11 決別と旅立ち
王都の謁見の間は、金色に輝いていた。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが魔石の光を放ち、赤い絨毯が玉座まで伸びている。壁には王国の紋章が掲げられ、両脇には文官や武官が整列していた。
その全員が——グレイに向かって、頭を下げていた。
玉座に座る国王が、身を乗り出した。初老の男。金の冠と紫の外套。
「グレイ殿。このたびの大魔族討伐における功績は、王国始まって以来の偉業である。褒賞として、騎士団長の地位と——この国宝の魔剣を授ける」
従者が、豪華な箱を捧げ持って進み出た。箱の蓋が開かれると、中には一振りの魔剣が横たわっていた。白銀の刀身に青い光が脈動し、精緻な彫金が施された柄には大粒の宝石が嵌め込まれている。
国宝級の魔剣。王家に伝わる最高峰の一振り。
グレイは、箱を見下ろした。
ゆっくりと手を伸ばし、魔剣の柄を握った。
持ち上げた。
——軽い。
あまりにも軽い。魔力による重量軽減で、羽根のような重さしかない。ダグラスから渡された鉄剣の十分の一もない。
グレイは、魔剣を箱に戻した。
「軽すぎる」
あくび混じりに、言った。
「これでは素振りの役にも立たない」
謁見の間が、凍りついた。
文官たちが目を見開き、武官たちが絶句した。国王ですら、口を開けたまま固まっていた。
「騎士団長の地位も辞退する。窮屈だ」
グレイは一礼した。最低限の礼。媚びも、卑屈さもない。
「失礼する」
踵を返した。赤い絨毯の上を、来た時と同じ歩幅で、まっすぐに歩いた。
誰も——止められなかった。
◇
王都の北門を出た時、噂話が耳に入った。
「聞いたか。ガイウス・ヴァレンティアが騎士団を追放されたらしい」
「当然だろう。大魔族の前で命乞いをしたそうじゃないか」
「それどころか、命を救ってくれた恩人を背後から刺そうとしたんだとさ」
「最低だな。終わりだよ、あの男は」
グレイは聞き流した。
興味は——なかった。
街道を歩いた。王都の石畳が砂利に変わり、砂利が土に変わった。かつて辺境へ追放された時と同じ道。だが、今は荷馬車の中で膝を抱えてはいない。
腰には、ダグラスから渡された鉄剣。刀身にはヒビが入っている。大魔術を両断した時の傷だ。
足を止めた。
鉄剣を抜き、刀身を見つめた。ヒビの入った、黒ずんだ鉄。宝石も装飾もない、ただの鉄の塊。
手のひらで、刀身の腹をゆっくりと撫でた。
愛おしそうに。
この剣は、魔力を持たない。光を放たない。炎も雷も風も生み出さない。
だが——この剣で、滝を斬った。飛竜を斬った。大魔術を斬った。大魔族を斬った。
この剣と、何千万回もの素振りだけで。
鞘に収め、歩き出した。
辺境の方角へ。ダグラスの待つ山へ——いや。
足が、違う方向に向いた。
辺境を越えた先。まだ見ぬ土地。まだ出会っていない強者がいるかもしれない場所。
空を見上げた。
抜けるような青空が広がっていた。雲ひとつない、澄み切った空。風が吹き、荒野の草が揺れた。
グレイは歩いた。
腰の安い鉄剣を揺らしながら。ヒビの入った刀身を鞘の中で鳴らしながら。
岩のように硬い手のひらが、柄を撫でた。
その背中は——小さな村の青年には似つかわしくないほど、大きく、力強く見えた。
荒野の道が、地平線の向こうへ伸びている。
足音だけが、風に乗って消えていった。




