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月夜のイケメン1

中秋の名月……。

「ほー。見事な月だな」

ブンちゃんは従業員の手作りである黄色い張りぼてボールを眺めた。

ちなみにブンちゃんは月に感動しているわけではなく「よくやるなあ」の意味でこの言葉を発している。


数少ない従業員達は一生懸命にお月見イベントの準備をしていた。

ここ『お人形ランド!』はドールの展示をしている施設だが展示だけでは人が来ない。

故に色々なイベントをやる。


ブンちゃんでさえ、ここの集客目的で作られた神様だ。


賽銭箱は子供向けになぜか「お願いボックス」なるものになっていた。

最近クチコミで「願い事が夢で叶うような気がする」のようなかなり曖昧な評価が多く寄せられるようになった。


ブンちゃんはおもしろいものでも見るようにショッキングピンクの鳥居に体を預け従業員達が忙しなく動いているのを見ていた。


「よっ!元気してるよのさ?」

ふと下から声が聞こえた。

「あー……」

ブンちゃんは目を下に向けた。


だいたい下から声をかけてくるのは九十九神のように動くドール達だ。


「雪子だわよ。おもしろいもん見せてあげるよのさ」

雪子と名乗ったピンクの髪をした手のひらサイズの少女ドールが従業員のスマホを一台引っ張り出してなにやら検索してブンちゃんにかざした。


「ぶっ……」

ブンちゃんはおやつで団子をモグモグ食べていたが思わず吹き出してしまった。

画面にはかわいい女の子のイラストが描かれており「ブンバボンバだよ!お人形ランド!の守り神!」とSNSで拡散されていた。


誰かがブンちゃんを妄想で描いたらしい。布が少な目で踊り子のような見た目だ。


「いーやーだぁあぁ!!」

ブンちゃんは悲鳴を上げて悶えた。


「私達に任せてばっかだとこうなるわよー」

「……ちっ。わーったよ……。今回は俺が動くよ……」

ブンちゃんはため息をつくと残りの団子を口に入れた。

ちなみに神様は人間の想像により姿形を変える。この妄想が形になってしまったらブンちゃんは突然女の子になったりするのだ。


「はいはーい!あたしが説明する!!」

突然元気な声が会話に割り込んできた。

「うぐ……」

ブンちゃんは喉に団子を詰まらせ胸付近を必死で叩いていた。


「……うるこ……」

雪子がめんどくさそうな顔で話しかけてきた本人を見た。

雪子と同じくらいの身長で金髪の少女だ。青いワンピースを着ている元気な雰囲気の少女、うるこだった。


「ねー、ねー、ちょっとー!せつめいー!!」

うるこは苦しんでるブンちゃんの背中をちょんちょん叩いていた。


「あ、お水どうぞー」

今度は呑気な男の声が響いた。

ブンちゃんは確認している余裕もなくコップに入った水を受けとる。

いっきに流し込んでから水をくれた者に目を向けた。

二十七センチの男性型アクションドール、いつよしくんだった。

シルクハットにスーツを着ている。


「あ、ありがとう……いつよしくん……」

ブンちゃんは青い顔でお礼を言った。

ちなみにどうでもいいのだが「いつの間にか良いシーンが描ける」でいつよしだ。


「ねー!ねー!せつめいー!」

またもうるこが大きな声で叫ぶ。

「だあ!うっせぇな!なんだよ……」

ブンちゃんは不機嫌そうにうるこを見た。


「説明!」

「さっきから説明ってなんだよ……」

「従業員の女性がお願い入れてった!ブンちゃんに関しそうな感じ!」

「へ?従業員の女が?」

ブンちゃんは首をかしげた。

うるこは紙切れ一枚をブンちゃんに渡す。


「ん?……ここの神様が和装のカッコいい感じになりますように……って余計なお世話だ!」

ブンちゃんは怒りに震えながら紙をお願いボックスに投げ入れた。


「待つよのさ……」

「ああ?」

雪子が投げ入れられた紙を再び拾ってニヤリと笑った。


「この女性の夢に出てイケメンアピールすれば何か変わるかもよのさ」

雪子の言葉にいつよしくんが笑いながら楽観的に手を叩いた。


「ああ、そりゃあいいですねー。やっぱり女の子の施設ですからイケメンかかわゆい少女じゃないとダメなんですかねー?」

「……イケメンか……」

ブンちゃんはコシミノ一枚の自分の格好を見つめながら決心したように頷いた。


「なに頷いてんのよさ?」

「俺、今回は動く!」

「お!ついにブンちゃんが!」

うるこが目を輝かせて飛び上がった。


「では、僕はブンちゃんになりきってここにいますー。一回やってみたかったんすよー」

いつよしくんはひらひらと手を振りながらブンちゃんの社内に入っていった。


「あ!おい!コラー!勝手に……」

ブンちゃんはため息をつくと雪子とうるこを眺める。

「なによのさ?」

雪子が視線に気がつきブンちゃんに尋ねた。


「あ、俺さ、人間の感情を映す鏡である人形とは違うから夢に入れなかったりすんじゃね?」


「そりゃあ、大丈夫よのさ。『願い事が夢で叶うような気がする』って思われてんでしょ?」

「んまあ……そうだが……」

ブンちゃんは不安げな顔をしていたがうるこに強引に引っ張られた。


「うお!?」

「いくよー!」

「ちょっ!心の準備があ!!」

うるこは小さいながらの怪力だ。手のひらサイズの人形にブンちゃんは抱えられて『女性の世界』へと入っていった。

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