ハロウィンの恐怖2
イチとロク、そしてみぃこは願いごとを書いたらしい男側の世界に入り込んだ。
「ほー……」
ロクはてきとうに息を吐いた。
世界はドクロやら変な模型やらが散らばってる墓場な世界だった。
空はイラストのような紫色、木も真っ黒な影のようだ。
この世界では人形は人形の大きさらしい。ドクロのオブジェと比べると人形達は小さい。
「んだ、このしんきくせーとこは!」
イチはドクロの真っ黒な目玉付近を覗き込みながらぼやいた。
「ねぇ、ちょっと兄貴!みぃこがいないんだけど」
「ああ?」
ロクの言葉にイチは辺りを見回した。確かにいない。
一緒に来たはずなのだが。
「あの女、どこいきやがった?」
「兄貴、なんかチンピラみたいだよ?そのセリフ」
いまいち緊迫感のない会話をしながら二人はダラダラと歩きだす。
どこまで行っても西洋風の墓場で真っ黒なコウモリと気味の悪い三日月とドクロのオブジェが続く。
「てか、ハロウィンだ!」
「どうみてもそうだね。ちょっと『ちゅーに』風だけど」
さらに進むと突然男性が飛んできた。魔女帽子に黒い外套、白いワイシャツに黒いズボンを履いた変な男だった。
「やあ、いらっしゃい。てめーらは誰だ?この墓場になんの用だよ?返答によっちゃあぶっとばすぜ」
男はなんだか大げさな動きで不気味に笑っていた。
「ていうか……」
ロクは呆れた顔でイチを見る。イチもため息交じりにロクを見た。
「かぶれてんな」
「かぶれてるね」
よく見ると彼は子供臭さが残る顔つきをしていた。大人の階段を上り始めたばかりの雰囲気だった。
「……ああ、こいつだ。世界の主」
イチはうんざりした顔でロクに目を向けた。
「だろうね。中学生かな」
「ぶつぶつ言ってんじゃねーよ!返答によっちゃあぶっとばすぜ……」
少年はなぜかこのセリフが好きみたいであった。
「おうおう、やってみやがれ!チビだからってナメんな!コラァ!」
イチはわかりやすく少年に絡んでいた。
「うわー……どっちもめんどくさい……」
ロクはやれやれと首を振る。
知らぬ間に戦闘になっていた。恐怖心を与えるのはどこにいったのか。
しかも魔女帽子は関係なく少年はイチとチャンバラを始めていた。
「……ただの不良の喧嘩じゃないか……これ」
ロクはため息をつきながら近くの墓石オブジェに腰かけた。
しばらく少年とイチのチャンバラを眺めていたが突然に大地が揺れたのでロクは立ち上がった。
「なんだ……?今の……夢の中なのに地震?」
ロクはイチに声をかけようとしたが二人の後ろにいる大きな「影」に口を開けたまま止まってしまった。
「チビのくせにやるな!人形め!……ってなんだありゃ!?」
「デカイのに俺も倒せないのか?……ってなんじゃありゃー!?」
少年とイチも異変に気がつき後ろを振り返った。二人のすぐ後ろに巨大なハロウィンカボチャが佇んでいた。くりぬかれた目の部分は赤く光っている。なぜか手足があり気持ち悪い感じだ。
「気持ち悪っ!」
少年がクネクネ動くカボチャを気味悪そうに見つめた。
「こいつがーどーなってもーいーのかー」
ふと一本調子な女の声が聞こえた。この声は聞いたことがある。
「……みぃこだ!!」
「待って!兄貴!あのカボチャ、手になんか持ってる……」
みぃこは置いておいてイチはカボチャの右手に握られているものを見た。
「あれは……」
「はるか!!」
イチが目を凝らしていると少年が先に叫んだ。
「はるか……?」
ロクが見たところ、カボチャが女の子を掴んでいるようだ。
「リュウセイ!なんかカボチャに拐われた!」
明るい茶色の髪をした少女はカボチャオバケから出ようとするが出られなかった。
「あの子!少年の彼女だ!なんで少年の世界に彼女が……」
「みぃこだろうよ……どうみても」
イチはうんざりした顔でカボチャを見上げた。
「……あー、あいつ、いないと思ったら夢を見ていた女の子の世界に入って女の子を拐ってきたんだね……。カボチャはみぃこの能力か」
ロクも呆れた顔でイチと同じくカボチャを仰いだ。
みぃこには特殊能力がある。
入り込んだ世界にちなんだ物を変形させて操れるという能力だ。
彼女は女の子を拐った後にカボチャのオブジェを気持ち悪く改造したようだ。
「リュウセイ!助けて!」
「はるか!!くそっ!なんだ、あれ!!」
叫ぶ少女に叫ぶ少年。
「この女の子、食べちゃおー」
それに呑気なみぃこの声が重なる。
「や、やめてくれー!!はるかは関係ないんだ!!」
何が関係ないのかわからないが少年はひどく戸惑いながら巨大なカボチャを蒼白な顔で見つめていた。
「ふふ、よーやくわかったよーだねー……。お前も罰をうけろー」
「いやああ!」
みぃこの声に少女の叫びが重なる。カボチャは少女を乱暴に振り回し凄まじい瞬発力で少年に突進してきた。
「はっ、はるか!うわっ!」
少年は震えながらカボチャから逃げている。それをイチとロクはぼんやり眺めていた。
「……あいつ……やりすぎだよな?」
「やりすぎだね」
あいつとはみぃこの事だ。みぃこはどこにいるかわからないが声のみが拡声器のように響いて聞こえる。
「おそらく少しだけ恐怖を与えるってのと恐怖を植え付けるってのを間違えてんな」
「だね……」
イチにロクはため息混じりな相槌を打った。
みぃこはさらに暴走している。
少女は半分気を失っており、少年は一方的に虐められていた。
「あいつ、なんで加減をしらねーんだろーな?そもそもあいつ、どこから来た人形なんだよ?」
「さあね……とりあえず、助ける?」
「だな……」
てきとうな会話を終わらせてイチとロクはみぃこを倒すべく動き出した。
少年はカボチャに踏まれる寸前で半泣きで震え上がっていた。
「ひぃいぃん!」
「なっさけねーな!!」
そこへイチが素早く割り込みカボチャの足をつまようじで弾いた。
「つ……つまようじでデカいカボチャの足をっ!?」
少年は目を白黒させながら叫んでいた。
「いいから早くこっちに」
ロクは少年をカボチャからいったん離した。
「お前も戦うか?それとも逃げる?」
イチが意地悪そうな顔を向けて少年に尋ねた。
「戦う!!」
少年はイチを睨み付けると震える声で叫んだ。
「よーし!じゃあカボチャ倒してカノジョ救うぜ!」
「おう!」
それから少年は自分の世界にある物を操りカボチャに攻撃を始めた。イチもロクもつまようじで斬り込む。
カボチャの足が辺りを凪ぎ払うが少年が素早く多数のハロウィンオブジェを操り防御した。
その間にイチ、ロクが足を狙ってカマイタチを起こす。
足を攻撃されたカボチャはバランスを崩し尻もちをついた。
「いまだ!くらえー!」
少年はやや情けない声で何やら呪文を唱えた。
「迷宮に潜みし闇の王よ、我に力を与えたまえ!闇魔法、ブラックハーベスト!!」
「……なんだよ、そりゃ……いみわかんねー……」
「臭いな……」
イチとロクは呆れた顔のまま謎の呪文を聞いていた。
少年が呪文を唱えると再び世界が揺れた。
カボチャの影の方から黒い手がいくつも出て来てカボチャを捕らえ、黒い手はカボチャをどんどん飲み込んでいく。途中で怖くなったみぃこはさっさとカボチャから去っていった。操縦者がいなくなったため、カボチャは握りしめていた少女を離した。
「きゃああ!!」
少女は叫び声を上げながら謎の闇魔法の方へ落ちていく。
「ヤバイ!」
少年は恐怖心を取り去り、ただ無我夢中で少女に向かい跳び跳ねた。
世界は少年に味方するように風を起こし少年を少女の元へ運ぶ。
「はるかぁ!!」
「リュウセイぃ!」
二人は闇に飲まれる寸前のところでお互いを抱きしめた。
そのままカボチャを飛び越え反対側に着地する。
「はるかぁ!」
「リュウセイぃ!」
二人は再び熱い抱擁を交わした。
「……てゆうかさ……これなに?」
「なんだろうな……戸惑いしかねぇよ……」
ロクとイチはお互いを見やり、眉を寄せながら首を傾げた。
そもそも何をしにきたんだか。
「なんか感動ものになってね?ホラーだったはずなんだけど」
イチがぼんやり言葉を発した時、カボチャは気色悪い声を発しながら黒い手に引きずられて消えていった。
「てか、ほんとなにしにきたんだっけ?」
ロクが頭を抱えていると世界が崩れ始めた。ジグソーパズルが剥がれるかのように世界が剥がれていき、剥がれた場所から宇宙空間が見える。
「終わりだな……」
「みぃこがいないんだけど……」
「あいつは大丈夫だろ」
イチはうんざりした顔でロクに目を向けた。
「じゃ、帰るかー……」
イチとロクは世界が消える前に元の世界へと帰っていった。




