同席をかけた戦い②
晶花宴でのアイシスとの同席をかけて争われる死王配下によるゴルフ大会。ウルペクラがそれを宣言した際に、ゴルフに関して知っている配下たちは納得した表情で、ゴルフについて知らない配下は戸惑ったような表情を浮かべていた。
『ではまず簡単にゴルフについて説明します。極端に言えばクラブでボールを打ってカップに入れる競技です。はい、そっちにコースが見えるっすね。手前の少し高くなってる場所からスタートして、旗の下にある穴にボールを入れればOKっす』
『ボールはなにか道具を使って打つんだよね?』
『ええ、クラブを使って打ちます。こっちに一通り用意してはいるんですけど……まぁ、どいつもこいつも、どのクラブ使っても一打でグリーンまで飛ばせる奴らばかりっすし、使いやすいクラブ選べばいいと思うっす。なんなら自分で用意してもいいっす』
ウルペクラがゴルフについて軽く説明を入れていくが、彼女の言葉通り死王配下は全員爵位級の実力者であり、一般の人間とは力がまるで違う。
パー4のコースであれパー5のコースであれ、一打でグリーンまで飛ばせない者はいない。むしろ、いかに飛ばし過ぎないように加減できるかの勝負になりそうではあった。
『本当にザックリと言えば、全18ホールをより短い打数で回り切ったら勝ちってルールっすけど、配下全員が18ホールプレイしてたら時間がかかりすぎるっす。けど、短いホール数にすると同じ打数も多くなるでしょうし、今日はハーフ……9ホールを一番短い打数で終えた人が勝ちっす。細かなルールに関しては、いま手元にルールブックを送ったので、各自確認して欲しいっす』
『ウルちゃん、コレって魔法は使っていいの?』
『ボールの軌道に影響を与えるような魔法は禁止っす。とんだボールを風とか使って操作したり、因果律に干渉してカップに入ることを確定したりとかは駄目っす。身体強化系とかはご自由にどうぞって感じっすね。まぁ、むしろいかに加減するかって勝負になりそうっすし、身体強化する必要はない気もするっすけど……』
クレアが聞いてきた質問に答えつつ、ウルペクラは実況席に用意したルールブックを短距離転移で参加者たちの手元に送る。
『で、通常のゴルフのルールにはないペナルティをいくつか加えるっす。まず、コース壊したりクレーター作ったりしたら2打のペナルティです。ボールを粉々にしたり、クラブをへし折っても2打のペナルティ……まぁ、ちゃんと加減しろってことっすね』
『ちなみに、優勝者が同じ打数だった場合は?』
『その場合は、1ホール追加で決定戦って感じっすね。ちなみに最終的に5位まで発表するっす。アイシス様との同席の権利が貰えるのは1位だけっすけど、それだけじゃ味気ないっすから、今回は賞品を用意したっす。ネピュラさんに無理言ってアイスクリスタルでクリスタルグラスを作ってもらったので、1位から5位までにはこちらも進呈するっす』
『おぉ、綺麗なグラスだね。私も欲しいな……』
ウルペクラが取り出して掲げたのは、少し前に快人の家を訪れてネピュラに作ってもらったクリスタルグラスであり、それは見事な完成度にベラが感心したような声を上げる。
その言葉に満足げに頷いたあとで、ウルペクラは拡声魔法具を持って宣言した。
『それではまぁ、細かい質問は必要に応じて受け付けるとして、ゴルフ大会の開始っす!』
こうして、死王配下によるアイシスとの同席をかけた戦いが始まった。
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こうしてスタートしたゴルフ大会だが、基本的に死王配下たちは皆こういった突発的な行事でもノリがよく楽しむタイプなので、手早くルール確認やクラブの選択、打つ順番などを決めて開始準備は整った。
『それでは、いよいよ始まったゴルフ大会、一番手は死王配下筆頭のイリスっす』
『う~ん、これ別に一番最初は有利でもなんでもないですよね?』
『むしろ、ゴルフ経験ない人が多いだろうし、不利まであるかも?』
司会進行をするウルペクラに実況解説として話すクレアとベラ……ふたりが考えたように、死王配下にゴルフ経験者は居ないため、皆ルールを見た上での手探り状態でもある。
なので参考にできる情報が無い一番手はむしろ不利ではあるが、イリスは自ら志願して一番手を買って出ていた。
『ウルちゃん、イリスさんはなにか狙いがあるのかな?』
『たぶん、最初の一打でどんな感じか確かめて、他の連中が打ってる間に調整するつもりなんじゃねぇっすかね』
『あ~なるほど』
さすがに48人が順番に打っていっては時間がかかるので、6人一組に分かれて、前の組が1ホール目を終わらせると次の組がスタートする形となっている。
最初の第一打を打つ場所……ティーイングエリアと呼ばれる場所に立ったイリスは、2mはあろうかというクラブを構える。
『……またあの火砲馬鹿は、意味なく馬鹿でかいやつを出してきたっすね』
『あんなに長いと当てにくいんじゃないかな……』
『……私はカッコいいと思いますよ。やっぱりイリスさんはセンスがいいですよね! なので、今日のデザートは大盛りでお願いします!』
杖などでもそうだが、イリスは武器に関しては巨大なものを好む。クラブに関しても同じようで、明らかに自分の身長より長いクラブを持っており、ウルペクラとクレアは呆れたように呟いていたが、ベラはちゃっかりイリスを持ち上げて夕食時のデザートの増量を画策していた。
「……ふっ、我は元人間。ゴルフの経験は無いが、人間向けに作られた競技である以上ある程度の力加減の予想はできる。そして角度の付いたクラブ、恐らく球はある程度高く打ち上げると見た。そしてこの球のサイズ、風の影響なども受けやすいであろう。風を計算し、高めの軌道で落とす……それが定石であろうな」
『クラブは馬鹿みたいっすけど、言ってることは間違ってねぇっすね。確かに高く上げて落とす方が、球が転がりにくく狙ったところに止めやすいです。そして、この空間隔離結界には不規則に風が吹くようにしてあるので、風を読むってのも正解っすね』
『お~流石イリスさん、賢い』
初めてのゴルフながら既にある程度の性質は見切っているイリスにベラが感心したように呟く。そして多くの死王配下が見守る中で、イリスは長いクラブを振りかぶり……美しいスイングで見事に球を芯で捉え……魔力を込めた一撃で、レーザービームのような魔力の軌跡と共に遥か彼方に球をかっ飛ばした。
『……こら火砲馬鹿、そこまで計算しといで……《とりあえず初打だから、最大値を確かめて調整するのが効率的だろう》とかって言い訳しつつ、己の趣味で全力で打ったっすよね?』
「……ちなみにこれはOBか?」
『球が飛んでる途中で消し飛んだので、プラス2打で打ち直しっす。あと、連続で同じことしたら失格にするっすよ』
しっかりとゴルフという競技がどういうものであり、どう打てば最適化も考え抜いた上で……とりあえず最大値を確かめるという名目で力いっぱい打つのがイリスである。
その後のペナルティを加えた4打目は、無難な力加減で撃ちグリーン近いとも遠いとも言えない微妙な位置に落として、次のプレイヤーに交代する。
『二番目はポラリスっすね。割とこういう組み分けの時は、イリスと同じ組になることが多いっすよね』
『イリスさんの補佐って感じが強いですよね。けど、ポラリスさんも自信満々な感じですね。クラブも自分の体に合ったやつですし、期待できそうですね』
次にティーイングエリアに立ったのはポラリスであり、先ほどイリスが使っていたドライバーではなく、コントロールのしやすいアイアンを選んで持ってきていた。
立ち姿もどこか自信ありげな感じで、クレアもこれは期待できるのではという表情を浮かべていたが……ウルペクラは微妙な顔をしていた。
『いや、ポラリスは完全に反復型って言うべきっすかね? ……練習を重ねて上手くなるタイプなので、この手の初見の競技はクソほど苦手なんすよね~』
「任せたまえ……異世界には容易いという意味合いで赤子の手を捻るという言葉がある。私が見せてあげようじゃないか……手を捻られる側の赤子ってやつを」
そう宣言して静かに構えたポラリスは、そのまま流れるような動作でスイングをした……球には当たっていない。
『……えっと、この場合は空振りでポラリスさんは一打ってことだよね?』
「……いま分かったよ。これ、私の苦手なやつだね」
ベラが確認するように呟くと、ポラリスは軽く天を仰いだ後で実況席のウルペクラの方を向く。
「……これ、私にはハンデとか……ダメかな?」
『じゃ、他の皆が納得したら、ポラリスの空振りは打数に含まない上で、ハンデとして各ホールでマイナス一打からスタートってことでもいいっすよ。たぶん誰も反対しねぇっす』
「その程度のハンデがあったところで、私が優勝できるはずがないと、そう見くびられているわけだね……だが悲しいかな、私自身もそう思うよ」
ポラリスはとにかく反復練習をして上手くなっていくタイプであり、この手の器用さが求められる競技を初見でプレイするとだいたい悲惨な結果になる。
本人も自覚しているのか、ウルペクラがアッサリ了承してハンデ付きになったにもかかわらず……勝てる気はまったくしなかった。
~ちょっとキャラ紹介~
【ベラ】
ガーベラの精霊で子爵級高位魔族。界王配下兼自称名誉死王配下。
クレアと仲が良く基本的にいつも一緒にいる為、漫才コンビと呼ばれることもたびたび。精霊としては珍しく食い意地が張っているタイプで食べることが好き、特にスイーツ類がとても好き。
いっぱい食べる「私」が好き。
クレアと共にアイシスの城にはしょっちゅう遊びに来ており、ほぼ身内みたいな扱いというか、城内に居ても誰も気にしないし、しれっと夕食の席に紛れ込んでたりしても特に疑問に思う者もいないし、なんなら時折厨房でイリスや他の料理が得意な死王配下と一緒に夕食を作ってることすらある。




