表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/38

秋めいた恋1

本格的な秋がやってきた十一月。ここ『お人形ランド!』では特にイベントはなく、展示されている人形が秋に似合う服装をしているだけだった。


『お人形ランド!』の羽織を羽織った袴だけの男神ブンちゃんはハリボテな神社前で奇っ怪なダンスを踊っていた。


「ちょ、ちょ……ブンちゃん、なにしてるでごじゃる?」

「あー……この言い回しは……リンネィか?」

ブンちゃんは一時ダンスを中断すると床に目を向けた。長い黒髪がウェーブしている手のひらサイズの少女が着物姿でブンちゃんを見上げていた。


「そうでごじゃるが……そのヘンテコダンスは……」

少女ドール、リンネィは笑いを押し殺した顔でブンちゃんに尋ねた。


「ヘンテコだと!こっちは必死なんだぜ!」

「何が?」

「雪虫が入ってきちゃったんだ……」

ブンちゃんはため息混じりにそう言うと再び変なダンスを始めた。


「……雪虫ってすごいちっちゃな虫だった気がするでごじゃるが……」

「いっぱいいるんだよ!なぜか!」

ブンちゃんが嘆くのでリンネィも目を凝らせて見ると白い小さなボンボンのようなものが多数飛んでいた。雪が舞っているように見える。羽がある感じが虫なのだが。

この虫は雪虫という。寒くなるとよく飛んでいる虫だ。


「なんでこんなに……?」

「知らねー!!ここ、建物ん中だぞ!!」

ブンちゃんはどうやら一匹ずつ捕まえて外へ返す気でいるらしいが一匹たりとも捕まえてられていないらしい。その動作が変な踊りと勘違いされている。


「あれ?ブンちゃん、変な踊りだわねん」

「動きが斬新でござい!!」

リンネィが現れてからすぐに二つの少女の声がした。


「ああ、シャインにムーンでごじゃる」

リンネィがとりあえずブンちゃんに二人が来たことを伝える。

シャインは金髪のフランス系なドールだが量産されているシリーズもののドールで子供用玩具だ。ムーンも同じシリーズだ。ちなみにリンネィも「おともだち」シリーズとして売られている人形だ。


「で?ブンちゃん、なにダンスしてるのん?蟹ダンス?」

シャインが美しい金髪の巻き毛を払いながら尋ねた。


「蟹ダンスって……ダンスじゃねーの。雪虫が……」

「わあ……きれいでござーい!雪みたいでござーい!!」

ブンちゃんが最後まで言い終わる前にムーンが小さな手を伸ばして雪虫に触ろうとする。雪虫はムーンの手を避けていった。


「で……?なんでこんなにいっぱい……」

「知らねぇよ……俺が知りたい」

「冬が来ているでごじゃるねー……」

ムーンが尋ね、ブンちゃんが答え、リンネィがまとめた。まあ、とりあえず、雪虫は冬が近づいているのを知る秋の風物詩。つまり冬が来ているから雪虫は現れた。なぜ神社に大量発生しているかはわからないが。


「雪みたいできれいじゃないのよん。そのままでいいわよん。それより『お願い』入ってたわよん」

シャインがどうでも良さそうに『お願い』の紙を差し出す。『賽銭箱』が『お願いボックス』に変わってから全くデジタルではなくなった。前は願いをデータ化して転送したりしていたが今は紙にお願いが書かれる。神としてはなんだか寂しくもあるが仕方がない。


「『お願い』入ってたんだな……。十一月は閑散としてるから油断していた……」

ブンちゃんはシャインから紙を受けとると読み始めた。

「ふむふむ……初恋の人に告白したいと……すればいいじゃねぇか……」

ブンちゃんはため息混じりに呟く。


「できないんでしょ?勇気をくださいって書いてあるわん?ちなみにもう一枚同じ紙が……」

「え……がめついやつだな……」

シャインがもう一枚同じ内容が書いてある紙を差し出した。ブンちゃんは同じ人が二枚『お願い』を入れたのかと思ったがどうやら少し違うらしい。


「初恋の人に告白したいと言っている妹に勇気をください……か。微妙に違ったな。ははっ!勇気をくださいと言ってた方は妹で……じゃあこっちの紙は兄か姉か」

「ブンちゃん……ブンちゃん……」

ムーンが紙の下をトントン叩いて何かを気づかせようとしていた。

「あ?なんだ?」

ブンちゃんが目を紙の下に向けると名前が書いてあった。


『神田さくら』


「……なっ!?かんっ……かんだぁ!?」

ブンちゃんはすっとんきょうな声を上げる。


「従業員の神田さんの妹が告白の勇気をくれと言っているでござい!そして姉である神田さんは妹に勇気を与えてくださいと言っているでござい!」

呆然とするブンちゃんにムーンが丁寧に説明してくれた。


「よりによって神田……。そして神田の妹……。きっとまともじゃない……」

「失礼だわよん。妹さんはまともかもしれないじゃないのん!」

「どうだか……」

シャインの言葉にブンちゃんは頭を抱えた。


「とりあえず、勇気を出させればいいでごじゃるな?」

リンネィは少しだけやる気を出すとパンチをシュッシュッと繰り出した。


「勇気を出すならこっちは思いっきりぶつかるだけだわねん!」

「ちょっと待て……そんな感じで平気なのか……」

ブンちゃんが止めるもシャインはいたずらに笑いながら神田の妹の世界を出した。


「冒険でござーい!」

ムーンはいち早く世界に走り去っていった。

「お……おーい……大丈夫なのか……」

ブンちゃんは色々と心配するが三人はお構いなしに世界に入り込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ