表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の弾丸は銀色  作者: ろろんむ
第1章 疑惑
9/17

国王のお願い

「はぁ?まだ帰って来ない!?」


 俺は武器屋にいた。

 魔法洗浄とやらを終えた後、すっかり綺麗になったルルナリアを連れてショートソードを取りに来たところで思い出したのだ。

 俺は、この町で射撃の訓練を受ける予定だった。しかし射撃場の奴らが国外にで払っているといことで、訓練は先延ばしにされたわけだが…。

 10日ほど経った今でもまだ帰ってくる気配がないというのだ。


「でも予定では今日あたりまでに帰ってくるはずだろ?」

「うむ。国に戻ってくる時は、伝達鳥が先に国に戻ってきて、これから帰ると国王に連絡することになっているのだが、それがまだ来てないらしい」


 なんだ?道中で何かあったということか。

 しかし、このままでは俺の射撃のセンスは一向に磨けない。気付いた時にはルルナリアにレベルで追い越されることも考えられる。

 ルルナリアばかりに魔物を倒させているわけだし。


「じゃあいつ帰ってくるか分かんないってことか?」

「そうなるな」

「ほかに射撃の訓練を頼めそうな奴いないのか?」

「悪いが俺の知り合いでも訓練を頼めるほどの銃使いはいねえな。そもそも銃使いがそんなに存在しねえからな」


 確かに、この世界で銃など大して需要がないように思える。

 弓に比べてバリエーションが少ないし、下手したら、銃を使ってできることは、魔法を使ってもできると考えることだってできる。

 

「うわぁ、じゃあどうすりゃいいんだ?」

「待ってもらうしかないな」


 どうやら本当に待ってなきゃいけないらしい。

 俺はショートソードをルルナリアに渡し、武器屋を出た。



 どうしたものか。

 こうなったら独自で訓練するしかないようにも思えてきた。ああ、なんか虚しくなってきたな。

 他の勇者どもは今頃何をしているのだろうか。航大あたりはとっくにこの町を出て旅に出てそうだ。


 そもそも俺たちの目的は、災いを食い止めることだ。

 災いってなんだ?あの国王、あまりにもざっくばらんに説明しすぎていて、肝心なところが抜けていないか?

 まあ俺たちが聞かなかったのも問題だが、そこはあっちの方から説明してくれるのが普通だ。


 そのとき、目の前に隊列が見えた。城下町のど真ん中を通っている。

 行き交う人々が、まるで大名行列でも通るかのように道を開けている。


「嘉浩様…あれは…?」

「たぶん国王だ。一体なんだってんだ」

「国王…」


 ルルナリアの様子が可笑しいな。

 最近ようやく慣れてきたと思ったが、また怯えだし、俺の服の裾を握っている。

 

「嘉浩殿はこの町にいるか!?」


 立ち止まったと思ったら、隊列の戦闘に立っている国王が声を上げた。

 俺に用があるようだ。ここは名乗り出た方が良さそうだな。


「俺ならここにいるぞ」

「おぉ、やはりまだこの町に残っていらしたか」


 それはどういう意味だ。

 まるで俺はまだここを離れる段階でないことを知っていたかのような言いようだ。腹が立つ。俺を煽ってるのか?


「嘉浩殿にお願いしたいことがある」

「お願い?災いを食い止める以外にか?」

「うぬ」

 

 おいおい待て待て。俺の役目は魔王の怒りの怨念とやらによる災いを食い止めることだろう?

 それ以外のお願いとなると、話が変わってくるんじゃないか?


「とりあえず聞く」

「実は、この町の射撃場の職員の者がまだ帰ってきておらんのじゃ。数週間前にこの国を出て、隣のフレロバーグという国に遠征をしているのじゃが…」

「遠征?遠征ってなんの?」

「フレロバーグにいる奴隷の管理が主じゃ。射撃場の職員には色々と任せていることがあってな。その中に奴隷関係の仕事がある」


 なんともまあ嫌な話を聞いてしまった。

 奴隷関係ならピエロに任せておけばいいと思うのだがな。


「なんで奴隷関係が射撃場の職員なんだよ」

「色々理由があります故、言及はしないでいただきたい」


 なんだそれ、ふざけているのか。

 訳も分からないまま話が進んでいく。


「で、俺に頼みたいことってまさか…」

「嘉浩殿には、フレロバーグに行って射撃場の職員の様子を見てきてほしいのじゃ」


 話が逸脱しすぎだろう。


「お前らが言ってた災いはどうすんだよ?」

「それは他の三名の勇者様に既に託してあります。嘉浩殿には、災いに関与しない方向でフレロバーグに向かってほしい」


 これではまるで俺だけ仲間外れだな。

 そもそも災いを食い止める目的でこの世界に召喚されたのに、別の…それもこれは国側の責任だ。その後始末ともいえる確認作業を俺に取らせるなんて無礼きわまるぞ?

 それに災いに関与しないで欲しいだなんて…何か裏がある。


「話になんないぞ。俺に災いに関与して欲しくないなら、なぜ俺を召喚した?」

「それは神託に従ったまでのこと」

「俺をフレロバーグに行かせろってのも、その神託が言ってんのか?」

「左様でございます」


 もしこの国王の言っている通り、俺をフレロバーグに行かせることが神託によるものだとしたら、国王の、俺がこの町に残っていることを確信していたかのようなあの発言とも辻褄が合う。

 だかどうだろうな。俺が他の勇者に比べて弱い状態であることを知っていての発言ともとれる。第一俺の攻撃手段は一つしかないわけだし。


 ここで断れば、神託に逆らったとか言われて俺は処刑されるのかもしれないな。

 この国王、何を考えているんだ?


「分かった。じゃあそのフレロバーグとやらに行ってやるよ。射撃場の奴らと一緒に帰ってくればいいんだろ?」

「うむ、感謝する」


 その後、国王から詳しい話を聞いた。

 射撃場の職員の数は全部で6名。

 ここから草原を出て西にずっと行くと、フレロバーグに着くらしい。

 地図で確認すると、距離的には結構ありそうだ。歩いて行ったら1週間以上かかりそうな道のりではある。

 面白いことにこの国王、何も支援をしようとしない。

 馬車も出さなければ援軍もよこさない。ふざけている。絶対何か裏があるはずだ。



 一通り話を終えると、国王一行は城の方向へと戻っていった。

 とんだ公開処刑だな。町の人の目線が怖い。

 災いとは何なのかについても聞いておきたかったが、関与するなというくらいだ。教えてはくれないだろう。


 ルルナリアは終始震えていた。

 どうも国王に対して怯えているようだが、理由は分からない。


「嘉浩様、これからどこに向かうのですか?」

「フレロバーグっていう国だ。1週間くらい歩き続けることになるけど、頑張るんだぞ」

「…はい」


 不安なのも分かる。俺だって不安だ。






「ハッハッハ!そりゃなんともまあ、運が悪いというかなんというかだな」


 武器屋のおっさんは笑っているが、正直これは笑える状況ではない。

 どうも引っかかる。


「おっさんはどう思う?」

「まあ誰の目から見ても裏があるように見えるが、神託と言われちゃ断ってもおけねえだろうな」

「やっぱそうだよな」

「まあ精々頑張れよ。ここからフレロバーグに行くんだろ?道中にそれほど危険な魔物はいねえさ。気をつけなきゃいけねえ魔物って言ったら、グロルガって魔物くらいだ」


 なんともまあ恐ろしい名前だな。

 4文字の生き物はどうも恐ろしい印象を受ける。ハイエナとかピラニアとかライオンとか?


「どんな魔物だよ」

「黒い虎みてえな魔物だよ。まあ絶滅種だとは言われてるから遭遇する確率は低いが、遭遇したら戦わず逃げな」


 これは絶対フラグが成立しちゃってるな。

 遭遇率が低いとか言ったら、遭遇しちゃう流れになっちゃうだろうが!


「まあ頑張りなよ。ほらこれ」


 おっさんは俺に巾着袋を手渡した。

 中を見てみると、10センチくらいの筒に入った薬が何本か入っていた。


 この世界には薬というものがあり、傷を治したり風邪を治したりできるらしい。

 俺が草原で拾った草なんかも、薬草として調合したりすれば薬になるらしい。やったことはないが、そのうち出来るようになると心強いかもしれない。


「せめてもの餞別だ。傷が出来たら使いな」

「ありがとう」

「いつ出発するんだい?」

「もう行くよ。1週間かかるんだろ?」


 そう言って俺は武器屋を出て、草原に出た。




 出発するとは言ったが、あくまで城下町を出るという意味での出発だ。

 今日は草原で魔物狩りでもしてレベルアップに専念しよう。


 俺は銃を取り出し、遠くにいる魔物を狙ってみる。遠くといっても20メートルも離れていない。

 

「シルバーブレッド!」


 そう言って放たれた弾丸は、上手いこと遠くのスライムに掠り、スライムは爆散した。少ない経験値が俺に入る。

 そうだ、掠りさえすれば倒せるんだ。

 だったら魔物に気付かれないように遠くから狙う練習をすればいい。


 そうそう。一回の戦闘がどこからどこまでの範囲のことなのかが何となく分かった。

 俺が魔物と対峙する時、俺の視界の右上に赤い丸が表示される。

 どうもこれは戦闘中の印らしく、一回の戦闘とはこれが表示されて消えるまでの時間を言うらしい。


 戦闘中になる条件だが、俺か魔物、どちらか一方がどちらか一方に敵意を持った時が戦闘中になる条件だ。

 少し曖昧なところがあるが、魔物が俺に気付いていなくても、俺が魔物に気付き遠くから倒そうと思えば、それも戦闘中になる。

 俺が魔物に気付いていなくても、魔物側が気付いていれば戦闘中になる。

 つまり、常に周囲には警戒しなくてはならないというわけだ。



 一方のルルナリアだが、すっかり戦いに慣れた様子だ。

 「はぁ!」なんて声を出して斬りかかる時もあるくらい、やる気があるようで、すっかり死骸に手を出すことはなくなった。


「嘉浩様!新しい魔物です!」

「ゲロンパ…カエルだな。水属性か…」


 見知らぬ魔物相手には慎重に挑む。向こうはもうこちらに気付いているから戦闘中ということになる。

 俺は自分の体とルルナリアの体にシールドブレッドを放つ。


「ルルナリアは下がってろ。ここは俺にやらせてくれ」


 ルルナリアは黙って指示に従う。

 契約紋とやらも一応ついているが、今のところルルナリアが俺の指示に従わなかったことはないに等しい。

 本能的に魔物の死骸に食らい付こうとした時は、契約紋がやや発動するが、今となっては問題ない。


 ゲロンパは俺に向かって飛んでくる。

 距離を詰められる前に当てる!


「シルバーブレッド!」


 俺の弾丸はゲロンパの腹に命中、ゲロンパは爆散した。

 段々と当たるようになってきた。まあ今のはゲロンパがまっすぐこちらに飛んできてくれたからよかったのだがな。



 今日の間に、俺のレベルは7、ルルナリアのレベルは6にまで上がった。

 結局その後は一度城下町に戻り、倒した魔物の素材を売って金を稼いで、草原で寝た。


 明日からいよいよ、フレロバーグへの旅が始まる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ