結論はやはり筋肉
脳筋パワータイプという認識を払拭したいとして始まったポラリスの主張ではあったが、既に風向きは悪そうな感じになっていった。
「まぁ、ほら……結局アルシャの認識としてもそんな感じになったわけっすし、ここはもう認めるべきっす」
「ぐ、ぐぬぬ……」
釈然としない様子のポラリスを見て、まだ話しは続きそうだと呆れた表情を浮かべつつ、ウルペクラはおやつにでもするのか板チョコを取り出した。
するとそのタイミングでスッとアルシャが横から手を伸ばしてウルペクラの手から板チョコを奪い取り、パキッと半分に割り、半分をウルペクラに返してもう半分を自分で食べ始めた。
あまりにも自然に流れるような動作で行われたそれを見て、ウルペクラは戻ってきた板チョコとアルシャの顔を二度ほど交互に見た後で、尻尾を使ってアルシャの頭を叩いた。
「ぎにゃっ!? な、なんで殴るにゃ……」
「いやいや、なに当たり前な顔してアタシのチョコを半分強奪してんすか……」
「私はウル先輩に無理やり連れてこられたにゃ。ならば、これぐらいのご褒美は当然の権利のはずにゃ」
「本当にいい性格してるっすよね」
呆れたように呟きつつもそれ以上咎めるつもりは無いようで、ウルペクラは半分になった板チョコを食べつつ、ポラリスの方を向く。
しばらく唸って考え込んでいる様子だったポラリスだったが、少ししてガバッと顔を上げる。
「……まだだ、まだ私は諦めないぞ! そう、私は知的な私を諦めない!」
「……まぁ、確かにポラリスは頭もいいと思うっすよ。ゴリラも森の賢者とか言われてるっすし……」
「……筋肉と知性は、両立可能だと思うにゃ。ポラリス先輩がゴリラのごとく知的な脳筋パワータイプというなら、それはそれでいい気がするにゃ」
「止めたまえ、仕方なく妥協的なフォローをしているように見せかけて、比較対象がゴリラというフォロー風の煽りで息を合わせるんじゃない」
ポラリスの主張をいちおうは肯定しつつも、結局のところ知的であってもお前は脳筋パワータイプだと宣言しているウルペクラとアルシャに、ポラリスは苦虫を噛み潰したような表情で文句を言う。
それに対してウルペクラはため息を吐き、アルシャは口元に指を当てて不思議そうな表情で口を開く。
「……う~ん、例えばなんだけどにゃ……ポラリス先輩の自分は脳筋パワータイプじゃないって主張をそのまま受け取るとしてにゃ、ポラリス先輩的に自分より筋肉が上……つまり、ポラリス先輩より脳筋パワータイプって言うと誰がいるのにゃ?」
「君、なかなか痛いところを突いてくるよね。なるほど、私は脳筋パワータイプじゃないと主張するなら、比較対象を上げる必要があるというわけか……しかし、理に適っている。やみくもに主張するだけではなく、私より筋肉が上の相手を比較対象に挙げて、私は違うのだと主張するほうが正道か……」
アルシャの主張はもっともというべきか、確かに自身が脳筋パワータイプではないと主張するのであれば、自分以上に脳筋パワータイプの比較対象を上げ、その対象よりはマシであると告げるのが一番である。
意外と芯を食った言葉に感心したような表情を浮かべた後、ポラリスは真剣に考え始める。
「そうだね。この場合は、例えばメギド様のような明らかに私と実力がかけ離れた相手は除外して、比較的実力の近い相手を挙げるべきだろうね。となると私と同じ公爵級でかつ、私より身体能力……特に筋力に優れた者だと……竜王配下のニーズベルト殿、戦王配下のアグニ殿にコング殿あたりがパッと思い浮かぶね。イプシロン殿やオズマ殿、幻王配下のパンドラ殿もおそらく該当するんだろうが、その辺りは技巧派という印象が強くてパワータイプというイメージではないからね」
「熟考した上で、その辺りが比較に上がるなら、もう手遅れだと思うっす」
「選りすぐりのトップ脳筋たちにゃ」
「……」
考えた末に出てきたのは、確かにポラリスに匹敵ないしパワーで上回るかもしれない者たちではあるのだが、いずれも六王配下の中でもトップクラスの脳筋パワータイプであり、考えた上で比較として思い浮かぶのがその辺りである時点で、自らもその分類と認めているようなものであった。
「……は、ハメられたか」
「いや、勝手に自爆しただけっす。というか、そもそもイリスが言い回ってるせいとか言うなら、イリスに文句言えばいいじゃねぇっすか」
「ほぅ、なるほど、ウルペクラ……つまりこう言いたいわけだね? 筆頭殿に怒られて来いと……ふふ、上等じゃないか、ビシっと言ってやるとも」
そもそもの原因がイリスだというのであれば、イリスに直接文句を言ってこいと告げるウルペクラの言葉を聞き、ポラリスは不敵な笑みを浮かべた後で了承し、ウルペクラとアルシャに軽く手を振って城の中に向かって行った。
それを見送った後で、アルシャはなんとも言えない顔で隣のウルペクラに尋ねる。
「……結局、これなんだったにゃ?」
「なんでもねぇっすよ。そもそも、イリスは別にそんなこと言い回ってねぇっすし」
「そうなのかにゃ?」
「イリスはポラリスが度々『私は脳筋パワータイプじゃないよね?』って発言するのに対して、『いや、お前は脳筋パワータイプだ』って返してるだけっす。それをポラリスが『筆頭殿に脳筋パワータイプって言われた~』とかって触れ回ってるだけっすからね」
「え? じゃあ、ポラリス先輩が自分で広めてるだけにゃ……」
「そうっすよ。しかもポラリス自身も自覚してるっすからね」
呆れたような表情で告げるウルペクラの言葉を聞き、アルシャもなんとも微妙そうな表情を浮かべる。
「じゃあ、本当にさっきのやり取りはなんだったのにゃ?」
「いつもみたいにイリスに絡みに行く前の前振りっすよ。だから、イリスのところに行けって言ったら、素直に応じて向かったわけっす」
「え~じゃあ、私たちポラリス先輩がイリス先輩にじゃれるのに巻き込まれただけにゃ?」
「そうっす」
そう、結局のところここまでのやり取りはただの前振りであり、この後ポラリスはいつも通りイリスに絡みにいって、最終的に魔力砲撃で吹き飛ばされるといういつのも流れになるだけである。
「……ウル先輩?」
「なんすか?」
「なんで私を巻き込んだにゃ?」
「ひとりで相手するのが面倒だからっすね。あと、どうせ暇そうにしてると思ったっすから」
「ひ、酷いにゃ、これは後輩イジメではないかにゃ? お詫びか報酬を要求するにゃ!」
単にウルペクラがひとりでポラリスの相手をするのが面倒だったから呼ばれたと判明し、アルシャは抗議と共にお詫びかお礼の品を要求した。
もちろんさっき奪い取って食べたチョコレートは忘却の彼方だ。なにせ、既に食べ終わっている。だからノーカン、ノーカンである! それとは別にお詫びかお礼を貰わねば、心の傷は癒えないのだ。
「仕方ないっすね。じゃあ、これをあげるっす」
「……なんにゃ、このボタン? 押せばいいのかにゃ? ……ポチッとにゃ」
ウルペクラから渡されたのは謎のボタンであり、アルシャはそれを見て不思議そうなしつつもとりあえずノリで躊躇なくボタンを押した。
しかし、特になにかが起こるわけでもなく、少し間を空けてアルシャは首をかしげる。
「……なにも起こらないにゃ?」
「起きたっすよ」
「なにが起きたにゃ?」
「シリウスとラサルが戦ってる結界の地面が爆発したっす」
「……」
ウルペクラの言葉に絶句しつつ、アルシャは手元のボタンを二度見……いや、三度見した。完全に罠にハメられた気持ちではあるのだが、ウルペクラは別にボタンを押せともなんとも言ってない。説明を聞かずにさっさとボタンを押したのはアルシャである。
「……クソ狐、なんで私を共犯にしたにゃ……」
「あのふたりから逃げるのは、いい訓練になるかなと思ったっす」
「く、クソ狐ぇぇぇ……こ、これは酷いにゃ! 私はハメられただけで、悪くないにゃ! いや、そもそも、シリウス先輩もラサル先輩も、爆発を回避してるかもしれないにゃ! そうに決まってるにゃ!」
「……もし、爆発に巻き込まれてたら?」
「それはもう、公爵級の癖に足元の爆発に気付けない先輩たちが間抜けにゃ、つまり私は悪くないにゃ!」
「「……ほぅ?」」
「にゃ!?」
自分は悪くないと主張しつつ、ヒートアップしていたアルシャだったが直後に聞こえてきた声に尻尾をピンッと伸ばして、ギギギッと壊れたブリキ人形のような動きで後方を振り返る。
そこには、爆発に巻き込まれ煤があちこちについているシリウスとラサルの姿があった。
「……それはそれは」
「……間抜けで悪かったナ」
「ち、違うにゃ、それは言葉の綾で……うわっ、酷い顔にゃ……あっ、じゃなくて! ウル先――もういないにゃっ!? あのクソ狐、ひとりでさっさと逃げやがったにゃ!?」
ボタンを押して爆発を発動させたのは、確かにウルペクラにハメられたと言っていい。だが、そのあとのふたりに対する間抜け発言はアルシャ自身のものである。
そして責任を擦り付けようにも、ウルペクラは既に逃げておりこの場には居ない……アルシャは大量の汗を流した後、驚愕したような表情で叫んだ。
「……にゃ!? ウル先輩、後ろに回り込んでこれ以上なにをするつもりにゃ!!」
「「なにっ!?」」
アルシャの叫びに反応してシリウスとラサルが慌てた様子で後方を振り返る。逃げたと思っていたが、まさか回り込んで追撃を企んでいたとは、ウルペクラらしいと言えばらしい行動であり、ふたりは最大の警戒を持って後方を見るが……しばらく経ってもなんの反応もなく、ウルペクラの気配なども感じない。
一度顔を見合わせた後、体の向きを戻すと……そこに居た筈のアルシャが消えていた……というか既に逃げていた。
「……クソ猫がっ」
「……どうやラ、追う相手はふたりに増えたようだナ」
アルシャにまんまと騙されたことを悟って額に青筋を浮かべつつ、逃げたウルペクラとアルシャを追って駆け出した。
~ちょっと解説~
【クソ狐とクソ猫】
主にウルペクラが巻き込んでいるのだが、アルシャ自身も結構いい性格をしており、割と自然に煽ったりするタイプであるため偶に一緒にシリウスやラサルに追いかけ回されている。
戦闘力は遠く及ばないのだが、逃げ足は滅茶苦茶早い上に逃げるのが上手い。シリウスやラサルがあまり本気を出すわけにはいかない居城内などを利用して逃げたり、口先八丁で騙して隙を作って逃げたりするためなかなか捕まらない。
あと単純にシリウスやラサルもアルシャがウルペクラに巻き込まれているのは分かっているので、ウルペクラ相手よりは優しめに対応しており、時にはある程度追った後で見逃して逃げ切らせたりもしている。
【ポラリスとウィッチ族の関係】
別に仲が悪かったりするわけでもなく、里帰りしたりすれば普通に歓迎される。
ウィッチ族にとっては同族の中で一番の出世頭であることは間違いないのだが、その性質がウィッチ族からかけ離れているためいろいろ複雑ではある。
以下、一般ウィッチ族たちの評価。
「ウィッチ族の誇りなのは間違いないけど、間違った進化の果てのような存在」
「凄いし尊敬もしてるが、アレをウィッチ族の可能性とは思いたくない」
「種族の代表面出来る実力や実績はあるが、ウィッチ族が誤解されるのでやめて欲しい」
「間違いなく最強のウィッチ族だが、ウィッチ族の皮を被った筋肉のお化けなので素直に評価しにくい」
「とりあえず『私は特殊な例です』って下げ札とかタスキしといて欲しい」




