25話「資金調達とキャッシュフロー」
大量の小麦粉が入った袋を担いで、タイニーハウスの棚に収納した。キャスの作った小型水車はしっかり機能し、今は乾燥したマンドラゴラの粉作りをしている。
「ずっと宇宙で農業をしていたの?」
キャスは焚き火のフライパンで肉と野菜を炒めていた。俺は過去の動画を見るような気分だった。宇宙でフライパンを使うのは難しい。
「そうだね。管理しやすくて高価な野菜が多いかな。ジャガイモとかイチゴ、サトウキビなんかは多いね。あと、サフランとか……。この星にもある?」
「イモはあるよ。青菜系はないの?」
「あんまりないな。サプリメントで取る事が多い。こっちはたくさんあるからいいよな。食物繊維も取れるしさ」
「これ、バターの肉野菜炒めね」
なぜかキャスが俺の昼食を作ってくれた。
「本物のバターってすごい満腹中枢を刺激するような匂いがするんだな」
地球のような家畜の牛はこちらの惑星にもいるらしい。
「美味い。頬がとろけ落ちそう」
「すごい表現ね。好意的に受け取っておくわ。それより、難しい植物でも育てられるってことでしょ?」
「いや、ものによるよ。気候で大きく変わるしさ。なんか育てたい植物があるのか」
「ルテアって実をつける草なんだけど、媚薬になるらしくて高く売れるんだって」
「育てて高く売ろうということか。別にいいんじゃないか。種が手に入るかどうかだよ」
「種が手に入ればいいのか」
「うん。でも、キャスは普通に魔道具作ったほうがいいよ。得意なことを金にしながら、種を探せばいい」
「なるほど、たしかにそれはそうかも」
「全部自分でやってみるのは経験が溜まるかもしれないけど、他の人がやったらもっとすごい媚薬ができることってあるからさ」
「そうか。目的は媚薬で金を得られればいいものね」
「スキル枠も無限に見えて、時間がかかりすぎるものもある。得意なもので生活費は稼いだほうがいいよ」
「そうね。そうしよう」
キャスは素直に、トレントの枝で氷の風が吹く杖や火球が出る杖などを作って街に売りに行った。
「天才なんだろうな。行動原理よりも思考範囲が邪魔をするタイプだな」
「媚薬が売れるルートがあるってことだろ? 頼んでみるしかないんじゃないか」
AIがそういうのでドルイド爺さんのところへ向かった。崖の上で、粘土板を片手にじっと座っている集団がいる。頭の上にあるフードのような枝葉を広げて、小さな芽を出していた。まるで帽子の上でモヤシ畑を育てているように見える。
「光合成をしているところすみません。人間用の媚薬って作れますか」
「無論作れるが、貴族に渡ると街ごと潰れることがある。おすすめはしないぞ」
「そうですか」
「なんだ、軽いものでいいならすぐだ。なにか探すために必要か」
「いや、キャスが売りたいらしいんですけど、キャッシュフローを作っておくのもいいですよね」
そう言ったが、キャッシュフローは理解されなかった。
「魔石の定期回収ルートは見つけたんですけど、資金調達が上手くいってないんです」
「金が必要なら、魔石を売ればいい」
「いいんですか? いざというときに魔物を雇えなくなる」
「ああ、なるほど……。冒険者を雇って人間の魔法書を手に入れてくれ」
「わかりました」
「媚薬は作っておく」
ドルイドは知能が高くていちいち説明しなくていいから楽だ。資金があれば人間の技術で設備投資ができる。
「ほしい魔法書の種類はありますか」
「初級から上級魔法まで、なんでもいい。あるだけ読みたい。聞いた話によると魔王城はかつて空に浮いていたとも言われている。できればその時代の魔法書があると助かる」
「わかりました。今ある本も持ってきますね」
街で買ったいくつかの安い本を持っていくと、ドルイドたちは大事に協力して読みながら、粘土板に書き込んでいた。情報収集から集合知にしていけば、確かに知能は上がる。
「アルラウネの皆さんはどうです? なにか人間の物資で必要なものはありますか」
近くにいたアルラウネにも声をかけた。
「砂漠の植物が手に入れば、持ってきてほしいくらいかしら。たぶん、空を飛ぶ植物は砂漠産のはずだから、ここで繁殖させることができると開発も進むわ」
「わかりました」
ミーロスたちは、洞窟を掘り進めて奥に広い空間を見つけていた。
「鉱物が見つかったら、掘り出していいか。宝石なら魔物にも売れるし、鉄鉱石が見つかれば、鍛冶場が必要になるか」
「見つかった鉱石の利益割合は見つけた者にも分けてやってくれ」
「わかった」
とにかくブラウニーたちはよく働いている。ミノタウロスの一家は洞窟の外に出てきた石や木材で小屋を建て始めていた。
「周辺の木を切っていいか」
「もちろん、斧が必要なら使っていいし、チェーンソーも使っていいよ」
「助かるよ」
すでに溶鉱炉を作ろうとしているから、仕事は早い。
鉄を加工できるようになると本当に文明レベルが上がる。ミスリル鉱石などもあるらしく、アルミとの違いも分析したい。
「アルミまでいけたら、合金を作っていきたいよな」
「ここまで大きい惑星だとあるんじゃないか。探索してみる? 銅と鉄なら、地中でもわかるはずだから」
「また、ドローンを飛ばすか」
結果、ミーロスが掘っている場所からは鉄が取れることがわかった。
「蒸気機関を作って、工場を作るか。魔石と組み合わせると魔王軍が来ちゃうんじゃないか」
「そこら辺はバランス見たほうがいいね」
ドルイド爺さんが、唐突に現れて媚薬をくれた。
「花お化けの媚薬も入ってる。売れるようなら、量産もできる」
「了解です。魔法書を探してきます」
俺は媚薬の瓶を持って、街へと向かった。途中、杖を売ったキャスと合流し、そのまま媚薬を売って資金を調達。お祭りがあるらしく薬屋が、薄めて客に振りまくという。
「依頼書って出せますか」
「もちろん出せるわよ。なにが欲しいの?」
「魔法書と砂漠の植物があれば」
「わかった。砂漠の植物は偽物が多いからこちらで鑑定できるけど」
料金に上乗せされるらしい。でも、確かな物の方が実験は捗るだろう。
「頼みます。できれば、魔法書も鑑定してください」
「わかった。魔法書を読んでも魔法ができるようになるわけじゃないけどいいのね?」
「はい。宇宙では魔法が使えないので、仕組みが知りたいんです」
「それはそれで大変ね」
犬耳の職員はメガネを直しながら、俺の服を見ていた。街でも綿と麻性っぽい服しか見ないので速乾性の服が珍しいのか。
宇宙は物資自体は少ないのに、素材の種類が溢れていたことを思い出した。




