パンフレット
通夜から三日が過ぎていた。
ニュース番組で黒崎の名前を見ることは減った。
だが、その代わりに。
ネットでは別の話題が広がり始めていた。
『六年前の事故との共通点』
『また映画公開前』
『偶然にしては出来すぎている』
凛はソファへ座ったまま、スマートフォンを見つめる。
記事の中には、見覚えのあるタイトルが並んでいた。
『声が消える前に名前を呼んだ』
六年前。
凛の出世作。
そして。
橘未央が死んだ映画だった。
――
事務所では、『監察医事件ファイル』の公開について連日会議が続いていた。
延期か継続か、声が飛び交った。
スポンサーは継続の方向だという。
会議室の空気は張り詰めていた。
黒崎がいなくなった席だけが、不自然に空いている。
その代わりに、今は副社長の東城誠が中心に立っていた。
東城は淡々と資料をめくる。
「公開は予定通り進めます」
誰も反論しなかった。
人が死んでも。
――映画は止まらない。
凛はその空気に、息苦しさを覚えた。
――
会議が終わった後。
廊下で久保田が煙草を咥えていた。
最近、本数が増えている。
目の下の隈も濃かった。
「……大丈夫?」
凛が聞くと、久保田は少し遅れて顔を上げた。
「何が」
「顔色」
「寝れてねえだけ」
そう言いながら、また煙草へ火をつける。
指先が少し震えていた。
久保田はしばらく黙ってから、煙草の煙を吐き出した。
「……最近、変なことないか」
「変なこと?」
「知らねえ番号とか。誰か来たり」
凛は眉を寄せる。
「別に」
久保田は少し黙った。
何かを言いかけて、やめる。
「……ならいい」
それだけ言って、久保田は視線を落とした。
煙草の火が、静かに短くなっていく。
――
夜。
凛は自宅マンションへ戻っていた。
部屋は静かだった。
ソファへ座り、スマートフォンを開く。
また『声が消える前に名前を呼んだ』の記事が流れてくる。
凛はしばらく画面を見つめたあと、ゆっくり立ち上がった。
棚の奥へ手を伸ばす。
古いパンフレットが出てきた。
『声が消える前に名前を呼んだ』
少し埃を被っている。
ページをめくる手が、止まった。
若い自分が笑っていた。
その隣で、
橘未央も笑っている。
橘未央。
――今は、もうこの世にいない。




