↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜使用人の私が王子も敵国王子も夢中にさせる〜  作者: レノスク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/19

第2章 この世界で、生きていく

あたたかい光が、まぶたの裏を満たしていた。


ぼんやりとした感覚の中で、アリシアは小さく息を吸う。


空気が胸に入ってくるのが、はっきりと分かった。


「……泣いたわ」


そう言って、誰かが安堵の声を漏らす。


「元気な子だ。よかった」


別の声が重なる。


低くて、落ち着いた声。


アリシアは泣いていた。


理由は分からない。


ただ、そうするのが当たり前だと思ったからだ。


視界はまだぼやけていて、形も色もはっきりしない。


けれど、包み込まれるような温もりだけは、確かに伝わってきた。


「この子の名前は……アリシア・ルミエールにしましょう」


「光、か」


「ええ。この子が、明るく生きていけるように」


その言葉の意味は分からない。


けれど、心地よかった。


アリシアは、そのまま再び眠りに落ちていった。





アリシアが“自分”という存在を認識し始めたのは、もう少し後のことだ。


最初に覚えたのは、天井だった。


木でできた梁。


昼間になると、窓から差し込むやわらかな光。


次に覚えたのは、母の声。

「アリシア」


名前を呼ばれるたびに、胸の奥があたたかくなる。


理由は分からないけれど、それが“自分”だと


自然に理解できた。


父は、口数の少ない人だった。


けれど、アリシアを抱き上げるときは、いつ

も少し不器用で、やさしかった。


ここは王都のはずれ。


城に仕える使用人たちが暮らす区画の一角。


豪華ではない。


けれど、不自由でもない。


アリシアは、この世界で、ごく普通の子どもとして育っていった。


――少なくとも、この頃の彼女は、自分が“特別”だなんて、思ってもいなかった。





歩けるようになり、言葉を覚え、少しずつ世界が広がっていく。


転ぶこともあった。


泣くこともあった。


それでも、誰かが必ず手を伸ばしてくれた。


ある日、母に連れられて外に出たときのこと。


「走っちゃだめよ、アリシア」


そう言われたそばから、アリシアは小さな足で駆け出した。


「だいじょーぶ!」


そう返事をして、数歩進んだところで――。


「……あ」


足がもつれる。


転びそうになった、その瞬間。


「危ない!」


誰かの声と同時に、腕をつかまれた。


ぐっと引き寄せられ、地面に倒れることはなかった。


「……?」


顔を上げると、そこには同じくらいの年の少年が立っていた。


少し癖のある髪。


控えめな目元。


でも、とても真剣な顔。


「だいじょうぶ?」


少年は、そう言ってアリシアを見つめていた。


「うん!」


アリシアはにこっと笑う。


「ありがと!」


少年は、少し驚いたように目を見開き、それから小さく頷いた。


「……よかった」


母が駆け寄ってくる。


「ありがとう。あなた、お名前は?」


少年は一瞬ためらってから、答えた。


「……リオです」


「リオくん、ありがとうね」


リオは小さく頭を下げた。


アリシアは、じっと彼を見つめる。


なぜか分からないけれど、視線を外したくなかった。


(……なんか、この子)


無意識に、頬をかく。


それは、アリシアの癖だった。

(やさしい)


それ以上の言葉は、まだ知らない。


けれど、その感覚だけは、胸に残った。


この日から、二人はよく顔を合わせるようになる。


まだ、この出会いが――

八年後、ある約束につながることを、

幼いアリシアは、知るはずもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。