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28話-4 夢に入るリスク

 メリーゴーランド、楽しみだったはずなのに、なんだか楽しくないみたい。


 どうして? 抱きしめられなかったから?

 いやいやいや、ないないない。むしろよかったじゃん。

 抱きしめられたら、恥ずかしさで死んでたかもしれないし。


 頭の奥からそんな言葉が浮かんでくる。


 だって、これ以上変に意識して、毎日一緒にいるのに気まずくなるのとか嫌でしょ?


 声はどんどん浮かんでくる。


 リュカとっていうか、男の子と密着とか、そもそもそれ自体普通に‥‥嫌だしさぁ。

 だからさ、よかったじゃん。これで。


 言い訳みたいな思いが頭の中をぐるぐる支配する。


 そうだよ。良かったよこれで。それ全部本当にそう思うもの。


 ‥‥なのに、なんでちょっと残念な気がしてるんだろ、私。

 これじゃまるで、私が‥‥。


 私が? なんだろう。


 言葉の続きを探すと、嫌な予感がした。急いで別の何かを探し出す。


 えっと‥‥はしたないみたい、とか?


 その可能性が頭に浮かぶと、それだ! と思った。同時に羞恥心でまた顔が熱くなってくのを感じる。


 ち、違う違う‥‥違うの! 私だって普通の女子高生だし!

 友達いないし彼氏もいないし、だけどでも!

 男の子とのそういうのに興味ないわけじゃなくて!

 興味ないわけじゃないけどあるわけでもない!

 リュカは弟みたいだけど男の子だし!

 いつも手は握るし甘えてくるし抱きしめられることもあるけど、でもあれはそういうんじゃないし!

 意味わかんない意味わかんない意味わかんない!


 とにかく、違うの!!


 誰に何をどうしてこんなに言い訳してるのかは分からない。


 多分、私自身に対しての言い訳だ。自分自身が恥ずかしくて死にそうで、居ても立っても居られないのに静かにしなきゃリュカにバレちゃうから、かわりに頭の中で叫んでる。


「ごめん、チトセ。片手だと僕落ちちゃいそう」

「うん。‥‥んっ?」


 煮えたぎって爆発しそうな私をよそに、リュカはもう片方の手も支柱へと伸ばした。彼が両手で柱を掴むと、体が窮屈になる。狭いなと感じて、考えて、そして気が付いてしまった。


「こうするとさ、チトセ狭くない? えへ‥‥っ、でもこれチトセをぎゅってしてるみたい」


 リュカが両手で支柱を掴むと、その分体がより密着した状態になることに。そうすると、彼が私を抱き込むみたいな体勢になるということに。


 気が付いてしまった。


「‥‥うぐっ」


 つばを飲み込むのと同時に息を吸って、へんな風に空気を呑み込んだ。咽ると、心配される。


「わっ、大丈夫? チトセ」


 この体制で声を掛けられると余計に声が近くてつらい。何がつらいって、私の自意識過剰が暴走してしまって、つらい。


「狭い? それともやっぱり‥‥こわい?」


 私の様子がおかしいことには気が付いているらしいリュカが心配してくれるけど、心配されるようなことじゃないから困る。


「だ、大丈夫です‥‥! ほんと、狭くないしこわくもないから‥‥!」

「そう? ならいいけど」


 私の心音には気づいてないんだろうリュカが恨めしい。けど、だからこそ助かっているとも言える。


 これでリュカまで変に私を意識しだしたら‥‥そんなの絶対嫌だから。


 動き出した木馬はメリーゴーランドみたいにちゃんと上下に揺れながら進む。ゆっくり進むものだから、どのくらい行くのか知らないけど、その間ずっとこうしているのかと思うと死にそうだった。


 恥ずかしさで俯いた私の狭い視界に、リュカの腕とスパンコールを散らしたような灯りが入ってくる。


 さっきまではあんなに光ってなかったなと思うと、後ろで楽しそうな声がした。


「チトセ、見てよ。せっかくだからキラキラにしたよ」


 恥ずかしさで死にそうな中、はしゃぐような声になんとか顔を上げると、そこには。


「うん‥‥わ、あっ!」


 視界の中には、賑やかになったメリーゴーランドの姿があった。眼前に広がる夢のような光景に羞恥心を忘れる。


「すごいっ! 本当にメリーゴーランドみたい!」


 真っ暗なだけだった空間には色とりどりの電飾が伸び、進む先は沢山の木馬やフロートで埋め尽くされている。


 私たちと入れ違い互い違いに上下する木馬は兎や白鳥、猫に犬にネズミにオウムまでさまざまな動物を模したものが並ぶ。


 そのどれもが帽子を被ったりチョッキを着たりとめかし込んでいてメルヘンチックで可愛かった。


 足元にはキノコの形をしたものや芋虫型のものまであって、前の方には昔私が乗ったようなカボチャの馬車もある。


「すごいすごいっ! 全部可愛いっ。まるで絵本の中みたい!」


 天井ではシャンデリアのようなクリスタルが瞬いて、カラフルな傘がくるくると回る。


 横を見ればガラスに映った私たちが仲良く木馬に跨っていた。それを見るとやはり私がリュカに抱きしめられているようにしか見えず、恥ずかしさが戻ってくる。

 けれどすぐにガラスの前を他のフロートが通り過ぎていき見えなくなった。


 様々な姿形の木馬やフロートが、私たちを追い越したり追い越されたりしながら一緒に走ってくれる。


 真っ暗な空間の中、私たちの周りだけがそうやってキラキラと眩く輝いていた。


 沢山の木馬や電球と一緒にこうやって賑やかに進んでいくのはとても楽しくて、自然と笑顔になる。いつの間にか羞恥心なんてきれいさっぱり消えていた。


「夢の中は楽しい? チトセ」


 すごく近くで聞こえるリュカの声も、もうへっちゃら。


「うん! とっても!」

「‥‥んふっ! それならよかった!」


 くるくる回るように、パレードみたいに、私たちは暗闇の中をピカピカ走ってく。

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