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正義の条件  作者: ありと@
第2章『白い薔薇の少女』
24/85

3.騒乱の予兆

「成程……怪人の死体、か……」



 ビジネスホテルの一室のテーブルを挟んで瀬雅とルミ・ティイケリは向かい合っていた。話題はもちろん先ほど見かけた奇妙な怪人の死体。服装の話はしていない。机上にはいつの間にかティーセットが準備されていて、どこの令嬢だよ、と内心突っ込みたくなる。



「ああ、怪人は普通力尽きると魔力を失って消滅するだろ?」



 ふむ、と顎に手をやり考えこむルミ。怪人のことなら怪人にくわしい上位種に聞くのがいいと思ったのだ。


 上位種が人間側に拘束されるのは異例で、しかもそのルミは人間に情報の面で協力的であった。そういう経緯もあって特別緩い監視下で生活しているのだ。下手に害して各地の怪人が一斉に向かってきたらそれこそ戦争の再来である。



 瀬雅はルミの待遇がどうなっているのか気になっていたので丁度良いと思って来てみたのだ。怪人の死体について特に進展がなくてもいいと思っていた。が、呪いから解放されて本来のキレを取り戻したルミは、何かを閃いたように碧眼を見開き、そして深刻な表情を作った。



「推測の域を出ないが、不味いかもしれないな……」

「え?」



 気になる程度の意識でいた瀬雅は居住まいを正す。ルミはこほんと可愛らしく咳払いすると可能性について話し始めた。



「瀬雅の言う通り、怪人は普通力尽きると霧散する。これはワタシ達怪人の体が魔力でできていることに起因する。」


「身体って……血液の代わりに魔力が通っているのは知ってるが、全部なのか?」


「そうだ。ニンゲンが細胞から成るように、怪人は肉体全てが魔力が変化した個体、気体、液体で成っている。故に生命活動が停止すれば空気中の魔力に還ると考えられているのだ。」



 怪人の科学力は人間より遅れているので詳しくは分からないがな、と付け足すルミ。死ぬと消えるという現象に合点がいったと共に、こういった情報を人間に提供してこの待遇を得ているのだろうと察した瀬雅。


「じゃあお前も、ルミも全部魔力でできていると?」

「そうだ。」

「その綺麗な銀髪も?」

「そうだ。」

「宝石みたいな目も?」

「う……そうだ。」



 若干座り心地が悪そうにもぞもぞするルミ。瀬雅は怪人の体構成について新見解を得て高まっているため、ルミをほめちぎったことに自分でも気づかない。しかし、そうかそうかと頷くうちにルミが示唆したいであろう可能性に思い当たった。



「あ、じゃあ、人間ベース(・・・・・)なら……」


「そう、例えば瀬雅。オマエが仮に死んだ場合、怪人となっている魔力は霧散するが、ニンゲンがベースである以上、完全に消滅することはない。ベースの部分が死体として残るはずだ。」


「じゃあ、あの死体は……!」



 とんでもないことに気づいてしまったと身をのりだす瀬雅。ルミはまあ落ち着けと座らせて話を続けた。


「いや、死体はタンポポ型、植物族の怪人だったのだろう。もし、ニンゲンがベースの死体ならば人間の形をしているはずだ。オマエと同様の"実験台"の死体ではないだろう。」



 瀬雅が思い当たった可能性――瀬雅と同じ怪人にされた人間の死体であった可能性が否定され、とりあえず安堵したくなる、が、結局怪人が死んでいたということには変わりないので、複雑な心境で手元にあった紅茶を啜った。ちなみに不味そうな顔をしている。



「じゃあ、あの死体は一体?」



 再び振り出しに戻った感覚にめまいを覚える瀬雅。だがルミが思いついたのはもう一つあったのだ。



「怪人を殺してしまえば霧散する。が、仮に精神のみを刈り取ることができたなら或は……」


 ルミは顔を顰める。


「そんなことが可能なのか?」


「普通は不可能だ、そんなことができるとしたら強力な固有能力(M・アビリティ)か、或は"呪い"か……」



「呪い……」


「いずれにせよ怪人に強い恨みを抱いていることには間違いなさそうだ。」



 ルミはそう締めくくると紅茶で形の良い唇を湿らせた。瀬雅は再び思案顔になる。ルミが言ったのは自分達と同じ実験台か、ルミから見て不味いと思う程の強力な怪人――上位種クラスの怪人が活動している可能性を指している。



「まぁ、今の時点では何も言えん。今後同じように怪人の死体が見つかるようだったら注意することだ。」


「ああ、ありがとう。色々聞けて勉強にもなった。」


「ワタシも話し相手は歓迎だ。」




 話し込んでいたせいで結構な時間がたっていた、外は今頃夕焼けだろう。瀬雅はそろそろおいとましようと立ち上がり、ドアに手をかけたようで振り向いた。



「あー、なんだ。元気そうで安心した。」



 予想外の台詞にルミは目を丸くして呆けたが、次の瞬間には見る物を魅了する小悪魔的な笑顔を浮かべた。




「気の利いた台詞ならでぇとの相手にかけてやれ。」


「うっせ。」




 実験台(なかま)同士の軽口、瀬雅の敗北であった。




―――――――――――――――――――――


 西区の駅に瀬雅が着くころには日は更に傾き、夕焼けと夜空が絶妙なコントラストを醸し出している。結局何も決まらず明日を迎えることになりそうな瀬雅がボーッとしたまま駅構内を歩いていると



「あれ?あのサイドテールは……」



 遠くにいるまばらな人の流れに見えた黒髪。瀬雅は西区に用があるのか?と意外に思いつつ手を振る。


「おーい麦町!……あれ。」




 しかし瀬雅の呼びかけに振り向かずに流れに入っていき、少女はすぐに見えなくなった。



「人違いか?」



 どちらにせよ、明日は魅甘と出かける予定なので、その時にでも聞いてみるかと決めて帰路につく瀬雅であった。











―――――――――――――――――――――


――???



 そこは廃墟であった。以前ルミが結界で生み出したイメージ状の、激しい戦いの痕の町ではない。空は完全に雲に覆われ、ビルには蔦が絡みつき、割れたコンクリートからはところどころ木の根が顔を見せている。



 文明が自然に飲まれつつあるその光景は、荒廃なのか、遺跡と化した名所なのか。建造物や道路だけ見れば都会であるのに、生活の跡が消えてしまった世界。そんな中いくつかの影が集っていた。



「準備は進んでるかァ?」



「は。」



「よしよし、順調に兵も増えてる。この調子なら数週間後にはおっぱじめられるぜ。」



「気取られぬよう勧めた結果、存外に時間がかかりましたな。」



「ああ。しかし獣臭い連中に目が行ったおかげで随分と捗った。」



 不気味な、ニヤケるのを抑え込んでいるような声色が廃れた町に響く。




 人間の平和は近いうち再び脅かされることになる。今その変化に気づいている者は、大和町にはごく少数であった。




 瀬雅とルミが懸念する最悪のシナリオが、水面下で進み始めている。










2016.11.16以下の点を修正

誤)話し込んでいたせいで日は既に傾きつつあった。

  → 話し込んでいたせいで結構な時間がたっていた、外は今頃夕焼けだろう。

  地下の室内なんで、日の傾きを視覚で感じるのは不自然でした。すみません。


ここまで読んで下さってありがとうございます!


次話投稿は明日15時です!

ブクマやらお待ちしております( ;∀;)

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