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61話 重なる寂しさ(レコラ視点)

『私を置いて行くんですか? 寂しいです、レコメラ‥‥』


 あの時、そう言った私にあの子は『ごめん』とだけ告げた。


 もうどうしようもない気持ちをぎこちない笑顔にのせて、あの子は私が心を読むだろうことを知ってなお、言い訳すらしなかった。


 あの子の覚悟から、逃げられなかった。


 あの子の記憶を奪い共に生きることもできたはずなのに、できなかった。


 私は、あの子の気持ちを優先して、殺した。


『寂しい‥‥。寂しい、寂しい‥‥』


 記憶を繰り返してはそう思った。あの子の22年間を繰り返し思い出しては、後悔し続けた。


 私は、‥‥。



「私、レコメラがいないの寂しい。だから‥‥お願い、レコメラ。諦めないで」


 目の前の少女があの時の自分と重なった。レコメラを見送る覚悟をした時の、あの寂しさが蘇る。


 同じ気持ちなはずがない。私とレコメラの22年間が、この数回の夢と同じなわけがない。同じであってたまるか。


 そう思った。


 だから「嘘をつくな」とも言えたのに、言えなかった。


「私も‥‥そう言ったんですよ」


 かわりに口から出て来たのは、あまりにもみっともない衝動。


 たった数えられる程度話をしただけの相手。苦難を共にしたというには短い期間。ほとんど森を一緒に歩いただけで、大したことはしていない。それだけで、これほど他人に入れこめるものなのか、と疑う。


 少女の瞳は、涙に濡れていた。鼻を啜りながら、まるで縋るように私を見つめる少女の目。そんなものを見てしまっては、疑えるはずもない。だから、情けないことを口走ってしまったのだろう。


 彼女ならきっと、私の孤独に共感してくれると、そう、思って。


 私の口からは勝手に、誰かに聞いて欲しかった言葉が、想いが出て行って、止められなかった。


「でも、だめでした。あの子はいなくなってしまった。私を置いて、いってしまいました。みんなと一緒に。‥‥チトセ、私はもうだめです。あの時のレコメラの気持ちが、消えてくれない。痛くて痛くて、仕方ないんです」


 楽になりたかった。これ以上この気持ちを抱えていられなくて。


 エルダーの傍に居ても、この寂しさは癒えない。日々積もって、増えて、重たくなって、彼を恨んでしまいそうになるほどに膨れ上がって。


「私は、レコメラと一緒にいたかったのに‥‥!」


 だからあの子の名を名乗った。あの子が最期に私にくれたものだから。


 もう私以外誰も呼ばない、あの子の名前。その名で誰かが私を呼んだ時、そこにあの子がいる気がした。


 なんて、愚かなことだろう。


 少女は、何も言わない。こんな感情を、たった数十年しか生きていない小娘に吐露するなんて、本当に焼きが回っている。


 情けなくて仕方なくて、だからか視界がぼやけていく。目が熱い。


「‥‥レコラ」


 気が付けば、少女は私の懐に入り込んでいた。背中に回された彼女の手のひらは柔らかく、なのにしっかりとした感触をくれる。あたたかかった。


 視界に揺れる黒髪があの子の髪色に少し似ていて、だから‥‥思わず瞬きをした。頬を伝う熱が、さらにあたたかい。


「話して、レコラ。レコメラさんの話、もっと聞かせて。レコラの事、もっと教えて。私、貴方と‥‥友達になりたい」

「友、達‥‥?」


 馬鹿な娘だなと思う。精霊と友達になんか、本気でなれると思っているのだろうか。それとも、そうとでも言えば私がその手を取るとでも思っているのか。


 今だけの、都合の良い響きじゃないか。


(嘘だったら、嫌ですね)


 もう心は読めない。融合が進んで、精霊の力が弱まっている。


 私は人間嫌いの記憶の精霊。人は私を利用しようと近づくものだ。

 できることは限られていて、役に立たない存在で、そうと知れば人など容易に離れていくということも知っている。


 そう思うのに、腕の中から抜け出せなかった。


 彼女越しに、横たわりこちらを睨む半魔の子供を見て思う。


(‥‥私が役に立つか立たないかなんてそんなこと、チトセにはきっと関係ないんでしょうね)


 抱きしめ返したかった。


「本気ですか? ‥‥私、話し長いですよ」


 レコメラの話がしたい。この世の誰かに覚えていて欲しい。誰もが忘れたあの子のことを。でも、それだけじゃない。


 耳元で微かに笑う声がする。心の中を見抜かれているのかと思ったけれど、優しい音だったから嫌じゃなかった。


「うん、知ってる。それでもいいよ。話して」


 その言葉を信じたくて、細い体に縋りつく。彼女の肩で、懐かしい光たちが私を馬鹿にするように笑い、そして安堵するように消えていった。



 抱きしめられる感覚にほっとして、しばらくそうしていたのち、ふと我に返る。自分の恥ずかしさに気づいて手を放すと、泣きはらしたチトセと目が合った。


 照れくさい。


「そ、そこまで貴方が言うのなら‥‥し、仕方ありませんね。これ以上泣かれても困りますし‥‥?」


 照れ隠しに、涙を拭った少女の肩をぽんぽん叩くと、微かに鼻を啜りながら彼女は不器用に笑顔を作る。


 まだどこか涙の残る瞳が私を優しく見つめてくれるのは、全身がそわそわとしてしまうものの、なんだか嬉しくもあった。


「レコラ‥‥! 任せて。なんとかするから!」


 その言葉に、少し不安を感じる。


「‥‥あまり大口叩くと失敗した時苦しみますよ」

「あ‥‥う、うん」

「しかし、正直に言いますと、本当に方法がないんですよ。少なくとも私には思いつかない。どうするつもりなのですか?」

「‥‥‥‥ちょっと、待って」


 涙で赤らんだ顔を少し青くして、チトセは考えはじめた。


 この少女は真面目で善良な人間ではあるが、考えなしなところが玉に瑕だとつくづく思う。


「まさか本当に何も考えてなかったとは。さっきの全てを茶番にするつもりですか。だとしたら、感情に呑まれすぎです。できることとできないことは、きっちり区別した方がいいですよ?」

「‥‥うるさい、なぁ。考えてるから‥‥」


 そう言いつつ少女は顔を歪める。


 魔力すら持たない人間相手に元から大して期待はしていないが、人をその気にさせた責任くらいは取るべきだと思う。


(最悪この身が滅んでも、泣いてくれる人がいるなら大いに満足‥‥かもしれません)


 というのは冗談にしてもだ。


(‥‥最後にこの子のあたふたを眺めて笑っている方が、健全なのは確かですね)


 孤独だとか寂しいだとかそんな気持ちを1人で抱えているよりは、そうやって終わる方が楽しい。


 しかし、生き残り方が分からない。


「そうだ、チトセ。言い忘れていましたが、私は夢から出ると消滅します」

「えっ!?」


 チトセの反応を見て、確かにこれは先に言っておくべきことだったかもしれないと反省する。彼女の責任のハードルを後出しで増やしてしまった。


 ただ、これを先に言っていたからと言って諦めたかどうかは‥‥分からない。彼女は驚きに表情を崩しているが、その目に絶望は見えなかった。


「ど、どういうこと!?」

「力を使い果たしてしまった影響です。私は今、呪いの力に支えられて存在しているんですよ。いうなれば、寄生です」

「‥‥呪いと引きはがして、夢から覚めたらだめってこと?」

「そう言う事です」

「‥‥‥‥」


 絶句しながら、それでも少女は思考を巡らす。自分のために他人がああでもないこうでもないと考えてくれるのは、それ自体が嬉しいことだった。


 ふと、そんな彼女の向こう側で影が揺れ、ルクスナ達がもう来たのかと身構える。しかし、違った。立っているのは、リュカだ。


 ふらつきながら、青い顔でこちらを凝視する彼の表情によくない気配を感じ、思わずチトセに手を伸ばす。と、それをみた彼の目が大きく見開かれた。


 これはまずいかもしれない。


「レコメラ? どうしたの」

「チトセ、リュカが‥‥起きたようですよ」

「! リュカ!」


 振り返ったチトセが少年に走り寄っていく。近寄った彼女に素早く手を伸ばしたリュカは、縋るように抱きしめて、私を睨んだ。


「リュカ、無理しないで。まだ気持ち悪い?」


 少女の優しさが彼の背を撫でる。それを無視するように、少年は低く唸った。


「うぅ‥‥、チトセ。僕以外と‥‥友達にならないで」


 困惑するチトセの声。それを聞いて、彼の腕が更に強く、少女の体を抱き込んだ。


GWまでに終わらせられず悔しい。

暫く小休止します。

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