12 第一回パーフェクトスイーツ選手権 本選
「さあ!! というわけで、エキシビジョンをお楽しみいただいたところで……」
マスターオブセレモニーの大賢者が仕切り直す選手権大会は、ここからが本番となった。テーブルの上に並べられたドーム型のカバーで覆われた作品は、司会者から近い順にピィちゃん、私、キラ、そしてアシハラとなっていた。
「いよいよ、ここからパフェ王を決める戦いの本選となります。参りましょう!! エントリーナンバー1番!! 大好物はしらすとたらこ!! 今日も朝からどんぶり飯!! プリティーマスコット!! ゼノ君!!」
「ピィ!!」
「はい、元気がいいですね。今日も可愛らしい。ゼノ君は、いくつですか?」
「ピピィ!!」
「なるほど。今日はどちらから?」
「ピッ、ピピピィ、ピィ!!」
「ほほう。それはまた、随分遠い所から来たんだねぇ。今日はお父さんお母さんは、会場に来てるのかな?」
「ピィ!」
「あ、お母さんが……これはまた、お若いお母さんで。お母さんはおいくつですか?」
誰がお母さんだ。一応乗るけど。しかしながら、今の私は大賢者の秘書官という役職を与えられており、法的にも重い義務を背負っている。その中でも基本的なものとして守秘義務というものがある。というわけで、もうすでに公開済みで、まったく意味はなさないが、これからは自身の年齢の公表を控えようと思う。私は自分の年齢を早口で大賢者に伝えた。
「あらまぁ、私のひとつ上ですか。全然そうは見えないですね。それにしても珍しいですね、お子さんより100歳以上若いお母さんというのも。さてゼノ君、今回作ってくれたパフェは何のパフェですか?」
「ピッ、ピィ、ピピピィ~」
「海パフェ!? それは気になりますねぇ。一体どんなものなんでしょう。それじゃあ、もうこっちで開けちゃいますね。はい、ドーン」
第七魔王ゼノによる『海パフェ』なるものが露わになった。一番下には砕かれたコーンフレークが敷かれ、その上のゼリーの層は濃い青と明るい水色が二層に分けられている。一番上にはバニラアイスクリームが乗せられていて、そこにタイ焼きが豪快に突き刺さっていた。
「わぁ、綺麗……」
思わず感嘆の声が漏れた。コーンフレークは砂浜、ゼリーは海、タイ焼きという手法でお魚までが表現されていて、まさしく海パフェと呼ぶにふさわしい作品。食べるのがもったいないくらいのレベルのものがいきなり出てきて、周りは困惑しているくらいだった。
「おぉ~。ちゃんと海じゃん。やるな、ゼノ」
「すごいなぁ。ピィちゃん殿って、手先が器用だったんだね。イカだからかな?」
「ピッ!」
「それでは実食!!」
タイ焼きは早々に大賢者とキラが半分ずつ食べてしまったので、私はパフェ専用のロングスプーンを使って、他の部分の試食をした。水色のソーダ味のゼリーはアイスとの相性も良い。濃い青色のゼリーはまた少し味わいが違っていて、水色のものよりも酸味が効いていて炭酸水のような軽い刺激があった。ピィちゃんの海パフェは見た目通りシンプルで、爽やかな味わいのものだった。
「全員味は覚えたか? じゃあ、次行こう。エントリーナンバー2番!! 好きな物は酒と卵と鶏肉!! お酒とご飯が美味しすぎて、最近また2.2キロ増えました!! 『でも、朝になったら、ちょっと減ってるから、これって、まだセーフだよね!? 服とか脱いでないし!! 本当はもう少し増えてないはず!! ね、ピィちゃん!?』 プライベートは意外と乙女!! 鋼鉄の魔女!! イシュタルちゃん!!」
「な、な、な?」
勝手に紹介された好物、誰にも言っていないはずの個人情報と内情、全く身に覚えのない二つ名、まさかのちゃん付け。すべてに困惑させられたが、大賢者は構わず進行を続けた。
「イシュタルちゃんは、どこから来たの?」
「え? えっと……ジャバル・アルカマル自治区です」
「あぁ、行ったことあります。いい所ですよね。イシュタルちゃんは、おいくつですか?」
私は自分の年齢を告げた。今度は威嚇の意味を込めて、少し息を止め、しっかりと間をとってからそうした。
「ハハハ、おっかないお姉さんだねぇ。今回の大会、自信の方はどうですか?」
「見た目のインパクトはないと思いますが、味ではあります」
「素晴らしい。それでは今回作ってくれたパフェはどんなものですか?」
「はい。旬の栗を使ったものを作りました。和栗と洋栗、両方のよさを活かして、重ねる順番に気をつけました。あと少しだけ、大人向けの隠し味も入れました」
「ほう、これは期待ができそうですねぇ。それでは開けます。はい、オープン!!」
大賢者が勢いよくカバーを外すと、自信作であるパフェがあらわれた。層の下の部分は甘さのある洋栗のケーキを、上の層には和栗のケーキにイチジクをあしらえた。一番上は生クリームと栗のクリームを交互に絞って、さらにその上に栗の甘露煮と渋皮煮をぎっしりと敷き詰めて、見た目を良くしたつもりだ。
「うまそぉ……」
「ピィ、ピピィ……」
「皆のもの、スプーンを持てぃ!! それでは、実食!!」
栗のパフェに多数のスプーンが群がった。ソフィーさんがパフェを口に入れてから「美味しい」と呟いてくれたところで、ようやく緊張がほぐれた。評価は概ね好評だった。ただ、一番下に入れた隠し味の部分がキラには不評であった。
「何だこれ!? あ!? ん? 酒? 私ダメだ、これ!!」
「俺はめっちゃくちゃ、うめぇ。ラム酒か。どっかの菓子で食ったことあったな。どこの何だっけ?」
「フランスの、サバランみたいになるかなって、思って」
「ああ、それそれ!! サバラン!!」
「これ、美味しいよ。今回みんなのレベルが高くて、ちょっとヤバいなぁ……緊張してきた……」
パフェの一番下に入れた隠し味のラム酒入りシロップを含めたスポンジケーキは、大賢者とアシハラには大好評だったが、票を集めるという意味では失敗したかもしれない。しかし後悔はしていない。今回のパフェには私の出来る限りの力と知識を詰め込んだのだから。
「はい、じゃあ次!! エントリーナンバー3番!! 米!! 納豆!! 海苔!! 米!! 肉!! 可能性の……獣!! 食いしん坊、キラちゃん!!」
偏りを感じざるを得なかった。明らかにネタが尽きてきたというか、私の情報だけ、なんであんなに多かったんだろう。悪意のある物真似までしやがって。
「優勝します!!」
遅れてやってきた怒りをよそに、キラはいきなりの優勝宣言をした。もっとも彼女は、いつもこんな感じではあるのだが。
「威勢がいいですねぇ。こんにちは」
「こんにちは!!」
「キラちゃんは、何歳ですか?」
「わかりません!!」
「どこから、来たんですか?」
「わかりません!!」
「質問の仕方が悪かったかな? キラちゃんは、どんなところで育ったのかな?」
「なんか暗い森です!!」
「その割には明るい子ですね。さて、今回はどんなパフェを作ってくれたのかな?」
「米と餅です!!」
今回もやってくれた。キラは独創的な部分があって、決してふざけているわけではない。当たり外れが大きすぎるというか、ギャンブルというか、試食するこっちはいつも無茶な冒険に付き合わされるような気分になる。今回の場合は米も餅も、単体ならば無味に近いものであることが救いだった。
「それではオープン!!」
テーブルの上に現れたのは真っ白な物体だった。下層に白、上層にも白、グリグリに巻かれていたであろうクリームを上から押しつぶすように、白い大福餅のような塊が力強くめり込んでいた。隕石が落下したかのようなその餅のまわりには、お団子がいくつか並べられていて、よく見ると生米のようなものがところどころに散らされていた。
「あれ? これって、ポン菓子?」
「うん。テレビで見た」
私が生米だと思ったトッピングに反応したのはアシハラだった。その反応を見るに、どうやらちゃんと食べられる物らしいことがわかった。
「はいじゃあ、全員、スプーン持って!!」
「ちょっと待った!!」
試食が始まる前にキラは冷蔵庫へと走っていき、信じられないものを手に持って帰ってきた。
「食べる前に、これ。ちょっとだけかける」
「えええぇぇぇ!?」
1リットルのどでかい醤油のボトルを手にした彼女の放った言葉に、ほとんど全員が衝撃を受けた。
「俺は賛成。きっと美味しくなると思うよ。でも、ちょっと待って」
キラの提案にただひとり味方をしたアシハラが、手のひらサイズの小さなスプレーボトルをキッチンから引き寄せた。
「これにお醤油を入れて、食べる時に半プッシュぐらいしてやるといい。あんまりかけると、バランスが悪くなると思うから」
「それでは皆の衆、スプーン構え!! 実食!!」
いざ試食が始まっても、皆、どうしていいかわからず、なかなか動き出せないでいた。最初は、ただひとりの賛成派のアシハラだけが動いた。彼は何の躊躇もなくすくったパフェに醤油をスプレーしてから口に入れると、キラに向かって何度も頷きながら親指を立てた。そこから一人、また一人と、この勇者の行動に続いた。慎重派のソフィーさんは、大賢者にすすめられてからようやく味見をする気になってくれた。
「ピピィ!!」
「ほんとね。お月見の時のお団子みたいで、美味しいわ」
「お前のことだから、アイスの入ってないガチの餅かと思ってた。ちゃんと餅アイスだったんだな。美味い美味い。パワーもつきそうだし、気に入った」
「これは芸術点100点だね。後付け醤油はかなり面白いし、ポン菓子の食感がまたいい。ソフトクリームか生クリームか、見ただけだとよくわかんないんだけど、そこがまたゲームみたいになっていて、食べていて楽しいよ」
「ポン菓子って初めて食べるけど、私はコーンフレークより好きかも。本当に美味しい。あとこの米粉のケーキ生地も甘さがすっきりしているから、最後まで飽きずに食べられるし、すごいね、キラ。これって発明かも」
全員大絶賛だった。思わぬダークホースというやつだ。キラの作った米とお餅のパフェは、醤油の香りのよさがパフェ全体の甘味をより引き立たせるものだった。
「デュフフフフ」
全員に正面から褒められたキラは、嬉しそうに身もだえしながら湿った笑い声をあげていた。




