海に行きたい!2
世界に入り込んだはーちゃんとメイちゃんを襲ったのは水だった。
「がぽぽ!?」
「んがが!?」
二人は海の中にいた。
なぜ海かわかったかというと単純にタコやイカなどの海の生物がいたからだ。海草が下の方で揺れておりイソギンチャクの隙間から魚が顔を覗かせていた。
「がぽぽー!し、しぬぅー!!」
「ん?ま、待ってください!息ができます!!」
「あ……」
メイちゃんの言葉ではーちゃんは水中で息ができることに気がついた。
「てかー、なんで息できるのー?」
はーちゃんは落ち着きを取り戻し首をかしげた。
「依頼主の心の世界!夢だからでしょう!!」
メイちゃんは胸を張って自信満々に答えた。
「あー、そーかー」
納得したはーちゃんはうんうんと頷いた。
状況を確認するために二人は少し泳いでみることにした。
泳いでいるとなかなか心地よい。
「気持ちいーなあー。あー、黄色のお魚だー」
はーちゃんの横を素早く黄色い魚の群れが去っていく。
「……ちょっと待ってください!依頼主はどこでしょうか!?」
メイちゃんがどこまでも続きそうな海の中で叫んだ。
「まあー、こんな中で探すのは骨がおれますなー」
はーちゃんはとことん呑気に笑う。
「んむー!」
メイちゃんは通りすぎるタコを睨み付けながら唸った。
「あー、みてみてー!あれはアジだー!いっぱいー」
はーちゃんは後ろからついてきていたアジの群れを指差した。
「……ちょっと待ってください……」
メイちゃんは通りすぎるアジを見据えながらつぶやいた。
奥から黒い影が見える。
かなり大きそうな魚影だ。
だんだん近づくにつれてメイちゃんは悲鳴を上げた。
「ぎょえー!!」
「んー?魚影かー」
「違う!違う!はーちゃん!逃げますよ!!」
呑気なはーちゃんを引っ張りメイちゃんは必死で泳ぎ始めた。
後ろからギラリと牙が覗く。
「おー、サメだー」
はーちゃんはやっと追ってくるものに気がついた。
かなり大きなサメがはーちゃん達を飲み込もうと口を開けている。
「おー、じゃありません!!食べられちゃいますよ!!」
メイちゃんが半泣きで泳いでいると突然に笑い声が聞こえた。それも多数だ。
「……んー?人がいるー?」
はーちゃんは辺りを見回すが人のような影はない。
「……あ!アジ!!」
気がつくと前を泳いでいたアジに追い付いていた。
アジの群れに入った時、多数の笑い声が聞こえてきた。
「な、何!!どこから声が!?」
「メイちゃんー、アジがいっぱい笑ってるよー。おもしろいねー」
「へ?」
はーちゃんの呑気な発言にメイちゃんは口角をぴくつかせながら辺りをうかがった。
目を疑いたかったが魚の群れが笑っていた。
「な!?さ、魚が笑ってる!!怖い怖い怖い!!」
普通だったらかなりのホラーだ。
動揺と不安に襲われているメイちゃんがふと前を向いた時、男の子と目が合った。夢の中にいるのに夢なのかと思ってしまうほどの衝撃だ。
魚の中に人間の男の子がいる……。
「おー?新入りだ!!皆!鬼ごっこだ!!いぇー!」
なんだかアゲアゲな男の子は魚達を操り、メイちゃん達を視界に入れながらサメに話しかけていた。
「お前、ほんとにずっと鬼でいいのか?」
サメは男の子の言葉に楽しそうに頷いた。
「よーしっ!じゃー、いっくぜー!あー、お前らも追い付かれたら食われんぞー!」
男の子とアジはメイちゃん達に一言言うと楽しそうに泳いでいった。
「え!?ちょっ……」
「あれが依頼主かー。元気だなー。サメはあの子の友達だったのかー」
はーちゃんがぼんやりつぶやくとサメが動き出した。どうやら十数えていたらしい。
「どういうことですか!?」
「まー、とりあえずー逃げる?男の子を追いかけないとー」
「え、ええ……」
二人が逃げようとした刹那、サメの後ろからもっと大きな魚影が映った。
「ひぃやー!!で、で、デカイ!!」
「んー……なーんかおかしいなー」
怯えてひっつくメイちゃんをよそにはーちゃんは近づく魚影を見据えた。
今度の魚影はサメ型のロボットだった。
「ろぼー!?」
「メイちゃんー、あれのがやばいよー」
はーちゃんがつぶやいた刹那、サメ型ロボットのヒレがパカリと開きミサイルのようなものが勢いよく飛んできた。
「ひぃー!」
メイちゃんははーちゃんを引っ張り再び逃げる。
後ろにいるロボットじゃない方のサメも楽しそうに追いかけてきた。
「なんかサメも追いかけてくるぅ!!怖いー!!」
「まずー、ミサイルみたいの弾こうー」
はーちゃんは涙目のメイちゃんを他所に手から西洋の盾のようなものを出した。
「ちょっ……鉄は重いんじゃ……」
メイちゃんが言った側からはーちゃんは「あーれー」と底に沈んでいった。
「なんでこのタイミングでそんなの出すんですかー!」
メイちゃんは文句を言いつつ薄い強化ガラスのような結界を作り出しミサイルのようなものを弾いた。
ミサイルは弾かれて海面に出ていった。
「はあはあ……」
「おー、メイちゃんありがとー」
「お礼を言ってる場合ではありません!男の子、追いかけますよ!!」
メイちゃんは肩で息をしつつ、のんびりしているはーちゃんを引っ張った。
そんな事をしている内にロボットのサメは緑の光線を発してきた。
「うう……海の中だから上手く避けらんなーい!!」
メイちゃんが叫ぶ中、はーちゃんが結界で光線を弾く。
なぜか水の中でも地上と同じようにできるものもあるらしい。
「光線だ……かっくいー!!」
気がつくと側に男の子がいた。
なぜだか目を輝かせて興奮ぎみに見ている。
「鬼ごっこじゃなくてチャンバラにへんこーだ!!」
男の子は手から光線銃を取り出した。
「……チャンバラどこいったー……」
はーちゃんが呆れているとサメロボットがさらに光線を発してきた。
「おりゃ!おりゃ!」
男の子は光線銃を発射し飛んでくる光線を弾いた。
「すごい命中力だー」
はーちゃんが驚いているとサメやらアジやらが集まってきた。
サメが男の子やメイちゃん、はーちゃんに触れようとしてくる。
「まだ鬼ごっこ継続中でしたか!!」
「鬼にタッチされたら退場な!!」
男の子はいたずらな笑みでそんな事を言った。
つまりサメを避けながらサメロボットを倒すということらしい。
だんだんわけがわからなくなってきた。
「そんなことできません!!」
「じゃ退場な!」
「ま、待ってください!頑張ります!!」
メイちゃんは男の子に必死に食らいついた。
「じゃいくぜー!手からも光線だー!」
男の子は右手を開き、何かしらのエネルギー体を発した。
サメロボットはシールドを出し防いだ。サメははーちゃんとメイちゃんにタッチしようとオビレを動かしてくる。
わけがわからないごちゃごちゃな状態だ。
「サメがタッチしてくるのもほんとわからないー!!」
メイちゃんは半泣きで結界を張りつつ逃げる。
この夢の主が鬼である「サメは攻撃、防御ともにすり抜ける」としたようだ。
防ぐこともできない。
「いけーいけーサメちゃーん……」
ふと誰の声でもない声が小さく聞こえた。
「ん?」
はーちゃん、メイちゃんは耳をすませる。
「いけー、電撃光線ー」
またもサメロボットの方から小さく声が聞こえた。
「誰かサメロボットにいるー?」
はーちゃんは直線に飛んできた光線のようなものを結界で弾きながらロボットの方を凝視した。
「あ!あれはみぃこです!!」
メイちゃんはついにロボットの上にいる小さい人影を見つけた。
サメロボットの上にいたのは巫女衣装を着た黒髪の少女ドールだった。
「なんでみぃこがー?」
「彼女もこの少年の願いを聞いてあげるためにここに来たのでしょう!みぃこは個人の『世界』で想像物を使って好きに想像物を変形させて操れるんですよ!特殊な能力持ちです!!だからあんなわけわからないロボットが現れたんですね!」
「なるほどー」
はーちゃんはメイちゃんの説明に納得して頷いた。
「みぃこがロボットに乗ってるならみぃこが作ったものです!ぶち壊しても大丈夫!!」
「よしゃー」
メイちゃんとはーちゃんは突然強気になると手から大剣を出現させ、魔法のようなものを放ち始めた。
「プリチーハートぉ!」
「なんだそれー!?」
メイちゃんが謎の呪文を唱えた。
ハートのようななんだかわからない固い物が複数現れてロボットに向かって飛んでいった。
「全然プリチーじゃないねー」
苦笑いのはーちゃんは大剣を光らせつつロボットに斬り込んだ。
「光輝く美しき剣よ、雷鳴の如く轟け、我に力を与えたまえー!ブレイブサンダーあああ!!」
「ダッサ!!『ちゅうに』過ぎますよ!!」
メイちゃんの言葉をよそにはーちゃんの剣から横一線に雷が飛んだ。
変な石のような固いやつと謎の雷がロボットを容赦なく襲う。
「ぎゃあー……てったーいー」
みぃこは小さくまたつぶやくと爆発したロボットから慌てて逃げていった。
「ふー、倒したー」
はーちゃんが一息ついているところへ今度は鬼ごっこ途中のサメが乱入してきた。
「……しまっ……!!」
メイちゃんが叫んだものの、もうすでに遅く、はーちゃん、メイちゃん共にタッチされてしまった。
「あー、お前らタッチされてやんのー!じゃあ退場だ!約束だったしなー!!じゃーな!!あははは!」
男の子はゲラゲラ笑いながらサメやアジ達と共に高速で消えていった。
「げっ……」
二人が気がついた時には体が透けており、強制的に世界から追い出されていた。
「うそー!!まだ何にも解決してないのにー!!!」
メイちゃんの叫びを最後に二人は光の球となり弾けて消えていった。