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〜使用人の私が王子も敵国王子も夢中にさせる〜  作者: レノスク


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第3章 約束は、あの日の空の下で

アリシアが八歳になった年は、よく晴れた日が多かった。


朝は鳥の声で目を覚まし、昼は城下町の通りを走り回り、夜は疲れて布団に倒れ込む。


そんな毎日が、当たり前のように続いていた。


「アリシア、今日も城に行くの?」


そう聞いてきたのは、リオだった。


年は同じ。


背は少しだけ、リオのほうが高い。


「うん! お掃除のお手伝いだよ!」


アリシアは元気よく答える。


「リオもでしょ?」


「……うん」


小さく頷くリオ。


二人は同じ使用人の子どもで、親の仕事を手伝うため、よく一緒に城へ行っていた。


城の中は広くて、少しだけ緊張する。


でも、二人でいれば怖くなかった。


「ねえリオ、今日のお昼なに?」


「パン……と、スープ」


「またそれ?」


アリシアが笑うと、リオは少し困った顔をする。


「……だめ?」


「だめじゃないよ!」


慌てて首を振る。


「おいしいもんね」


そう言って笑うと、リオはほっとしたように表情を緩めた。

(ほんと、リオってすぐ不安そうな顔するんだよなぁ)


アリシアは無意識に、頬をかく。


昔からの癖だ。





仕事が終わったあとは、城の裏庭で遊ぶのが二人の定番だった。


人の少ない場所。


木陰。


柔らかい草。


「今日はなにして遊ぶ?」


「……かくれんぼ」


「いいね!」

アリシアはすぐに賛成する。


「じゃあ、リオが鬼ね!」


「えっ」


「だって私、さっき鬼やったもん!」


「……そうだっけ」


「そう!」

即答だった。


本当かどうかは、怪しい。


リオは少し考えたあと、仕方なさそうに頷いた。


「……わかった」

その様子が可笑しくて、アリシアはくすっと笑った。


遊び終わったあと、二人は並んで腰を下ろす。


空は、夕焼けに染まり始めていた。


「……ねえ、アリシア」

珍しく、リオのほうから声をかけてくる。


「なに?」


「……アリシアはさ」

リオは、言葉を探すように、少し黙った。


「……大きくなったら、なにになりたい?」

アリシアは首をかしげる。


「んー……よく分かんない」

少し考えてから、笑って言った。


「でもね、みんなが困ってたら、助けたい!」


「……そっか」

リオは、それを聞いて、なぜか嬉しそうに微笑んだ。


「リオは?」


「……ぼくは」

また、少し間が空く。


「……アリシアのそばに、いたい」

とても小さな声。


でも、はっきりとした言葉だった。


「そば?」


「……うん」

アリシアは一瞬きょとんとしたあと、ぱっと笑顔になる。


「じゃあさ!」

勢いよく立ち上がり、リオの前に立つ。


「それならさ、結婚しよ!」


「……え?」

リオの目が、まんまるになる。


「けっこん! したら、ずーっと一緒でしょ?」

アリシアは、何の迷いもなく言った。


深い意味なんて、なにもない。


ただ、今が楽しくて、この時間が続けばいいと思っただけ。


リオは、顔を真っ赤にして固まっていた。


「……え、えっと……」

しばらく黙り込んだあと、ぎゅっと拳を握る。


「……うん」

小さく、でも確かに頷いた。


「……ぼく、がんばる」


「なにを?」


「……いろいろ」

よく分からない答えだったけれど、アリシアは気にしなかった。


「じゃあ約束ね!」

そう言って、小指を差し出す。


リオは一瞬ためらってから、そっと小指を絡めた。


「……約束」

夕焼けの空の下。


二人の小さな指が、確かにつながった。


それは、子どもらしい、他愛のない約束。


――けれど。


この約束を、

アリシアはやがて忘れてしまう。


そして、リオだけが、ずっと覚えていることになる。


まだ、このときの二人は、そんな未来を知らなかった。


ただ、並んで帰る道が、いつもより少しだけ長く感じられた。

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