前夜
明日は、卒業パーティーだ。
今回に関しては、僕も記憶がある。
僕が押したわけじゃない。
あの時見ていた人も多く、誰も信じてはくれないだろう。
そもそも、僕の話なんぞもう誰も聞いてはくれない。
完全にヤツのせいだ。
いくら、僕が中級階級の貴族とはいえど、お咎めなしとはいかないだろう。
打ち所が悪ければ、死んでいた。
良くて退学、悪くて————。
「もう、潮時なんだね」
なんだ、良かったじゃないか、どうせ僕は————
寂しげに微笑みベッドの縁に座ると月を見上げた。
ベッドから立ち上がると、部屋を片付ける。
最低限しか荷物が無かったため、すぐに片付いた。
がらんどうとした部屋はとても寂しく感じた。
ランプをつけると、引き出しから机上に便箋を出す。
立ったまま一通をさらりと書き上げると、ふっと息を吐く。
手紙は青白い炎になり消えていく。
もう一通の手紙を書こうと椅子に座るも、何も出てこない。
伝えたいことは、書きたいことはたくさんあるのに考えがまとまらず、書いては消して、書いては消してを繰り返す。
今までの思い出が走馬灯のように蘇る。
あの頃に戻りたいと切に願っても、もう戻れない。
思い出せば出す程、涙はとめどなく溢れぽたりぽたりと紙を濡らす。
どうしよう、これが、最後の紙なのに————。
涙を拭い、乾くのを待ってから慎重に書いた。
もう、会うことはないかもしれない。
それなら、最期くらい素直になっても……。
どうにかこうにか手紙を書きあげると、特殊な魔法をかけそっと封をする。
この、ジークハルトへの想いもここに残していこう。
『さようなら、初恋。さようなら、愛しい人』
ぬいぐるみを抱き寄せて唇にキスを落とす。
涙を堪え、ぐっと奥歯を嚙み締めた。
目尻には透明な雫が光っていた。
そっと、ぬいぐるみと宝箱から出した飴玉をひとつ机上に置く。
踵を返すと、部屋に置いてある人形の元に行く。
人形の頬をそっと両手で触れる。
瞳を閉じて佇む姿は、まるで生きているかのように精巧だった。
「君ともお別れなんだね」
両手で触れたまま瞳を閉じ、自分の額をそっと額に当てる。
閉じた瞳から一滴の涙が零れ落ち、とめどなく溢れていく。
はらはらと頬を伝う雫は、ぽつりぽつりと床を濡らす。
『今まで本当にありがとう。君のおかげでここまでこれた。大好きだったよ。ううん、大好きだよ。最期までよろしくね、可愛い可愛い僕の愛しい最高傑作品』
青白い光がふわっと人形を包んだ。




