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大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 エルフの章
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1 モノローグ:ティナ・エーデル・アレキサンダー 【初孫】

 

「んじゃあ、各自、しっかり挨拶するように。恐ろしい領主様を怒らせて、呪われたくなければな。フハハハハ!」

「……」

「お前、まだ人見知りするのかよ。いい加減慣れろって。まあいいや、次。どんどん行け。人数いるんだから」

「キューン!」

「こんにちは」

「ピィ!」

「こんちゃ! キラです! 優しくしてください! こっちは旦那のムガ!」

「お初にお目にかかります。葦原無我(あしはらむが)と申します」


 いきなり多いわね。この中で会ったことがないのは、まだ成熟しきっていないエルフと、袴よりも黒いTシャツと軍パンが似合いそうな、がっちりむっちりとした体型の中年の男。少しばかり能力を査定してみましょうか。


 まずはエルフ。さすがに容姿は整っていますね。でも、足が臭そう。肝心の魔力は、ヨーロッパの半分を焦土にできるかどうかといったところ。見た目通りの年齢だとしたら大したものだけど、何十年も生きてきてそれじゃあ話になりませんね。初見とは思えない舐めた挨拶といい、我が家の基準からすると、まだまだ一人前とは呼べませんね。私自らの手で礼儀というものを、一から叩き込んでやろうかしら。


「ニシシシシ!」


 ずっとヘラヘラしてて、なんか頭悪そうだし、再教育するには手遅れみたいですね。オシッコとか好きそう。それにしても、エルフというのは歯まで綺麗なのですね。歯といえば、揃いも揃って全員、口が青リンゴ臭いのはなんでかしら。


「……」


 さてさて、対して寡黙な大男。日本人ですね。ジャパニーズウィザードはミステリアスな雰囲気が素敵なんて言われて、私の母の世代では熱狂的な人気が出たこともあると聞いたことがあります。が、実際に対峙してみると何考えてるかわからなすぎて、こんなにも不気味。なに、この男。雰囲気だけで私に不穏なものを抱かせるとは、なかなか見どころがありそう。野郎の癖になぜか魔女の秘法が使えるみたいですね。ふーん、勉強熱心でいいんじゃないですか。ともすれば、結構タイプかも。弱いのよね、学徒に。エドガンもそうでしたから。


 ビジュアルは滅びていますね。世間という名の小虫たちがさもしく生きている世界では、ブスと呼ばれていることでしょう。でも、そこが逆にそそる。バジリスク? 違うわね。この男、本当に何者なの? 半妖? 一体全体どんな魔術を使うのか、皆目見当もつかないわ。試しに一発、ぶん殴ってみようかしら。


「シュッ!!」

「ぶっ」

「えええぇぇ!?」

「フハハハハ!!」


 いや、グーでいったのに抵抗ゼロって。随分と殴られ慣れているではありませんか。面白い男ですね。母は気に入りましたよ、レオナルド。愛玩用として飼いたいかも。ダメかしら?


「まあ、そういうことでコイツが初孫になるわけだ」

「孫……」


 耳が長くて、サラサラロングヘアで、頭の悪そうなエルフの初孫? アレキサンダーに金髪はいませんけど?


「おめでとう。今日から俺もオーマって呼ぶわ」

「オーマ……」


 突然のおばあちゃん呼び? 精神的に老けそうで、母は嫌ですけど?


「それとさ、コイツ一応エルフだから、なんかあった時には預けるかも。そん時はよろしく」


 それはいいんですけど、レオナルド……あなた、わかってるの? 私たちアレキサンダーの血筋を赤の他エルフに任せるつもり? 家系図がまるっと変わっちゃうじゃない。領民もいい顔をしないことでしょうし、それはいけませんよ。


「レオナルド?」

「わかってるって。コイツとはちゃーんとパコってるから、大丈夫だよ」


 それならば、よし。ただ、ソフィーとか言いましたっけ? メアリーと違って、その嫁は全然喋らん。母は心配です。そのあたりのことはよろしく頼みましたよ、サラマンダー。


「キュオーン!」


 相変わらず、可愛い忠犬ですこと。どちらかと言えばユリエル派に所属する他の精霊たちと違って、この子だけはずっとレオナルドに懐いていますね。幼少の頃は、私もよく一緒に遊んだものです。そんな私の初めての息子だから、特別な思いがあるのかもしれませんね。それとも粗野なのが好きなのかしら。火の精霊だから。


「お久しぶりです。しばらくの間、お世話になります」

「ピピィ!!」


 脇っちょに第七魔王ゼノの幼体を連れているのはイシュタルね。ええ、覚えていますとも。以前よりもすっきりとした、吹っ切れたような顔つきになっちゃって。正式にレオナルドの部下となったと聞きました。いい傾向ですね。こういう、壊れているのに壊れていないふりをしている魔女が一番化けますからね。ようやくレオナルドも、そのあたりのことがわかるようになってきたのでしょう。


 ゼノは……何なのかしら。やたらめったらイシュタルに懐いちゃって。魔女の魅力で魔王を骨抜きにしたということでしょうか。いい関係ですね。将来的にこの2人の間に子供が出来たら、もう完璧。それ以上言う事はありません。イカ人間の精子って、普通の人間に取り入れても大丈夫なのかしら。そのあたりの事も、詳しく調べておかないといけませんね。


「というわけで、こっちからの挨拶と報告は以上。オーマからは何かあるかな?」


 突然こんな大勢を連れて来たりして何事かと思ったら、集落で行われる伝統的な祭りを見学したいとのこと。嬉しいじゃありませんか。母としてだけでなく、領主として誇らしく思います。歓迎しますよ、レオナルド。でも、ちゃんとした連絡方法をそろそろ覚えなさい。あんな、わけのわからない短文の手紙を、何回にも分けて送る癖をおやめさない。


「祭りの事ですが、現代に生きる魔法族にとっては少々刺激が強いかもしれません」

「そんなん、百も承知だよ。なぁ、タルぅ?」

「え、えぇ……」

「コイツ、老後はこういう所で暮らすのが夢なんだってさ」


 何ですって? ここで暮らしたいですって? なんと素晴らしい。イカ人間との交配だけでなく、アレキサンダーの発展の為に一生を尽くしたいと? 使える構成員はどんどん増やして然るべき。自らが腐敗していっていることにも気付かず、緩やかに崩壊している魔法界に比べ、私たちの未来のなんと明るいことか。


「そうでしたか。しかし祭りはまだ少し先です。当分はここで骨を休めていくと良いでしょう」

「言われなくても、そうするつもりで来た。あ、でもメシは作らなくていい。俺たちは肉が食いたいからな。別で用意して勝手に食うわ」


 は? 許せるか、そんなこと。あれだけ野菜を食べなさいと、口を酸っぱくして育ててきたでしょうが。あなた、もう30になったんでしょう? 聞かん坊のまま、何も変わってないじゃない。あの頃のように魔封牢にぶち込んで、それだけじゃどうせ抜け出すから、さらに鎖で全身をグルグル巻きにして、逆さにして壁に貼り付けてやろうか。


 ……とはいえ、レオナルドは自らの力でなかなかに面白いファミリーを形成して、こうして私のもとへ帰ってきてくれました。面子の問題もあるでしょうし、ここは私が折れてあげることにしましょう。


「望むならば、お肉も出しますよ?」

「う~ん……どうしよう。ショボいんだよなぁ、オーマの肉料理」


 おいおい、なんていう事を言うんだ、私の息子は。私は家族の健康を預かっている立場として、色々と考えてそうしているんですよ。バカ息子もほどほどにして、そういう事はもうお分かりなさい?


「私はオーマのご飯、食べてみたい!」


 あらあら、可愛いことを言ってくれるじゃない、私の初孫は。エルフには菜食主義のイメージがある分、逆にお肉を食べさせたくなるわね。ブルートヴルストでも出そうかしら。それとも、頭が良くなるように魚を食べさせるべきかしら。魚ね。悩むべきじゃなかった。今は可愛いで済むけれど、大人になってバカなのは笑えないもの。


「私もキラに一票。それに、そうした方がアシハラさんも休めますよ?」


 あぁ、イシュタル。レオナルドにはタルと呼ばれているようですね、アレキサンダーに忠実なタルちゃんは。タルタルソースでも作ってみようかしら。ダメね。マヨネーズと卵なんて、コレステロールが多すぎますから。


「あ、そう。じゃあ、そうするか。野菜狂信者は怒らせると怖いしな。キラ、初めて会った記念にオーマのおっぱい、揉んでみるか?」

「うん!」

「よし、じゃあ自分でお願いしなさい」

「オーマ! おっぱい揉ませてください!」


 おいおいおい。全盛期のエドガンでも言ってこなかった事を平然と。しかも何の脈絡もなく。魔力差わかってるのかしら、この子。まあ、今回はその勇気を称えて、特別に許してあげますけど。


「良いでしょう」

「えええぇぇ!?」

「うわわわわ!? すっげぇ!! 手が吸い込まれる!! ソフィーより柔らけぇ!! 地獄に引きずり込むおっぱいだ!!」


 速い。それにこの手つき、相当に揉み慣れている。さらに嫁と比べて上げてくるとは、案外やるじゃないですか。オーマは気に入りました。


「これからよろしくお願いしますね、キラ」

「うん! オーマはいい匂いするし、おっぱいも柔らかくて、カッコよくて、最高! 私もオーマみたいになりたい!」


 オーマはキラを大変気に入りました。いいでしょう。滞在している間、あなたには私が出来うる限りのことをみっちりと叩き込んで……ん? この子、なんか最初に『旦那』とか言っていたような。


「アシハラ……」

「呼び捨てにて、結構にございまする」


 笑止。取り繕ったところで、あなたが尋常じゃないドスケベフェイスでこちらを見ていた事には気付いていましたよ。しかしそれよりも、私には知るべきことがあります。


「あなた、葦原家のアシハラですか?」

「はっ。14代目にございます」


 初代アシハラが第六魔王を討伐したのは約630年前。計算が合わないですね。やはり半妖ということでしょうか。この男とキラの血統が合わさったら、どんなに素晴らしい命が生まれてくることでしょう。ぜひとも、この目で見てみたい。


「キラ。あなた、アシハラと結婚を?」

「うん! 身体が大人になったらする!」

「まだ、なれないのですか?」

「1回なったんだけど、よくわかんない!」


 どういう事かしら。1度成長したのに、元に戻ったという事? 自分の意志でそうしたという事? それとも何か他の、外部の魔力の影響? いずれにせよ、興味深いですね。


「よろしかったら、私が成長のコツを教えて差し上げましょうか?」

「え!? そんなこと出来るのか!?」

「いいえ。やるのはあなたです。すべてはあなたの努力と根性次第。私は知識を与えるだけにすぎません」

「カッコいい……頼む!! いや、お願いします!! 教えてください、オーマ!!」


 素晴らしきかな、初孫。愛を信じてよかった。勇気をもって魔法界に飛び込んできたエドガンと出会い、レオナルドが生まれ、ユリエルが生まれ、今こうして、新たな希望と出会った。血の繋がりは関係ありません。この子こそが、アレキサンダー家の姫。愛と勇気と希望の名のもとに、まずはこの私が伝説のマジカルプリンセスの再誕を手助けしてみることにしましょう。

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