困った子
春になって、狩人の村から子どもが光の魔法を習いに来る事が決まってはいたけど、なかなか来ない。
学舎を卒業したエレグレースも気になるみたい。
「ねぇ、来ないのかしら?」なんて、肉まん屋をした時に私に質問するんだ。
「来て欲しいけど……まだ春になったばかりだから、雪が積もっているのかも」
アルカディアの方が寒いけど、雪はあまり降らないんだ。不思議だけど、湿気が少ないからだとか。
「ねぇ、肉まんも美味しいけど、卒業のお祝いでくれたパウンドケーキも焼いて売らない?」
甘い物が大好きなエレグレースは、卒業祝いにスイーツを指名したんだ。
エレグレースは、ガリウスが卒業した後、お世話になったから材料費は掛かるけど、パウンドケーキを焼いたよ。
サリーは、蜂蜜にレモンを漬けたのを渡していた。お湯で溶かしても美味しいし、魔法の得意なエレグレースなら冷たく冷やしても飲めるからね。
まぁ、エレグレースは甘い物が好きだから、冷たいレモネードが美味しい夏までもたないと思うけどさ。
サリーと同じ風の魔法を学んでいるエレグレースは、治療の技を修業中だ。これは、やはりかなり難しいそうだ。何故なら、風だけでなく光と複合で使った方が効果が高いから。
リュミェールは、光の魔法のスキル持ちで、風もかなり使える。つまり、治療も学べば、できるようになるのだけど、本人は狩りに夢中。
メンター・マグスとリグワード師匠に厳しく指導されているから、ドラゴンを討伐する卒業試験までには、なんとかなるんじゃないかな。
まぁ、人の事より自分の事だ! オリビィエ師匠にも叱られたばかりなんだよね。
ヨシは、薬師のスキルはないけど、知恵のスキル持ちだから、薬草の本を暗記している。私も頑張らなきゃね!
でも、オリビィエ師匠は、私に弓矢をもっと頑張れって言うんだ。武術は他の子より劣っているから、苦手なんだよね。
それなのに「ヨシも、そろそろ何かの武器の練習をしよう!」なんて、無茶を言うんだよ。
「えっ、私が武器ですか?」と驚いている。
「ああ、身を護る事は大切だよ」
確かに、常に師匠や狩人が近くにいるとは限らない。なんて、考えていたけど、違うみたい。
「人間にも悪い奴は多いからね」とオリビィエ師匠の言葉に頷いている。
「えっ、ヨシはずっとここで修業するんでしょう?」
前は、狩人の村には居られないから、教会の子になるしかないと言われていたけど、薬師になれるじゃん!
「ミク、私はもっと勉強したら、教会に入ろうと思っているんだ。森の人に光の魔法を教えたいし、貧しい人を助けたいと考えるようになってきたんだ」
驚いた! ヨシって賢い。それに将来の事を真剣に考えて、自分のできる事をやろうとしている。
「オリビィエ師匠、私は甘いのかもしれませんが、武器は持ちたくないのです。でも、襲われたら、逃げるぐらいはできないと困りますよね」
ヨシは、アルカディアに来てから、かなり体力がついた。とはいえ、やはり狩人のスキルを持つ森の人とは身体能力が違うんだ。それは、私もなんだけどね。
サリーも、少し身体能力は劣るけど、風の魔法を上手く使って、アリエル師匠やジミーに付いていっている。
「では、素早く動く事から始めよう。そして、もっと光の魔法が上達したら、体術を練習したら良い」
オリビィエ師匠は、ヨシの体調をみながら、体力強化、そして武術訓練をする計画をメンター・マグスと相談して決める。
私は、甘えていたんだと悟った。オリビィエ師匠が弓矢の練習をしろと言われているのに、本気じゃなかった。
私は、他の森の人よりは、鈍臭いかもしれないけど、健康だし、体力だってある。それに、一応は光の魔法も習得済みだ。
狩人の村の困った子は、私だよ! 他の子の事をあれこれ考えている場合じゃない。
サリーが治療の技を習うから、私は薬師だけで良いと甘えていた。土の魔法と風の魔法は、相性が良いとは言えないけど、水でも治療はできると聞いた。
それに、調理スキルと水の魔法は相性が良さそうなんだよね。薬師としても、綺麗な水は必須だよ。
「オリビィエ師匠、私も弓矢を頑張ります! そして、水の魔法を教えて下さい!」
オリビィエ師匠が「そんなに焦らなくても」と頭をぱふぱふと撫でてくれた。
「ヨシも、教会に入るのは、学舎を卒業してからにしなさい」
同じく、ヨシの頭をぽふぽふして、オリビィエ師匠は笑った。
「二人とも、まだ二歳と三歳なんだから、そんなに焦らなくても良いんだよ。困った子だねぇ」
確かに三百歳まで生きるなら、焦らなくても良いのかも? でも、ヨシとギュッと手を握って「頑張ろう!」と言っちゃった。




