表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

パンフレット

 通夜から三日が過ぎていた。


 ニュース番組で黒崎の名前を見ることは減った。


 だが、その代わりに。


 ネットでは別の話題が広がり始めていた。


『六年前の事故との共通点』


『また映画公開前』


『偶然にしては出来すぎている』


 凛はソファへ座ったまま、スマートフォンを見つめる。


 記事の中には、見覚えのあるタイトルが並んでいた。


『声が消える前に名前を呼んだ』


 六年前。


 凛の出世作。


 そして。


 橘未央が死んだ映画だった。


――


 事務所では、『監察医事件ファイル』の公開について連日会議が続いていた。


 延期か継続か、声が飛び交った。


 スポンサーは継続の方向だという。


 会議室の空気は張り詰めていた。


 黒崎がいなくなった席だけが、不自然に空いている。


 その代わりに、今は副社長の東城誠が中心に立っていた。


 東城は淡々と資料をめくる。


「公開は予定通り進めます」


 誰も反論しなかった。


 人が死んでも。


 ――映画は止まらない。


 凛はその空気に、息苦しさを覚えた。


――


 会議が終わった後。


 廊下で久保田が煙草を咥えていた。


 最近、本数が増えている。


 目の下の隈も濃かった。


「……大丈夫?」


 凛が聞くと、久保田は少し遅れて顔を上げた。


「何が」


「顔色」


「寝れてねえだけ」


 そう言いながら、また煙草へ火をつける。


 指先が少し震えていた。


 久保田はしばらく黙ってから、煙草の煙を吐き出した。


「……最近、変なことないか」


「変なこと?」


「知らねえ番号とか。誰か来たり」


 凛は眉を寄せる。


「別に」


 久保田は少し黙った。


 何かを言いかけて、やめる。


「……ならいい」


 それだけ言って、久保田は視線を落とした。


 煙草の火が、静かに短くなっていく。


――


 夜。


 凛は自宅マンションへ戻っていた。


 部屋は静かだった。


 ソファへ座り、スマートフォンを開く。


 また『声が消える前に名前を呼んだ』の記事が流れてくる。


 凛はしばらく画面を見つめたあと、ゆっくり立ち上がった。


 棚の奥へ手を伸ばす。


 古いパンフレットが出てきた。


 『声が消える前に名前を呼んだ』


 少し埃を被っている。


 ページをめくる手が、止まった。


 若い自分が笑っていた。


 その隣で、

 橘未央も笑っている。


 橘未央。


 ――今は、もうこの世にいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ