日常
眠い目をこすると、馬車の中だった。
「お、起きたか。おはよう」
「んー、おはよう」
「もう少しで着くからな」
寝起きのポヤポヤした頭で外を眺める。
馬車の窓を開けると、早朝の瑞々しい空気が体中に回り脳をクリアにする。
どんどん村が近付くにつれ、懐かしい景色になる。
ルシアンは、馬車の中でぽつりぽつりとあったことを話した。
時々思い出し言葉に詰まる。
ギルバートは、急かすことなく背中をさすり黙って耳を傾けていた。
馬車を降りると、
三ヶ月ぶりの住処。
ここを出る時、『生きて帰ってくると』約束したものの、二度と戻って来れないかもしれないと覚悟を決めていた。
「戻ってきたんだ」
「ルー、おかえり」
「ただいま……ギル」
ギルは扉を開けると、中に向かって叫ぶが何の返答もない。
「師匠ー!帰りましたよ!……ってまたいないのか」
「いつものことだね」
「今日、ルーが帰ってくるって言ったのに……どこに行ってるんだか」
相も変らぬ師匠の自由人ぶりにくすりと笑う。
久々に見たルシアンの笑みを見て、ギルバートも微笑んだ。
「僕の部屋、残してたんだね」
「ルーの家でもあるんだから当たり前だろ。生きて帰ってくるって約束したしな?」
「そうだね、生きて帰ってくるって約束したもんね」
しんみりとした会話をしていたら、バンっと扉が勢い良く開く。
棒付きキャンディーをくわえ、肩から斜めにポーチをかけ、紙袋を抱えた可憐な少女が立っていた。
絹のようなさらりとした背中まで届く銀髪に、ギルバートと同じ茜色の瞳は、人間離れをした美しさを放っている。
「おー、帰っておったのか。買い物に行っててのぅ」
ずかずかと部屋に入ると、紙袋を台所に無造作に置きルシアンの元へ歩いてくる。
ギルバートは置かれたものを見て絶句している。
「ちょ、なんてもの買ってきたんですか」
奥から彼の引き攣る声が聞こえる。
彼女はギルバートを無視してルシアンの前に立つ。
ルシアンより頭一つ分小さい彼女は、じっと見ていた。
「ルシアン、おかえり」
「……!」
感極まっているルシアンをよそに、『ほら、屈め屈め』と彼女は合図を出す。
指示通りに屈むと、頭をポンポンと撫でられる。
「師匠、僕、僕……」
「言わなくても分かっておる」
ポーチをガサゴソと探すと、先程買ったであろう小さい紙袋を取り出す。
「お主、甘い物好きであろう?」
彼女に貰った紙袋を開けると、中には小包が入っており、星型の甘くて小さな砂糖菓子が入っていた。
「リーファ様……!」
「お主は、妾が認めた弟子じゃ。信じておったぞ」
ふいと横を向きながらぼそりと呟く。
リーファの優しさに触れ、目頭が熱くなる。
「ほれほれ、湿っぽいのはなしじゃ。飯にするぞ」
何かを言いかけたルシアンから逃れるように、照れ隠しをするように、ギルバートの元に行く。
リーファとギルバートとの温かい団欒。
人と久々に食べる食事に、ほろりと涙が零れ胸がじーんと温かくなった。
リーファもギルバートも、ワイワイと喋っている。
穏やかで賑やかな日常が帰ってきた。




