歯ブラシ
「帰りにホムセン寄っていいか?」
「「いいぞー。」」
宗吾が帰り道ホームセンターに寄りたいそうなので龍二と俺はあっさり承諾した。
高校生男子の寄り道などこんな感じで軽く決まる。
なんなら高校生活など下校の寄り道が1番のイベントといっても過言ではないだろう。
…過言か?過言だな。じゃあ、今のなし。
せいぜいあるあるイベントってやつだろう。ゲーセンとかラーメンとかよく聞く。ラノベとかで。
俺はあんましないけど。ラーメンなんて食べて帰った日にはオカンが怒る。あと普通に晩御飯入りにくくなる。腹ペコイモムシ状態だと余裕で入るが俺の場合は日による。まぁ、俺はもちろん顔が真っ赤なイモムシではないのだが。
…全然関係ないけどあの絵本って海外の絵本だったんだね。最近まで普通に日本の絵本の代表作みたいに思ってたよ。
そんなこんなでやってきたホームセンター。こういう田舎のホームセンターは色々ある。
生活用品も売ってるし、園芸用品、ペット用品、家具、木材、石材。色々見て回るのはそれだけでテンションが上がると言うものだ。
なのに、速攻で歯ブラシコーナーに向かう男子高校生3人…。俺、チェーンソーとか見たい…。
「お前らは歯ブラシ、何派なんだ?」
俺がひっそりテンションを下げていると、龍二から質問を受けた。なにそれ?
「歯ブラシに派閥争いとかあんの?」
「いや、最近は毛が柔らかめやら硬めやら幅広とか細めとか色々あるだろ?」
「あー。そういうことね。」
なんなら最近は1部の毛束は柔らかめの細いもので、他は硬めの毛束だったりするミックスタイプもあるぞ。
「まぁ、俺は断然細めの柔らかい毛の派閥だな。」
それなら、細かく磨けるし、歯茎に当たっても痛くないし。
「お前らは?」
「「硬めの幅広。」」
「きさまら…?裏切ったな。」
「いや、どちらかというと少数派の純が裏切りものなんじゃないか?」
「知覚過敏でも気にしてるのか?」
「いや、俺の派閥の方が普通だろ!?」
「「多数決でなら勝ったぞ?」」
「くそう!」
何故だ!?お前ら歯茎強過ぎないか!?
「幅広の方が磨く範囲広いから早いし。」
「固めなら掃除にジョブチェンジしても活躍するぞ。」
…何も言い返せねぇ。
「…嫌がらせに1番硬いやつ探してやる。」
「嫌がらせが微妙過ぎるだろ。」
「ちなみに探しているのは決まっているのか?宗吾。」
「ん?おう。『ハリガネ』ってやつだ。」
「「分かった。」」
3人でバラけて歯ブラシを探す。歯ブラシコーナーはそこまで広い訳じゃないが、広くないコーナーでも、1個1個が小さいためスペースを埋めるのに必然的に種類が多くなる。
それでも、店もある程度規則的に並べてくれているので、探すのに手間は掛からなかった。
「宗吾。これ。」
「お。見つけたか?」
俺は手に取った歯ブラシを宗吾に差し出す。
『圧倒的毛の硬さ!毛の硬さ日本一!頑固な汚れを必ず落とす!タワシ歯ブラシ!!
⚠出血の危険があるため優しく磨いてください。』
「別モンじゃねぇか!」
「いや、こんなに俺の願いを叶えてくれる歯ブラシがあるとは…。」
「いや、その願い嫌がらせ!」
ちゃんとした商品なので、タワシ歯ブラシを丁寧に棚に戻していると龍二が帰ってきた。どこ行ってたんだよ。
「宗吾。」
「…ん?」
龍二は宗吾にそれを差し出す。
宗吾は戸惑った。意味が分からなかったからである。
俺も宗吾の後ろから覗き込んで固まった。
そう、それは歯ブラシと言うには形が違いすぎた。
『柔らかく曲げやすい!強度、耐食性も保証!DIYでも大活躍!
ステンレスワイヤー(ハリガネ) 0.5mm×10m』
「「歯ブラシですらねぇ!」」
「…?ハリガネと言っていたじゃないか。」
「商品名な!?なんでそうなる!?天然か?天然なのか、これは?」
「…もはや龍二のこれは天然とかで済ましていいものじゃない気がするな…。」
「純。しかもこれで長男なんだぞ。更に驚きだよな。」
「ああ、これで家族揃った天野家がどんななのか全くイメージできん。」
俺達は龍二の恐ろしさを改めて実感すると共に、天野家が一体どんな家庭なのか、知りたいような知りたくないような。なんとも言い難い感情を抱いた。
ちなみにハリガネワイヤーは丁寧に元の場所に戻した。




