狐と猫
買い物を終えて死の大地の居城に帰ってきたウルペクラは、買ってきた差し入れてのお菓子を食堂に置いてから、城の外に出て七輪でサンマを焼く準備をしていた。
風向きを考慮しつつ城からある程度離れた場所に設置し、アリスがおまけで付けてくれた炭に火を入れると、そのタイミングで声が聞こえてきた。
「……ウル先輩、なにしてるにゃ?」
「うん? アルシャっすか、魚を焼こうとしてるところっすよ」
声をかけてきたのは艶のある黒のセミショートヘアに黒い猫耳、同色の尻尾が三本生えた獣人型に見える150cmほどの魔族であり、死王配下に属する男爵級高位魔族のアルシャであった。
パッと見はウルペクラと同じ獣人型魔族に見えるが、アルシャは魔獣型と呼ばれ本来の姿を別に持つ魔族であり、彼女も三尾の巨大な猫のような姿が本来の姿である。
そんなアルシャは、ウルペクラが用意している品を興味深そうに見ながら口を開く。
「ふむふむにゃ……アローフィッシュにゃ?」
「いまは、サンマって言うんすよ」
「あ~そういえば、勇者役の関係で名前が変わったとか聞いた覚えがあるにゃ」
この世界には三世界の友好の懸け橋となった初代勇者を讃え、10年に一度初代勇者の故郷である異世界から勇者召喚によって勇者役を招き盛大な祭りを開催するという習わしがある。
勇者召喚によって招かれた勇者役が快適に過ごせるように、世界的にアレコレと制度などが用意されており、食品などは勇者役が混乱しないように、可能な限り勇者役の故郷である異世界に合わせた名称に変更されていた。
ウルペクラが今回食べようとしているサンマも、かつてはアローフィッシュと呼ばれていた魚だったが、勇者役に合わせる形でサンマと名称を改めた品だ。
「……ところで、その語尾ににゃ~にゃ~付けてるのは、なんすか? 前は、そんな語尾じゃなかったっすよね?」
「キャラ付けにゃ!」
「……キャラ作ってるんすか……なんでまた」
「それもこれも、死王配下が誰もかれも濃すぎるせいにゃ!!」
語尾に「にゃ」と付けて話すアルシャだが、以前はそのような口調では無かったため理由を尋ねると、アルシャはアッサリとキャラ作りの一環としてあえて付けていると暴露した。
なんとも堂々とした宣言にウルペクラが呆れたような表情を浮かべる中、アルシャはグッと拳を握りながら力説する。
「だってほら、私っていまいち地味じゃないかにゃ? 割と珍しめな変異系魔獣型魔族で、猫耳で、尻尾は三本あって、配下内でも新人の部類で、年齢的にも若め、それなりの過去あり……結構いい要素は持ってるはずなのに、なんか中途半端な気がしない?」
「語尾取れてるっすよ」
「あっ……こほんにゃ……ともかく、なんかパッとしない気がするにゃ」
「まぁ、どれもこれも上位互換が居そうな感じではあるっすけどね」
「……私が全劣化クソ雑魚猫だと言いたいにゃ?」
「言ってねぇっすよ」
力説するアルシャを呆れたような目で見つつ、ウルペクラは七輪の上にサンマを並べて焼き始めた。そんなウルペクラに対して、アルシャはなにやら自己アピールのようなことを始める。
「まず私は魔獣型魔族なので、巨大な猫の姿になれるにゃ。5メートルオーバーの大迫力にゃ!」
「リゲルの獣モードの方がでかくないっすか?」
「アレは反則だと思うにゃ。なんで人型1.5m、ゴーレム型3mと着て、なんで獣型が50メートルオーバーにゃ!? 普通もっと刻むにゃ! 段階を! そもそも、アイツの体どうなってるかマジで意味わからないにゃ! 完全に変形じゃなくて変身だと思うのに、頑なに変形って言うにゃ……」
「リゲルが訳わかんないのはいつも通りって言えばいつも通りっすけどね」
魔獣型として巨大な獣になれるというアイデンティティも、リゲルが変形した獣モードの方が遥かに巨大な獣であり、しかもリゲルの場合ライオンのような獣型になるため……割と被っていたりする。
ぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべていたアルシャだが、すぐに気を取り直すように耳と尻尾を揺らす。
「……ならこっちはどうにゃ? 猫耳は獣人型魔族にはありがちだけどにゃ、尻尾が三本もあるにゃ! これは珍しいにゃ!」
「アタシは十本あるっすけどね」
「……ま、負けてるにゃ……数でもモフモフ度でも……完璧に負けてるにゃ……ず、ずるいにゃ!? 数だけじゃなくて、そんなモフモフフワフワの尻尾は卑怯にゃ!?」
尻尾の数を自慢しようにも、目の前に己の三倍以上の数の尻尾を持つウルペクラが居る以上数を誇る意味はなく、尻尾の形状自体が違うので優劣は付けにくいが……フワフワとしたウルペクラの尻尾を比較すると、どうにも毛艶や手触りなどでも敗北感を覚えてしまっていた。
「ま、まだにゃ! 私は、死王配下でもかなり新参の部類。新入りとして甘やかされてもいい筈にゃ!」
「でも別に、一番新入りってわけでもねぇんすよね」
「そうにゃ……私の後ろにふたりいるにゃ……ブービーでもない中途半端さ、悲しくなるにゃ。しかも、私が入ってから次入るまでめっちゃ早かったから、一番新入りって気分も少しの間しか味わえなかったにゃ」
「あとはなんでしたっけ? 年齢が若めって言ってたっすか? でもそれも、アタシの方が年下っすよね?」
「……むしろなんか、大半の要素はウル先輩の存在のせいで中途半端になってる気がするにゃ。ウル先輩が反則過ぎるにゃ……」
死王配下に加わった時期を考えても一番最新というわけではなく、若めの年齢を推そうとしても、目の前に死王配下最年少が存在しているため難しい。
悔しそうに拳を握るアルシャを見て、ウルペクラはフッと微笑みながらポンとアルシャの肩に手を置いた。
「……まぁ、あんまり気にする必要なんてねぇっすよ。アルシャにはいい所はいっぱいあるわけっすし、別にどれかが一番である必要はないと思うっすよ。上位互換がいるとか、そんなのを気にする必要はねぇっす。アタシは、アルシャのいい所をちゃんと分ってるっす」
「……ウ、ウル先輩……」
「……まぁ、感情論はともかくとして、純然たる事実として大体の部分でアタシに負けてるっすけどね」
「ぶん殴るぞクソ狐」
優しく慰めていると見せかけて、隙あらば煽ってくるのがウルペクラであり、アルシャの額にビキッと青筋が浮かんだのも無理のない話だろう。
~ちょっとキャラ紹介~
【アルシャ】
猫の獣人型魔族……と見せかけて魔獣型魔族で男爵級高位魔族。死王配下としては比較的新しいメンバーだが、一番新入りというわけではない。
属性はそこそこ多い筈なのに、他の死王配下が濃すぎるせいでどうにも没個性気味なことを気にしており、キャラ付けなどをしてキャラとしての方向性を模索している。
獣人型魔族を両親に持ちながら、極めて珍しい事例として獣人型の両親から生まれた魔獣型魔族。そのせいで実の両親には子と思われず、幼い頃に捨てられて孤児となり、日々の生活に必要なお金を稼ぐため小悪党の裏組織に雇われて悪事などを行っていた。
しかし根が善人であるため、悪事で金銭を得ているということに罪悪感を覚えており、それでも生きるために仕方なく裏組織に所属していたが、ある時不要になったために処分として殺されかけたが……アイシスと死王配下によって助けられ、元々爵位級に近い実力を持っていたこともあって数年の修行の後に男爵級の認定を受けて、死王配下に加わった。
(別に爵位級が所属条件ではないのだが、配下全員が爵位級のためアルシャを含め勘違いしている者は多い)
名前の由来はやまねこ座の星から。




