父の背中を追いかけて
自転車のペダルに力を入れて家に急ぐ。雪宮と書かれた家に着き、扉を開ける。
「おかえりなさい。お兄ちゃん」
「ただいま、おとねちゃん」
出迎えてきた黒髪の妹の頭をなで抱きかかえると、妹は満面の笑みを浮かべた。
妹の名前は、桜桃音と書く。友人も桂生と書いてケイと読む。
名前も読みもいろいろと考えていたら、長い黒髪の女性が奥から姿を見せる。
「ただいま母さん。着替えてアルバイトに行ってくるよ」
「お帰りなさい、アーニーさん。少し休んでからでも良いのよ」
「大丈夫。母さんこそ休んでてよ。昨日、父さんの三回忌が終わったばかりだし」
制服のまま仏壇の前に座り、仏具の鈴を鳴らして、父にも挨拶する。
「お兄ちゃん、もう行っちゃうの。お仕事が恋人なの?私と仕事どっちが大事?」
「おとねちゃん……どこで覚えてきたの、それ」
「保育園!」
僕は苦笑し、おとねちゃんの頭を撫でる。上機嫌の妹に見送られ、部屋に戻る。
急いで着替がえ、アルバイト用の荷物を持って自転車で出発する。
道すがら、家から持ってきた袋状の荷物を見て、父さんを思い出す。
(父さんはどうして亡くなったんだろう……)
父さんは外国人で名前はピューター。
母さんはこの国の人で名前は静琉と書きシズルと読む。
父さんと母さんはとも魔法が使えることで出会い、結婚したと聞いている。
(二十歳になったら、一緒に酒を飲もうと約束してくれたのにな)
僕とおとねちゃんは結婚記念日に生まれたと教えてくれた父さん。
妹が生まれてすぐに魔法の研究による事故で亡くなった、と母さんは話す。
(どんな事故か聞いてもぼやかされるんだよな……雲をつかむような感じに)
だから、僕は父の背を追うことを決め、高校に入ってすぐアルバイトを始めた。
肩に背負っている荷物は父の形見で、魔法を使うのに必要な道具になる。
魔法を使うのに必要なものは指定された袋に入れ持ち運ぶように言われている。
(一目で魔法使いとわかるための、工夫だってさ)
高校を卒業したら、父と同じ仕事に就くと誓った日を思い出す。
三年という月日は振り返れば早く、過ぎるには遠く感じた。
「あら、アーニーさん。こんにちは」
「ミサキさん。こんにちは」
アルバイト先に到着すると、ミサキさんが僕に声をかけてくれた。
眼鏡にクリーム色の髪と、紫色のとんがり帽子にローブと言う魔女のスタイル。
見るからにして魔法使いという格好で、ミサキさんは受付に座っている。
「やっぱりそういう格好のが、良いですかね?」
「これは受付の服装だよ、アーニー君は動きやすい格好で良いよ。今みたいに」
今の服装はパーカーにジーンズ。私服なのに良いのだろうかと、毎回思う。
「今日も街のパトロールですか」
「日勤者と夜勤者をつなぐ大切なお仕事よ」
「そうだぞ、アーニー君。パトロールは大切だぞ」
整ったひげを生やし肌の色が濃い男性が僕とミサキさんに話しかけてきた。
ミサキさんは席を立ち、慇懃に頭を下げる。
「ダグさん、お帰りなさい」
「ミサキ君。アーニー君と一緒で良いよ。堅苦しいのは、どうにも苦手でね」




