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番外編・第四話:【電脳×直接対決】デジタル同窓会へようこそ


「……いい加減に、しなさいよ」


 深夜のコインランドリー。フローラルな香りが漂う店内で、私はスマホの画面を睨みつけ、指が白くなるほど強く握りしめていた。

 画面に浮かぶ『復旧中』の文字。そして、私の過去と現在を嘲笑うような「同窓会」の誘い。


 マサト。あの執念深い情報の化け物は、警察の檻(物理)やハードディスクの破壊(論理)程度では、その「執着」を止められなかったらしい。

 あいつは、ネットの海に散らばった自分の欠片を、私の知らないバックアップサーバーから掻き集め、再び私を自分好みの「物語」に引きずり込もうとしている。


「奈美? 顔、すごいことになってるよ? 般若を通り越して、もはや劇画だよ?」

 隣でコーヒーを啜っていた京子が、おそるおそる私の顔を覗き込む。


「京子。……乗り込むわよ」

「えっ、どこに? まさか警察署?」

「違う。あいつが用意した、この『デジタル同窓会』の会場よ。これ以上あいつにログイン待ち(・・・・・・・)をさせてたら、私の卒業アルバムどころか、私の人生全部がアーカイブされちゃう」


 私は、乾燥が終わったばかりの温かい洗濯物をカゴに押し込み、立ち上がった。


「ネットの知識(※自己流アップデート版)第百九十九条:『デジタルな霊域には、物理的なノイズを持って侵入せよ』。……あいつがデータの神様なら、私はそのバグになってやるわ」


 二十分後。

 私は自室に戻り、中心に鎮座する「中古のノートパソコン」の前に座っていた。

 京子は私の指示に従い、近所のコンビニとホームセンターから『戦利品』を買い集めてきている。


「奈美、買ってきたよ! えーと……大量の『使い捨てカイロ』と、『小型の卓上扇風機』、あと『電子レンジ用の温熱ピロー』……これ、何に使うの?」


「あいつの領域を、物理的な『熱』でオーバーロードさせるのよ。デジタルな怪異は、低温で安定した環境を好む。だったら、この部屋の温度を極限まで上げて、あいつのサーバーごと熱暴走サーマルスロットリングさせてやるわ!」


 私はパソコンの周りに、起動したカイロをびっしりと並べた。さらに、温熱ピローをキーボードの上に載せ、暖房を最大出力にする。


「暑い……奈美、これサウナだよ!」

「我慢しなさい! これがあいつに対する『物理的な拒絶ファイアウォール』なんだから!」


 私はスマホで、マサトが示したリンクをクリックした。

 画面が激しく明滅し、ノイズ混じりの音楽が流れ出す。

 表示されたのは、私の大学の「デジタル版・卒業アルバム」……のはずが、その中身は見るも無残に書き換えられていた。


 教授の顔はすべてマサトに。

 サークルの集合写真に写る学生たちも、全員がマサトの顔で、無表情にこちらを見つめている。

 そして、アルバムの最後。私の個人ページの隣には、正装したマサトが並んで座り、赤い糸で私の写真と結ばれていた。


『ようこそ、奈美さん。僕たちの卒業式に、遅刻だね』


 スピーカーから、あいつの声が響く。

 同時に、パソコンの冷却ファンが悲鳴を上げた。私の仕掛けた「物理熱」と、あいつの「データ負荷」が正面衝突している証拠だ。


「マサト! あんたの同窓会なんて、出席確認もしてないわよ! 勝手に人の思い出をフォルダー分けしてんじゃないわよ!!」


 私は、トートバッグから「秘策」を取り出した。

 それは、古いガラケーから取り出した『大量のマイクロSDカード』。以前の事件で焦げ落ちた、あいつの残骸の一部だ。


「いい、京子! あいつが私のデータを吸い込もうとしてるなら、逆にこっちから『無意味な巨大データ』を流し込んでやるのよ!」


 私は、外付けドライブを接続し、あらかじめ用意していた『一万時間分の一人言(録音データ)』と『千枚のキャベツの千切りの写真』、そして『京子がカラオケで泥酔して歌ったアニソン』のファイルを、一斉に送信アップロードし始めた。


「これぞ、生活ノイズ・スパム攻撃!! あんたの美学に、私の泥臭い日常をドロドロに流し込んで、メモリをパンクさせてやるわ!!」


『な、何をする……! 汚い……僕のアーカイブに、こんなノイズを……!』


 画面の中のマサトの顔が、京子のオン痴な歌声の波形に押されて歪んでいく。

 デジタルな執着は、整理整頓された「物語」を好む。けれど、私の日常は整理なんてできない、雑多で汚い情報の塊なのだ。


「さらにこれよ! 食らえ、物理的・磁気嵐!!」


 私は、部屋の四隅に配置した卓上扇風機の羽に、超強力な『ネオジム磁石』を貼り付けて回転させた。

 強力な磁力線が部屋中を掻き回し、パソコンの画面に虹色のノイズが走り出す。


『ア、ガ、アガガ……視界が……読み込め……ない……』


「当たり前でしょ! あんたは画面の中にしかいないけど、私はこの『空間』そのものを支配してるの! 生活の熱、磁気、そして圧倒的な現実!! 消えなさい、この不法ダウンロード野郎!!」


 私は立ち上がり、最後の武器――「家の鍵」を手に取った。

 家賃一万円の、このボロアパートの鍵だ。


「ネットの知識(奈美・最終結論):『家主の権利は、如何なるデータよりも優先される』。……私は、この部屋の、そして私の人生の、唯一の管理者(管理者権限)なのよ!!」


 私はその鍵を、パソコンのUSBポートの隙間に力一杯突き立てた。

 物理的な短絡ショート

 バチリッ!! と大きな火花が散り、部屋中のブレーカーが落ちた。


 完全なる静寂。


 熱風でサウナのようだった部屋に、夜の冷たい風が、割れた窓の隙間から入り込んでくる。


「……奈美? ……生きてる?」

 暗闇の中で、京子の震える声がする。


「……ええ。……なんとか、ね」


 私は懐中電灯を点けた。

 ノートパソコンからは煙が上がり、完全に沈黙している。

 スマホの画面を確認すると、あの掲示板の跡地には、ただ一言、


『Error 404: Not Found』

 とだけ表示されていた。


 あいつの「バックアップ」は、私の生活ノイズに埋もれ、物理的な熱と磁気によって、その『執着の連鎖』を完全に断ち切られたのだ。


「……今度こそ、本当に終わったんだよね?」

「ええ。……もし次があったら、今度は警察じゃなくて、ゴミ収集車に直接あいつのデータを投げ込んでやるわ」


 私は、汗だくのTシャツを脱ぎ捨て、新しいパジャマに着替えた。

 コインランドリーで乾かしたばかりの、フローラルな香りがする、清潔な綿の感触。


 あいつがどんなにデジタルの世界で神様気取りでも、この「布の感触」や「お腹が空いた感覚」だけは、絶対に再現できない。


 私は、床に転がっていたジャガイモを一つ拾い上げ、キッチンに立った。

「……お腹、空いたね。京子、肉じゃが食べる?」


「食べる! 奈美の作るご飯なら、幽霊の味がしても食べるよ!」

「失礼ね。……これは、勝利の味がするはずよ」


 夜が明けボロアパートの窓から差し込む太陽の光は、いつもより少しだけ強く、そして何よりも「現実」の暖かさを持っていた。


 卒業アルバム。

 私はそれを手に取り、マサトに汚されたページを破り捨てる代わりに、

 京子と一緒に食べた焼肉の領収書と、今日のジャガイモの皮を(冗談で)挟み込んだ。


 私の物語は、誰にも書き換えさせない。

 家賃一万円。普通の、ちょっとだけ掃除(浄霊)が得意な女子大生の日常は、ここからまた、騒がしく始まっていくのだ。


 ――番外編・第四話:完――



 番外編は、これで終わりです。最後までお付き合い頂き有難う御座いました!

 尚、この作品は、「AI作品」の為、今後読めなくなる可能性がありますm(__)m

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