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勇者の弾丸は銀色  作者: ろろんむ
第1章 疑惑
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根回し

 翌朝、俺は宿を出た。


 結局昨日のサーカス団?は、割と夜遅くまで騒いでおり、俺はあんまりよく眠れなかった。

 子供相手なんだから昼間にでもやれと思うが、夜の方が雰囲気が出るんだろうな。


 今日はまず最初に仲間を募りに行こう。

 宿屋の隣で簡単な朝食を食べると、俺はギルド探しに出かけた。

 朝食の出費は銀貨20枚。これで残金は銀貨140枚。やはり一日で半分以上を使ってしまっている。早いとこ稼がなくては。


 宿屋から少し歩いたところに、ギルドと書かれた看板があり、奥には木でできた巨大な建物があった。

 ここがギルドか。思ったよりも巨大な建造物だ。

 ヘルプによれば、ギルドは冒険者たちが依頼を受けたり、その報酬を受け取ったりするのが主だ。

 またギルドでは、パーティを募集することも可能なのだ。


「すいません、ここギルドですよね?」

「ええ、そうですよ」


 ギルドの受付嬢。さすがに美人だな。


「仲間が欲しいんですけど」

「それでしたらこちらに署名をしてもらって、3階に行ってください」


 言われた通りに俺はフルネームで文字を書いた。

 半沢嘉浩…漢字で書くと周りが読めないような気もしたので、とりあえずカタカナで書いた。


 そのまま階段を上り3階に行くと、酒場のような場所に着いた。

 他にも人はいて、木の丸テーブルを囲んで酒を飲んだりしている。

 場所を間違えた気がしてならないのだが、本当にこれで合っているのか?


 とりあえず近くの丸テーブルに腰かけ、辺りを見てみる。

 耳を傾けると分かるが、確かに仲間にならないかという勧誘の常套句が聞こえてくる。

 なるほど。ここで割とフリーな感じで仲間を募れるということか。


 さて、どうしたものか。

 ここで座っていれば誰かが話しかけてくれるのか?

 しかし、俺は悪魔で仲間を募る側だ。募られる側ではない。

 ここには募られる側の人間だって来ているはずだ。そういう人間側ではないということを忘れてはいけないんだった。

 となると、自分から話しかけた方がいいよな。


 仲間に欲しいポテンシャルとしては、やはり射撃の得意な人間だろうな。

 そいつとなら戦ってる最中でも射撃の練習が出来る。

 しかしパッと見、銃を使えそうな連中は見受けられないな。

 こうなったら手当たり次第話しかけてみよう。俺はコミュ障ではないしな!


「あの、そこのアンタ」

「あ?」


 しまった。体型が良いから期待したが、とんだヤンキーに声を掛けてしまった。

 何だこの目つき。これが募り募られに来た人間のする目か?

 しかしここまで来て引き下がるわけにはいかない。一応交渉はしてみよう。


「いや、あんた仲間を探してるんだろ?」

「あぁそうだ。てめぇまさか俺様とパーティを組みたいとでも言うのか?」

「組みたいというか、お前の特技なんかを教えてもらえると―――――――」

「おいおい嘘だろ!」


 俺と男の会話を遮るように、誰かの声が響いた。

 そこには見知らぬ男の集団。何やら俺を見てゲラゲラと笑ってやがる。

 なんだこいつら。腹立つな。


「そいつはもしかして、弾丸音痴じゃねえか?」

「ハッハッハ!こりゃ傑作だ!まさか本当に来るとはなぁ!」


 弾丸音痴…?そいつは俺のことか?いや多分俺のことだろうな。

 

「悪いな弾丸音痴!ここのギルドじゃお前の仲間になれるような人間はいねえよ!」

「何?どういうことだ?」

「お前みたいな弾丸音痴、レベルが高すぎて誰もついていけねえってんだ!ハッハッハッハ!」


 どうやらしてやられたというわけだ。

 恐らく、このギルドには葵あたりから根回しがされているようだ。

 大方、「俺と同じ服装をした銃使いはとんでもない」とでも言いふらしていったんだろう。

 虫唾が走るな。そんなに俺が気に食わないってか?


「それに、有能な奴らは皆他の勇者が取っていったからなぁ!」

「そうそう。まあ残った奴らも、お前の仲間になる様な自殺志願者はいないだろうけどな!」


 これは問題だろう?国王は何も手は打たないのか?

 まあ、あれだけ消極的な性格だ。こんなものは見て見ぬふりをしているに決まっている。

 不愉快だな。本当に不愉快だ。

 ここでシルバーブレッドをブチかましてやろうか?生き物相手なら多分通用するだろう。

 ここでブチかませば全員巻き添えにして爆散させてやることが出来る。

 だがまあ、そんなことをすれば他の勇者共の思うつぼだ。そんな挑発には乗らん。


「その勇者共に言っとけ。お前らロクな死に方しねえってな」

「そんなことないと思うけどな」


 聞き覚えのある声。妙に俺の神経をつつくようなこの馬鹿っぽい声。

 背後から聞こえてきたな。振り向くのも億劫だ。


 そう思いながらも振り向いてやった俺の顔面に、液体がぶっかかる。

 口に入った、これは酒だな。俺は今、酒をぶっかけられた。


「なんかお前、よほど弱いらしいじゃん?」

「航大か」


 航大。片手には豪華に装飾された槍を持っている。こいつの持つ武器は槍か。

 それに、俺たちと違ってもっと強そうな防具を付けてやがる。

 後ろに連れている女共は仲間か?いや、仲間と銘打った性奴隷ってとこか。


「人にいきなり酒ぶっかけるたぁ、どういうことだか分かってんの?」


 こいつ馬鹿か。それは俺のせりふだ。


「葵と俊平から聞いてるぜ。お前はどうしようもない程の弾丸音痴で、仲間を巻き込もうとしたらしいじゃねえか。これだからバカは困るなぁ」


 色々と突っ込みたい箇所が多すぎるな。

 そもそも俺はあいつらを巻き込もうとして撃ったわけでもない。

 それに弾丸音痴なんて言葉はないだろ。馬鹿はどっちだ。


「どうだ?ムカついたか?ムカついただろ?俺と決闘でもするか?」

「決闘ねー」


 勝てるかどうかで言えば多分負けるだろうな。

 奴の装備を見る限り、俺よりも幾分上だ。最初から別行動をとっていたくらいだ。それくらいは当然か。

 しかしまだ24時間も経っていないのにここまでつけ離されているとは。やはり初期武器は必須ということか。

 槍は当たりで銃はハズレ。レベルもどれくらい差があることだか。


「決闘なんかしないしない。ここでお前が俺に勝って、強さを知らしめるってのが目的だろ?そんなお前の私利私欲に付き合ってる暇はないんでな」

「はっ!逃げんのか?」

「時には撤退も必要だろ。お前やっぱ、馬鹿だな」


 これくらいの馬鹿は、大して煽らなくても勝手にキレるような性格だ。

 ここで問題を起こさせ、国にそれ相応な処置を取ってもらうってのもいい手かもしれない。

 戦わずして勝つ。良い響きじゃないか。


「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」

「想像通り沸点が低いなてめえは」

「この―――――――――――――――」

 

 これは驚いた。俺に向かって振り下ろされる槍を止めたのは、航大の仲間の一人だった。

 赤い髪を後ろでオシャレに束ねた女。エロい体をしている。おそらくあれも航大の性奴隷の一人だろうな。


「航大様。今ここで騒ぎを起こしてしまえば、必ずや国王の耳に入ることでしょう。いくら航大様とはいえ、同族ともいえる勇者に手を上げることは許されないでしょう。ここはいったん引いてみてはどうでしょう?」


 何だこの女。馬鹿の性奴隷の割には頭が働くようだな。

 頭が働いてスタイルの良い美人…航大にはもったいないくらいの女だな。


「ちっ!じゃあどこでこいつを殺せばいいんだ!」

「いずれこの町からも離れなきゃいけない時が来るでしょう。その時に殺せば事足りることですわ」


 さらっとエグいことを言う。やはりこの女も馬鹿だな。

 その時には俺も、そう易々と殺されるようなレベルではないはずだ。

 今なら確実に俺は負けるがな。


「参りましょう。もうこのギルドには用はありません」

「そうだな」


 そう言って、航大一行はギルドを去って行った。

 人騒がせな奴らだ。

 俺は航大一行が去ったあとこのギルドを去った。




 さて、困ったものだ。

 頼みの綱であるギルドにまで勇者共の根回しがされているとなると、仲間が募れない。

 この調子では酒場でも同じだろうな。

 それに、使える奴らは皆他の勇者が持って行ったと言っていた。

 女は殆どが航大の性奴隷だろうな。男は葵と俊平か。


 まったくこの国の人間はアホばっかりだな。一番まともな勇者が俺であると気付いていないようだ。

 これでもかってくらい頭の悪い力自慢の航大。

 短絡的でプライドだけ妙に高い葵。

 見掛け倒しの無能、俊平。


 全員頭が悪すぎる。さすがに引くぞ。




 俺は再び草原に入った。

 なんとかしようと思い、とりあえず虱潰しにシルバーブレッドを放っていく。

 段々と当たるようにはなってきたが、まだまだな気がする。

 そうこうしていると、俺のレベルは3にあがった。



 シールドブレッド(弱)を習得しました。



 来た!新しい技来た!

 まだ弱だが、多分さらにレベルが上がっていけば強くなるんだろう。

 さぁ!技の確認だ!どんな技だ?



【シールドブレッド】

 自身の体に放つことで、自身の防御力を少しだけあげる。



 強化系かよ!攻撃専用だと期待したのに…。

 そもそも、この銃の攻撃手段はシルバーブレッドだけだと、最初に判明したはずだ。いまさら何を期待していたんだか…。

 駄目だ。また意気消沈してしまった。

 こういう時は武器屋に行こう。




 武器屋に行くと、なぜかおっさんが飲み物を出してくれた。

 ハーブティーとレモンティーを足して二で割ったような飲み物だ。


「あんた聞いたぜ?異世界から来た勇者らしいじゃねえか」

「他の勇者から聞いたのか」

「おうよ!銃を持った勇者はどうしようもないから、分不相応な対応をしてくれと頼まれたが、俺の前じゃ客は皆平等だ。安心しろ、俺はそんな真似しねえ」

「あんただけだな、まともなのは」


 身寄りが武器屋のおっさん一人とは、泣けてくるな。

 いっそのことこのおっさんをパーティに入れてみるか?武器屋の店主である以上、武器の扱いには慣れているだろうし、相当な戦力になるんじゃないか?


「一応断っておくが、俺はあんたに武器屋としてしてやれることをするだけだぜ」

「ですよね」


 なんか振られた気分だ。

 俺は武器屋のおっさんに、ギルドや酒場には他の勇者から根回しがされていたこと、自分には攻撃手段が一つしかないことなどを説明した。


「そりゃ不遇だなあんた」

「今のところ大丈夫だけど、そのうちメンタルに来そう…」

「仲間が募れないとなると困るな。いっそ、奴隷なんか引き連れちまえよ」

「奴隷…?」


 そういえば国王が言っていたな。

 奴隷なんぞ引き連れたら勇者としての品位に繋がる…とかなんとか。


「まあ俺もあんまりお勧めはしねえが、他に手がないってならしょうがねえなぁ」

「奴隷なんか手に入るのか?」

「あんた、この町にピエロがいるのは知っているか?」


 ピエロ…昨日の夜見たあのピエロか!


「ああ、あの太った」

「そうそう。あいつ、表ではピエロだが、裏では奴隷商をやってやがる。まあ、この国で奴隷は違法ではないものの、どうも煙たがられるところがある」

「奴隷は人権奪われた道具みたいなもんだしな」

「どうしてもって言うんなら、俺が紹介状書いてやってもいいぜ?ここから南に行ったところにあるサーカステントの中だ」


 そう言っておっさんは、俺宛てに紹介状を書き始めた。

 奴隷か。まあ、戦えるならなんだってかまわない。

 この際、勇者の品位などというものはあってないようなものだからな。


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