1.日常
微妙な距離感を書きたい……です。
獣族の上位種、ルミ・ティイケリの脅威が人知れず去ってから数週間、大和町は何件かの怪人との小競り合い以外は穏やかな日々が過ぎていた。
5月、初々しい出会いの季節はすっかり過ぎ去り、日も長くなってきた。アスファルトで固められた大和町は早くも温かさが度をこしつつある。
変わったのは天気だけではない。なんでも、獣族の襲撃で破壊されたスーパーが東区駅前で新装開店したらしい。
一方、北区――ヒーローを養成する学園、天野学園では、新学期が始まったということで、座学も訓練もより本格的なものとなっていた。
「大分校内の雰囲気も落ち着いてきたよなー」
窓際で自分の机に頬杖をついているのは2-C米村瀬雅。"悪そうだがよく見れば整っている"と評される顔は現在だらしなく緩んでいる。
「1年生も学園になじんだみたいだしな、去年を思い出すよ。」
「んあー、やっぱお前らもそうだったのか。」
「セガは夏から転入だっけか、4月のワクワク感なんてのは誰でも感じるって。」
緩み切った瀬雅と言葉を交わしているのは同じく2-C金堂鐸。青髪に鼻に常に貼ってある絆創膏がどこか活発な印象を受ける、が実は運動音痴というちぐはぐな少年である。
瀬雅は窓際の机に座ったまま、鐸は教室の窓際の壁に腰掛けて談笑、つまり休み時間の日向ぼっこをしているのだ。
「てかセガだらけすぎだろ、怖い顔でふやけててもかわいくないぞ。」
「うるせぇ。金堂こそ光合成してるじゃねーか。」
「してねぇよ!」
瀬雅と鐸のやりとりは相変わらずであった。が――
「……もう少し、静かに」
「あ、ゴメン麦町さん」
「俺からも謝る麦町、金堂が騒いで申し訳ない。」
「おい!」
半年以上続く2人の軽口に最近、転入生麦町魅甘が加わったことは変化の1つと言ってもいいだろう。互いにボケあう瀬雅と鐸の中に魅甘の毒舌が入ることで、穏やかな日常がほんの少し刺激的になる。そんな気分を瀬雅は感じていた。
「……静かにしないと、集中できない。」
「お、悪い。てか何してんだ?」
「……光合成」
「「してるの!?!!?」」
つまるところ、2-Cは今日も平和であった。
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――昼休み
「メシ君!金堂行こうぜ!」
「逆!」
午前の授業が終わり、瀬雅が食堂に鐸を誘う。いつものように廊下に出て食堂へと向かうが、今日は魅甘も一緒だった。
「麦町、メシ行かないか?」
「……いいけど」
と、誘った瀬雅。後ろの席の魅甘は人形のように整った無表情でどこかそっけない感じで応えるが、横で結わいた髪が嬉しそうにピコピコ動いているような気がした。
廊下を歩く3人。すっかり打ち解けた様子で駄弁っているが、魅甘このような経験があまりなかった。
魅甘は端的に言ってしまえば"影が薄い"少女であった。整った顔立ちに、艶のある黒髪。服装が最も選びやすい理想的な身長、それを裏切らないプロポーション。
容姿だけでも長所がこれだけ挙げられる彼女だが、人見知りが災いしてか体質なのか。転入当初は質問責めしていた周囲も自然と彼女への関心を薄くしていった。
そんな中、変わらず昼食に誘ったり駄弁ったりしてくる2人に悪い感情は抱いていないようだった。特に瀬雅には。
瀬雅は魅甘の前で正体を明かした。それをどう受け止めているかは誰にも分からないが、こうして昼を一緒していることから、悪い印象ではないだろう。
兎に角、学園生活で3人の距離は少し近づいた。そして最近、学園ないで変わったことがもう1つ。
ドン。
「って。」
「おいおい、どこ見て歩いてるんだ?"Cクラス"」
先頭を歩いていた鐸に男がわざとらしくぶつかってきた。
「"Cクラス"は注意力も散漫なのかな?」
「いやクラスは関係……」
得意げに眼鏡を押し上げた男は息を吐くように鐸を侮辱した。いや、鐸というよりCクラスを。
天野学園は1学年10クラスに対して2学年では5クラスになってしまう。これは離脱する生徒の多さ、ヒーローへの道の過酷さを物語っている。
そして残った生徒の内、ヒーロー志望を諦めないものが素質に応じてAクラスからCクラスに分けられるのだ。
そこに技術系、医療系の2クラスが加わって2学年は成り立っている。
つまりCクラスは実質、素質の低い"落ちこぼれ"の集まりなのだ。生徒の所属はタイピンに記されている為、少し見ればすぐに分かってしまう。1年の頃にはなかったレベル別のクラス分けは、ここにきて露骨なスクールカーストを構成しつつあった。
「まぁその謝罪に免じて許してあげよう。」
そういって男は来た道を戻っていく。
「いや、謝罪してないけど……」
「てかアイツBクラスだろ?わざわざぶつかりに来たのかよ。」
「……暇人」
三者三様の感想を漏らすCクラスの面々。廊下は今のやりとりを見て顔を顰める者とCクラスを嗤う者とに分かれていて、タイピンを見ずともクラスが分かりそうだった。
これは、悪いほうの変化だといえよう。
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――放課後
「よし、今日の訓練はここまでだ。2人とも大分連携が取れるようになってきたな。」
Cクラスの担任にして、大和町3大ヒーローと称される男、五十嵐光は訓練の終わりを告げる。ルミ・ティイケリを無力化した瀬雅と魅甘に対し、学園の一部の教師は更に2人の評価をあげた。
それからも2人の訓練は続いており、基本的な能力はすぐには変わらないにせよ、戦術的な部分は成長を見せていた。
解散の合図をもらい、瀬雅と魅甘は着替えるためにそれぞれ更衣室に向かう。もちろん健全な友人である2人にハプニングは起きない。
「……じゃあ、また。」
「おう、校門でいいか?」
瀬雅と魅甘は結構な期間一緒に帰っている、というよりは瀬雅が東区まで魅甘を送っている。
瀬雅にとって悪魔の体を持つ自分を認めてくれている魅甘は、仲良くしたかった。実に高校生らしい。しかし魅甘の返事は悲しい知らせだった。
「……また、明日。」
「え?ああ。」
「……もう、怪人出てないし。」
魅甘は瀬雅の申し出を断る。もともと、怪人の目撃例が出ている東区へ女の子1人では危ないという五十嵐の懸念がきっかけだったのだ。瀬雅に遠回りどころではない時間を浪費させるのは申し訳ないのだろう。
「いや、でも……。」
瀬雅は学園内の寮に暮らしているのでそもそも校門まで行く必要すらない。それは瀬雅自身も感じていた、鐸だったら「俺が君と帰りたいんだ!あとスーパーでセールやってるんだ。」などと言うのだろうか。残念ながら瀬雅は軽口を叩く癖はあっても変なところで押しが弱かった。
「……流石に、毎日わるいから。」
仲良くなったことでできた、以前にはない微妙な遠慮。鐸と3人のとは普段通りだが。瀬雅は無理にとは言えない、が楽しみが減ってしまうのかと内心残念がる。
そんな瀬雅を見ていた魅甘が意外なことを口にした。
「……連休、どこか行きたい、かも。」
「あ、はい。」
瀬雅にNOという選択肢はなかった。
誤字脱字等ありましたらご指摘ください!
次話投稿も明日15時!是非よろしくお願いします。




