13 思わぬ報酬
初代パフェ王を決める、第一回パーフェクトスイーツ選手権大会はクライマックスへと突入する。これより優勝候補アシハラのパフェが登場するわけだが、日本人である彼が和の食材を選ぶことは間違いないだろう。アシハラが普段おやつの時間に作ってくれていた和菓子や抹茶ドリンクのことを思い出しながら、私は期待に胸を躍らせていた。
「それでは次が最後の出場者となります!! 張り切って参りましょう!!」
「はいっ!! エントリーナンバー4番!! 北関東のとんでもない山の中から来ました!! 葦原無我!! 四十四歳です!!」
あ、ふざける気だ。私は察した。このオジサンがふざけ始めると、ある意味では大賢者よりも厄介な存在になる。元気の良いオジサンというだけでもう面白いし、持ち前の強面が手伝ってハキハキ喋るほどに囚人感も醸し出されて、いろいろとズルかった。
「ありがとう、ミスターアシハラ。キタカントーのその、とんでもない山の中っていうのは、どんな所なんですか?」
「はいっ!! すっごい田舎です!! 外に出たら、二分で熊に会えます!! あと、靴とか外に置きっぱなしにして、夜寝ちゃったりしたら、もう……終わりです!!」
「きっしっし。どうなっちゃうんだよ!! ちゃんと説明しろ!!」
ノープランでやってきたオジサンの尻すぼみになったボケを賑やかしのキラがアシストした。
「はいっ!! 山に隠れ住むヤバい連中に持ってかれて、次の日から裸足の生活になります!!」
会場全体がドカンと笑った。ヤバい連中とは何なのか。熊とか言っていたから、てっきり野生動物に持っていかれてしまうくらいの話だと思って聞いていたが、どうやらそういうことではないらしい。私は笑いながらも、改めて日本という不思議な国に興味を持った。
「今回参加されたメンバーの中でも、ダントツで治安の悪い場所で育ったみたいですねぇ。アシハラさん、もうラストなんで、これ以上笑いはいらないです。外も暗くなっちゃったし、早めに作品の紹介をお願いします」
タイムキーパーも兼ねていた大賢者は、盛大に笑いつつもしっかりと進行役を務めた。
「はいっ!! 巻きですね!? じゃあ、口で説明するのも省略しましょう!! どうぞ、もう開けて、みんなで食べちゃってください!!」
「それでは……はい、ドーン!!」
大賢者の手によって、最後のカバーが外された。露わになったアシハラのパフェは、それまでの空気を一変させるものだった。
「ヨーグルトのパフェです!!」
ニコニコしながら紹介するアシハラをよそに、会場はシーンと静まり返った。それはすぐさま押し寄せる大波を知らせる静寂だった。
「テメェ!! それはちげぇだろう!? お茶のやつを期待したよ、俺は!!」
静寂を最初に突破したのは、大賢者だった。前線を切り開いたリーダーの声に私も続く。
「そうですよ!! 私だって、絶対にアシハラさんと被らないように、気を遣ったんですから!! どうしてヨーグルトなんですか!?」
「バカおじ!! バカ侍!! ござるって言え!!」
「あれぇ……そんなに、怒る感じですか? でも、作った後に『あ、皆に求められてるのと違うの作っちゃった』って、自分でも思ったんですけどね。だけど、時すでに遅し、って感じで。あと吉良殿、それはただの悪口でござるよ?」
「とにかく作り直しだ、バカタレェ!!」
天然ボケおじさんのせいで、大会は前代未聞の延長戦へと突入することになった。大きな調理台に向かってひとり佇むアシハラの背中は哀愁漂うものだった。その背中を見守っていた私たちの方に、くるりと振り返ると、アシハラは雨に濡れた野犬のような表情で言った。
「でもぉ……せっかく作ったものなので、これ作ってる間に、せめて試食ぐらいはしてくださいね?」
「安心しろ。それができ上がった頃にはなくなってる。どうせ、うめぇんだから。お前の作るものなんて」
「なんか嫌な言い方だなぁ……」
大賢者が代表して全員の声をまとめた言葉を返すと、アシハラは珍しく反論をボソッと呟いた。
「なんだぁ?」
怒り半分ニヤニヤ半分の大賢者が肩をいからせ、謀反の兆しを見せた侍に詰め寄った。
「いやいやいや!! ごめんなさい!! ちょっと距離感を間違えただけです!! お茶のパフェですね!? ただちに用意しますので、五分ほど、お待ちください!!」
侍は両手を顔の近くに挙げて、その大きな身体をできるだけ小さくしようとした。私は軽く笑ったあと、隣にいたソフィーさんと目を合わせ、一緒に笑い合った。バカな男たちのバカなやり取りというのは、見ているだけで愉快な気持ちになるものだった。
なお、アシハラ特製ヨーグルトパフェはぶっちぎりの美味しさだった。私たち素人が作ったものと比べて、まず高さが違った。見ただけでキラとピィちゃんがその場でピョンピョン飛び跳ねて喜ぶほど、そのビジュアルは素晴らしかった。端麗かつダイナミックに盛り付けられたソフトな食感のフローズンヨーグルト。この中には柿のピューレが隠されていた。これが出てきたタイミングたるや、少しヨーグルトの酸味がきつくなってきたかな、と感じた頃にちょうどよく現れて、完璧に計算された職人の技というものを、まざまざと見せつけられた。フローズンヨーグルトの下にはチーズケーキのような味わいのヨーグルトがびっしりと詰められ、その中にはカットされたフレッシュな柿と、ピューレよりもさらに濃い柿のソースが使われていた。さらには一番下に敷かれていた砕かれたビスケットがヨーグルトの水分を吸って柔らかくなっていて、それが下の方で濃縮されたヨーグルトと柿のソースと抜群にマッチしていた。最終的には全員の伸ばしたスプーンが、お互いにぶつかり合うほどの激しい取り合いになった。
「はい、ごちそうさまでした!!」
「ごちそうさまでした!!」
大賢者の声に全員で復唱する。パフェが綺麗さっぱり消え去るまで、五分もかからなかった。さすがは私たちの胃袋を支配する男。文句なしの味だった。
「アシハラ、うまかったよ。ごちそうさん。それで、もうできたかぁ?」
「はい、ただいま完成しましたぁ!!」
もうそうしなくていいのに、わざわざ律義に丸型のお盆にドーム型のカバーを被せて全員が食べたかったお茶のパフェを持ってきたアシハラが、今度は自らの手でカバーを開けた。
「ほうじ茶とチョコナッツのパフェです。どうぞ、ご賞味あれ」
再び訪れた静寂。私の耳には大賢者が大きく息を吸い込む音がよく聞こえた。
「だからぁ!! ちげぇっつってんだろ!? お前……なんでそんな急に、ポンコツになっちゃったんだよ!? さっきソフィー慰める時に、めちゃくちゃ難しい言葉選んで使ってたやつと本当に同じやつなのか!? いいか!? 俺たちがお茶って言ったら、抹茶のことなんだよ!! 緑の!! グリーン!! なにこれ!? 色が淡い!! ほうじ茶とか、俺たちにはまだ早いから!! 作り直し!!」
もはや食レポをする気にもなれなかったため、省略するが、ほうじ茶パフェも絶品だった。まさかまさかの再延長戦の果てに、ようやく作られた抹茶パフェの味は、もう体が甘いものを求めていなかったからなのか、微妙なものだった。当分いいかなと思えるほどに糖分を摂取した私は、タイから帰ってきた時の大賢者の気持ちが少しだけわかってしまったのだった。
キラがまた突飛な提案をしたのは、宴もたけなわとなり、パフェだけで腹がはちきれんばかりになった時だった。
「パフェ食い過ぎて、なんか寒くなってきた。みんなで温泉入りたいな」
これに答えたのは少しだけ困った表情を浮かべた大賢者で、その言葉は私にとって思わぬ報酬となった。
「温泉かぁ……昔やろうとしたんだけど、その時はほとんど家に帰れなかったし、元が取れねぇと思って契約してねぇんだよなぁ。でも確か家族割とかもあったし、今なら契約しても全然いいな。もう遅いから、それは明日行ってくるとして、地下に設備だけの雰囲気温泉を作ってやる。今日のところはそれで我慢しろ」
「本当か!? やったぁぁぁ!!」
キラは両手を挙げて喜んだ。私は内心で、彼女以上に喜んでいた。
こうして男湯女湯がきっちり分けられた、いつでも入り放題の温泉施設が拠点に追加されることとなった。ちなみに賞金一リーブを手に入れたのは、普通に美味しいヨーグルトパフェを作ったアシハラだった。




