表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

ep.7『緑のカリスマ』


 寒い冬が終わったと思えば、もう汗ばむ季節の到来。ちょうど良く過ごしやすいシーズンはあっという間。ホントにあっという間ですね!


 こんなことがありました。


 お風呂に入って、しっかりと体を温めました。汗ばむシーズンとはいえ、まだエアコンに頼る程ではない。日中は暑くても夜は窓を開ければ、まだまだ涼しい風が入る。多少、部屋が暑くても扇風機で事足りる。こんな時期からエアコンに頼るのは()()()()だ。エアコンは、夏まで我慢してこそ快適な幸福感を得られるもの。私は、そんな愚か者になるつもりはない!


 ホカホカさっぱりの湯上がり。さぁ、扇風機で涼みながら、お気に入りのルイボスティーでも飲んでリラックスタイム、などと考えながらリビングへ。


──何事……


 私がお風呂からあがるのを、待ち構えていたかのように息子がリビングで立ちつくしている。息子は、鼻の頭に汗をかいて、やや興奮している様子。


「なんしよん?」

「30分ぐらい一人で格闘しよる」

「誰と?」

「ヤツが窓から入ってきやがった」

 そう言って天井の方を見上げた。うちはロフトがあるので、天井は高い位置にある。私も見上げるが、なにも見当たらない。

「電気の所におる。あれのどっかに隠れとる」

「ゴキブリ?」

「いや、カメムシ」

「カメムシ…… 別にいいっちゃない」

 この時点の私は()()()()()が勝っていたが……



「匂いを出したら?」

──刺激せんとげばいいやん


「寝とる所にとんできたら?」

──別に噛んだり刺したりせんやろ


「寝とる時に、体を這い回られたら?」

──…………嫌かも


「口に入ったら? 匂い攻撃してきたら?」

──…………



「嫌やろ…… めっちゃ」

「嫌やね…… めっちゃ」



 と、いうことで。

 うちのリビングの照明は、シーリングファンの下に電球が4つある。その4つの電球のどこかに隠れているらしい。

 改めて下から見上げるが、姿は確認できない。椅子に登って見回してみるが、ヤツはいない。


──そうだ!


 私は(ひらめ)いた。息子に「まかせとけ!」と告げ、颯爽とロフトの階段を駆け登った。そうです。そうなんです。ロフトに上がると、天井の照明器具と同等の高さになるのです。


「おった!!」

「どこ!?」

「ファンにくっついとる」

 ヤツは4枚あるシーリングファンの羽根に、へばりついて動かずじっとしている。悪いことにヤツは、こちら側から一番遠い羽根にいる。


 いざ対峙してみると緊張する。虫は飛ぶ。這い回る。すばしっこい。それだけならまだいいのだ。ヤツは…… カメムシは、『激臭』という強力な武器を持っていやがる! その武器を(まと)って飛んでこられたら、そう思うと凄〜く嫌だ。鮮やかな緑色。圧倒的なカリスマ性を感じる。でも私は戦う! だって安眠を確保せんといかんもん! 速やかにこの部屋から出ていってもらおう!

 

 さて…… どうしたものか? 届かない。高さはいいが、ヤツがへばりついたファンの羽根まで2メートル程ある。私はヤツを見据える。『緑のカリスマ』はまるで嘲笑うかのように、知らん顔でじっとしている。あの野郎め…… 


──そうだ!!


 私は閃いた。息子に「ゴムだ! ゴムをとって」と告げ、片足をロフトの柵にかけて臨戦態勢に入る。息子から輪ゴムを受け取り、

「そこのメモ紙とって」

「メモ紙?」

「そうメモ紙! 1枚で充分だ!」

 息子は1枚ずつ()がせるタイプのメモ紙を、ペリっと剥いで差し出す。不思議顔の息子に「メモ紙をこう使うのさ」と、ニヤリと笑ってそれを受け取る。


 メモ紙を受け取り小さく折って、くの字型にする。そう、弾丸の出来上がりだ。親指と中指に輪ゴムをかける。弾丸をゴムに引っかけ、手前に引っ張る。カリスマに照準を合わせ、息を殺して発射……


ぱすっ……


 弾丸はへなへな〜と、リビングに落ちた。


「なんしよん」と息子。

「いや、電球に当たったらって思うたら…… ビビった」

「どうするん」

「…… 弾とって、今度は仕留める!」


 不発弾を受け取る。再びゴムにかける。引き絞る。今度こそ。

「行けー!」


ヒュンッ!! バチコン!! ゴトッ!


 勢いよく飛んだ弾丸は、ターゲットから外れ、テレビ台の上に飾ってあった海賊漫画のフィギュアに命中。海賊一味のコックが、黒スーツにくわえタバコでポーズを決めたまま、床に転がった。


「怖い怖い! ゴムはやっぱり危ない」

「どうするん」

「…………」


──そうだ!!!


 私は閃いた。手前のファンの羽根には、ぎりぎり手が届く。そうです。そうなんですよ。私は手前の羽根に手を伸ばし、ゆっくり回す。ファンが回転する。奥の羽根が近づいてくる。当然、カリスマも羽根の上に乗って、為す術もなくこちらに近づいてくる。ついさっきまで、カリスマの威光を放っていたが、今はとても間抜けに見える。滑稽だ! 私は微笑む。人間をなめるな!! 


──この距離なら…… あっ!!


 カリスマはカサカサと動き出し、羽根の下側に移動した。


──しまった!


 カリスマの動きに反応して、息子はビビって避ける格好をする。私も、逃がしてしまったと一瞬考えた。しかし、羽根の下に移動したということは、リビング側から丸見えということになる。愚か者め! 人間をなめるな!!


 私は閃いた。息子に「紙コップの用意だ!」と告げ、ロフトからリビングへ颯爽と階段を駆け降りた。シーリングファンを見上げる。ヤツはいる。椅子に登る。丸見えだ。息子から紙コップを受け取る。椅子の上からなら、手を伸ばせば届く距離。この紙コップの中に落として、捕獲してやる。なにが緑のカリスマだ! 人間をなめるな!!


 そ〜っと紙コップを近づけ、ヤツをコップの縁に引っ掛ける。「それ!」コップをカスっとずらして、ヤツをコップの中に……

「うわっ!」

 コップの中に落ちてない! コップの外側をカサカサと這っている。咄嗟にカリスマがくっついたコップを、息子に渡そうとすると、

「いらん! いらん!」息子、全力拒否。

「おいおい! 嘘やろ」

「いらんて! 怖い! 気持ち悪い」

「ちょっと、嘘やん!」

 私は椅子の上でバランスを崩しそうになる。


 カリスマは、コップの外側をカサカサカサっと這い回る。このまま、コップから手に、腕に、さらに体に、首から顔に…… 走馬灯のように、ピンチに陥った私の脳裏を、最悪の妄想が駆け巡る。

──やめて! 嫌だ! 怖い!!


 私は腕をピ〜ンと伸ばして、出来る限りカリスマコップを体から離し、椅子から飛び降りる。

「窓を! 網戸を開けて!」

 さすがに、これには迅速に対応する息子。

「開けた!」

「どいてどいて!!」


 私はカリスマコップに勢いよく「ふぅぅっーーっ」と息を吹きかけ、コップからカリスマを吹き飛ばした。ヤツは夜の闇に吸い込まれていった。

──人間をなめるな!!!


 息子は流れるような動きで、網戸を閉め、窓を閉めて施錠した。そして、ほくそ笑んでいる。

──さっきは、裏切りやがって…… 

 なにを最後だけスムーズに動いとん。「封印したぞー」みたいな顔しやがって。勝ち誇った権力者みたいに…… まぁ、いいや。


 こうして、カリスマの最強の武器を発動させることも、無駄な殺生をすることもなく、平穏を取り戻すことが出来た。


──せーの! 人間をなめ……

「汗だくやん(笑)」息子が笑う。


「……」


「またシャワー浴びてくれば(笑)」

「…………」





「…………エアコンつけとって!」


 おしまい 原口 モでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ