22. 春
それからしばらくの時が経ち、季節が進んだ春の日。
私とリアムは、揃って王宮にある王太子執務室を訪れていた。
「やあ。久しぶりだね。座って座って」
アレクサンダー殿下は、変わらず綺麗な顔立ちと優しい笑顔で、気さくに私たちを迎えてくれた。
彼の顔をまっすぐ見つめても、もう苦しくない。私の心がそちらを向くことも、二度とないだろう。
「今日は、改めて報告に来た。先日、両家で正式に婚約の書面を交わし、一年後に結婚することが決まった」
お茶が用意されるのを待って、リアムがそう切り出すと、殿下の顔にぱあっと喜色が浮かぶ。
「そっかそっか! それはおめでとう! 式の日取りや場所はこれから?」
「ああ。オーロラと相談しながら、準備を進めているところだ」
隣に座るリアムが、こちらにやわらかな眼差しを向けたので、私も微笑んで頷く。
「うん、本当に良かった。二人は気が合うと思ったんだ。最初の頃はさ、王太子命令を出したはいいものの、リアムがこれ以上拗らせてしまったらどうしようかと不安だったから」
「……俺はアレクにも心配をかけていたんだな。すまなかった」
「全くだよ」
リアムが軽く頭を下げると、殿下はわざとらしく唇を尖らせた。
「まあ……紹介されたのがオーロラではなかったら、間違いなく前よりも意固地になっていたとは思うがな」
「うん、それは否めないな」
リアムの言葉に、殿下が腕を組んで重々しく頷いたので、私は思わず笑ってしまった。
「ふふ。殿下、私をリアムと引き合わせてくれて、ありがとうございます。それと……色々、ごめんなさい」
「ん……ああ、うん? 感謝の言葉は受け取るけど、謝罪はどうして?」
殿下は、私が謝った理由がいまいちわからなかったらしく、首を傾げた。
私は、笑みを深めて首を横に振る。
「お分かりにならないなら、いいんです。ただ私が謝りたかっただけですから」
「んん……?」
殿下はさらに疑問が深まったらしく、眉間に皺を寄せている。
それを見てリアムが、小さく吹き出した。
「ふ、アレクもまだまだだな」
「え、何? リアムにだけは言われたくないんだけど」
優越感を滲ませて笑っているリアムと、ますます口を尖らせる殿下を見て、私はまた声を上げて笑った。
私がルミナス公爵家に預けられ、一人で苦しんでいた時に、殿下が私を助けてくれたこと。
その後も、ことあるごとに気に掛けてくれて、私の心を奪っていったにもかかわらず、いつまで経っても従妹としてしか見てもらえなかったこと。
私は、殿下の優しさを残酷だと言ったけれど――結果的に、殿下の優しさのおかげで、こうしてリアムに出会えた。
殿下の残酷さのおかげで、私はリアムの心に残っていた『罪』という傷を癒す手伝いができたし、最終的に彼と結ばれることができたのだ。
だから――結果的に、私は、殿下に感謝している。
「ありがとうございます」
リアムと軽口を交わし合う殿下に向かって、もう一度そう呟いて。
私は穏やかに微笑んだのだった。
私は実らない初恋と。
リアムは自分で自分に課した罪と。
それぞれに別れを告げて、春が運んできた鮮やかな花の香りを、めいっぱいに吸い込む。
――私たちが本当の家族になるまで、あと一年。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
まだ謎が残る感じですが、このお話はここで第一部として区切り、一旦完結とさせていただきます。
第二部を書く機会が訪れたら、結婚式までの一年間を書こうかなと思っておりますが、今のところ未定ということで(本当すみません)
あと、途中心が折れてしまって、あと残りちょっとだとわかっていたのに、書けなくなっちゃいました。ご迷惑をおかけしました(本当に本当にすみません)
もしお気に召していただけましたら、★を入れて応援していただけるととても嬉しいです( *´艸`)
改めまして、お読みくださりありがとうございました!




