から急激に冷えた魔境に早変わりして背筋が凍る思いをした傭兵は数知れないだろう。
どんなところでも人は逞しく生きていけるという証のような街に、今、俺は足を踏み入れた。街に入って第一にやるべきは傭兵組合で仕事探しだ。現地部族との戦争も面白そうだけど、片手で数えられないくらいの魔境がある街に来たのだから、そっちの仕事を優先したい。まるでオモチャを与えられた子供のように心躍らせながら受付へと足を延ばした。
「よぉ、見ない顔だが、アンタも魔境目的かい」
「ああ、ついでに部族戦争にも顔を出すかもしれない。今はどんな仕事がある?」
「出兵依頼は一つだけだな。魔境の素材収集は数えきれん」
「じゃあ、出兵依頼に登録しておいてくれ。名前はダグレオだ。両手剣を使う」
「あいあい。ダグレオ、と。登録しておいたぜ。ホレ、持っていきな」
受付のオッサンから登録証の木製符丁を預かり、魔境仕事が掲載されている掲示板へと足を急いだ。パッと見でも依頼板の数が尋常じゃない。北の大地とは大違いだな。故郷の魔境も三つあったが、複数の掲示板を使って依頼を乗せるような事はしていなかった。それだけ数が多いと言う事だ。
良さそうな依頼を幾つか見繕い、受付のオッサンに相談してみた。同じ魔境の依頼を複数受けた方が効率がいい。異なる魔境の依頼を複数受けたら依頼の機嫌を超えてしまいそうだからな。決められた日数を超えたら依頼失敗にさせられちまう。そうなると真面な依頼を受けさせないって話になりかねない。それじゃあ困る。
依頼の出ていた採集物のある魔境の位置を大きな壁一面に描かれた地図を見て確認し、俺は満足げな顔で酒房探しに足を動かした。
◇◇
やはり魔境は良い。適度な緊張感と全身にみなぎる魔力の胎動がヤル気にさせてくれる。まるで魔境から元気を貰っているかのようだ。依頼の植物をせっせと小脇の小さなかごに入れ、採掘ポイントから魔銀鉱石を掘りだして大籠に放り込む。全て換金用だ。
時たま背筋が冷えると魔獣がコンニチワしてくる。今居るレイバの森に巣食うのは闇色をした蛇シシャーリクだ。胴体の太さが俺の太もも程もあり、長さは三メートルを超える。毒牙持ちで頑張れば成人すらも飲み込める魔獣だ。
魔星銀の両手剣を腰から抜いて構え、素早く突いた。俺の体が大きくなったのもあって、今や片手で扱えるようになった。背中に背負わなくとも鞘が地面を擦らなくなったのもありがたい。
ブスリと蛇の頭部に刺さった剣を抜き、首を落として皮を剥ぐ。内臓を掻き出して肉と皮だけにしたら持ってきた背嚢に入れた。これも良い金になる。蛇の肉って美味いんだぜ。
それから昼下がりまで採掘と狩りを続けて街に戻った。良い金になったぜ。
◇◇
街に滞在して数日。傭兵組合に足を延ばすと、部族との小競り合いが激しくなってきたからといった理由で傭兵の招集が掛かった。敵の数は大体数百で、森の中の戦闘になる。前回も二百人の部族と銛に潜みながらゲリラ戦を行ったらしい。北の大地とは大違いだな。
傭兵組合から出て集合場所へ向かうと、既に騎士が数名集まっていた。指揮役の騎士は最低限の数しか出ないらしいな。実際の頭数は傭兵で稼ぐようだ。
「最終防衛線は街の外壁だが、そこまで侵攻させるつもりは無い。アオンボ共を森の肥料にしてやれ!!」
「「「おぉ!」」」
短く叫んで士気を上げ、俺たちは森へと入っていった。アオンボってのは部族名らしいが、こっちが勝手に名付けただけの名前だろうな。実際には別の名前がありそうだ。
両手剣を脇から抜いて構えつつ森へと素早く入る。こっちに来て既に数日が経つが、この森には毎日のように入っているから、何処をどう通れば素早く移動できるのかは把握している。サクサクと森を進むと、視界の奥の方で青い肌の敵部族が現れた。という事は俺の姿もバレたという事だ。一瞬だけそいつと目が合った気がした。
「ホォァアァァァ!」
一人のアオンボが叫ぶ。敵発見の報告だろうか。周囲からも同様の声が返ってくる。応答の叫びだろう。水面に意思を投げ込んで出来た波紋のように、続々とアオンボが集まってくるに違いない。掛かって来やがれ。
木の根を踏み込んで一気に眼前の敵へ近づくと、敵の持った槍を一刀両断し、さらに踏み込み返す剣で脇の下から胸までを切り裂いた。ここまで一秒かかってない。
化け物染みた動きだと自嘲しつつ、次々と襲い掛かる敵に素早く対応していった。どいつもこいつも槍、槍、槍。どうやら彼らは石器時代の中に生きているらしい。腰蓑を巻き、木製の槍で俺達に殺し合いを挑もうとは片腹痛い。
「そんなんじゃ女子供も殺せねえぜ!」
「ふぐっ」
肩口から腰に掛けて剣を通すと、集まって来た最後のアオンボを仕留めた。計十三名、黄泉送りである。腰のポーチから針と糸を取り出し、アオンボ共の耳を切り取ってひと繋ぎにして討伐証明とする。まぁ、趣味が悪いと思われるだろうが、一々首をぶら下げて動くよりは遥かにマシだろう。
今回の戦はこれで終わった。俺が立ち回っている間にも他の面々が戦果を上げていたらしい。襲ってきたアオンボの数は総数173人。その内13人を俺が仕留め、今回のMVPとして酒を奢ってもらった。やったぜ。