西の商隊が来たよ!
学舎には午前中に行くけど、昼からは石鹸作りの日々だ。
植物性のは、サリーやヨナが香りの良いハーブを取ってきてくれた。
動物性の石鹸は、木の家では洗濯や掃除にしか使わないけど、人間の町では植物性よりは安いのでよく売れるみたい。
ヨナ達が狩ってきたビッグボアも実りの秋のおかげで脂肪がたっぷりついていた。
それに、集会所でも脂身は人気が無いので安く手に入る。
学舎の帰りに集会所に寄っては、あるだけの脂身を買って帰るのが習慣になっている。
ただ、脂身を小さく切って大鍋で煮るのは、少し臭い! いや、かなり臭い!
「この焦げた脂身は、取っておこう!」
サリー達も手伝ってくれるけど、変な顔をする。
「油かすも料理に使えるんだよ! それに焦げたのを除いた方が綺麗な油になるからね!」
料理スキルが油かすが使える! と教えてくれたのだけど、サリーもヨナも怪訝そうだ。
「分かった」とジミーは簡単に信じてやってくれる。
「大鍋にいっぱいの脂、このままだと不純物が混ざっているから、塩水を入れるのよ。蝋燭を作る時もそうしたら、あまり匂わなくなるわ」
家ではそうしていたけど、ヨナもジミーも知らなかったみたい。
臭くて重労働な動物性の石鹸作りには、ヨシは参加させていない。
オリビィエ師匠の万能薬作りのお手伝いだ。私もそっちが気になるけど、石鹸作りの指導をしなきゃいけないんだ!
「ヨナが狩人の村に戻ったら、動物の脂肪で石鹸が作れるようにね! 無患子もあるけど、石鹸の方が汚れが取れる気がするから頑張って覚えてね!」
「夏から秋は、トレントを狩りに来るよ! 脂身はバンズ村でも不人気だから、いっぱい貰えそうだけど、植物性石鹸の方が香りが良いから! それに売るとお金になるからね!」
ヨナは、狩人の村が商人達に少しカモにされているのに気づいた。魔物の皮や骨、干し肉や薬草の干した物、アルカディアよりかなり安く買い叩かれている。
ある意味で、魔の森に来てくれるのだから仕方ない面もあるけど、アルカディアには買いたい物があるからやってきているのだ。
「一度、バンズ村に帰るけど、光の魔法を親や兄弟に教えたら、木の家に戻って紙か布の作り方を学びたい。勿論、アリエル師匠が狩に行く時はついて行くけどね!」
ヨナも狩りが大好きだけど、寿命が長くなるなら、商人達にカモにされたままでは嫌だと考えるようになったのだ。
商人達が、アルカディアで買いたがる製品を作らないと駄目だと、紙か布を習いたいみたい。どちらも後継者不足だから良いと思う。
私が、今回オリビィエ師匠が万能薬を作る手伝いをヨシに譲ったのは、これから後何年も見学できそうだからだ。だってドラゴンを討伐するのが卒業試験だなんて、十年はかかりそう!
ヨシは万能薬は作れないだろうけど、上級薬草で回復薬を作ることはできるようにさせてあげたい。
人間の町の近くの森には、上級薬草は生えていない。下級薬草や毒消し草も少ないそうだ。
でも、ヨシは狩人の村を巡回するのだから、上級薬草も採取できるよね! それに、時々は木の家で過ごしたら良いのだ!
ヨシは、木の家での生活があっているから、ここにずっといたら良いと思うんだけど……本人は色々と考えているみたい。
洗礼の時にみたいに教会の子になるしか無い! という訳ではなくなっている。
まだ森の人としては体力もないし、運動神経も鈍いけど、人間よりは俊敏に動けるようになった。
ただ、狩人の村の森の人とは違うのも確かな事なんだよね。それは、私も感じている。
オリビィエ師匠は、人間の殆どの人はスキルを賜っていないのに、自力で弓や剣の技術を身につけると言う。
それは、理解できるけど……やはりスキル持ちの森の人と比べると差は愕然としちゃうんだ。
私は、それでも植物育成スキルを賜ったし、その関係から土の魔法は使える。
料理スキルのお陰で、火の調節や水の扱いもできる。魔法使いのサリーとは全然違うけどね。
つまり、ヨシは森の人の中では鈍い運動神経でも、人間の中ではいけているって事。
それに、神父さんが狩人の村を巡回して、光の魔法を習うようにと説得しているのを見て、手伝いたいと思っているみたい。
「ずっと木の家にいても良いのに!」とサリーと石鹸を作りながら、コッソリと話し合っている。
「ヨナは、光の魔法が使えるようになったら、バンズ村に帰ると言っているのよね」
「うん、でも時々は木の家に遊びに来ると言っていたわ。手に職をつける為だけど、ヨシが心配なんでしょう」
「そのヨシもいずれは教会に行くのかも? 前は、そうするしかないから教会の子になるって考えていたけど、今は森の人に光の魔法を教えたい。人間に清潔な暮らしをさせたいと言っていたわ」
ヨシは薬師のスキルは持っていないけど、知恵スキル持ちだ。オリビィエ師匠に薬草の本を渡して貰ったら、全部覚えた! うっ、負けているじゃん! 光の魔法を早く覚えたい! これまでヨシに負けたら格好悪いよ。
庭では植物性の石鹸と動物性の石鹸が山ほどできた。
これを売って、皆と分ける! だって臭い思いをしたんだからね。ヨシも植物性の石鹸は一緒に作ったし!
大きな金属の箱に固まった石鹸を切るのはジミーが大活躍だ。板を置いて真っ直ぐに切るのだけど、迷いがない。キチンと同じ大きさに揃っている。
「ジミーも木工細工の師匠につけば良いのに?」と言っても「ドラゴンが狩りたい!」だってさ。
赤ちゃんの頃から、木を削っていたぐらいだから、かなり器用だと思う。
「ドラゴンを狩れるようになるまで、木工細工を習って資金を貯めた方が良いんじゃないの? 森の人が長生きになったら、若者は一旦は人間の町で暮らすのが普通になると思うんだ」
ジミーは口は重たいけど、馬鹿じゃない。黙って石鹸を板に合わせて切りながら、ドラゴンキラーになれるまでの生活について考えていたみたい。
「魔物を飼うのは面白そうだ!」
相変わらず、途中の説明はない。
「畜産を習うの?」
「ああ、だがドラゴンも狩る!」
一度、ドラゴンから離れた方が良い気がする。
まぁ、夏の山に放牧していると、ワイバーンやビッグバードが餌と間違えて飛んで来るそうなので、狩りは必須みたいだ。
前世の山羊飼いの少年みたいに寝ていたら、全滅しそうだよ。まぁ、こちらの山羊も元は魔物だから反撃しそうだけどさ。
「石鹸を箱に詰めてね!」
植物性の石鹸は、半分は木の家用だ。動物性の石鹸は、三分の一を残しておく。
人数が増えると洗濯物も増えるからだ。
石鹸を作り終わったので、サリーは火食い鳥の卵のガラスコーティングをする。この前、実家に帰った時に布をお土産にしたから、お小遣い不足なんだってさ。
私は、マジックボックスに売れそうな料理をいっぱい詰め込んでいる。これ、商隊の人にも売れるけど、アルカディアの森の人にも売れるんだ!
「おやき、肉まん、ピザ、ドラゴンの筋肉シチュー……他には何が良いかな?」
ヨナはサリーのガラスコーティングの見学に行ったし、ジミーはヴェルデ師匠の所だ。お互いに口が重そうだけど、ちゃんと弟子入りできるのかな?
木の家には、私とヨシだけ。
「お酒は……大人が作っているよね。でも、ジュースとかは寒いかな? お茶?」
「これまでピザの時はレモネードを出していたの。でも、夕方だと寒いわね。ホットレモネードにしようかな? お酒を卵で割ったエッグノックも大人には良さそう!」
ただ、お酒は作っていないから、買うと儲けにならないんだ。
「温かい飲み物、お茶とホットレモネードかなぁ」
後は、ヨシと一緒に乾燥させた薬草をオリビィエ師匠の監督の元で、腹痛、風邪、頭痛、などの症状に合わせて、小袋に分けていく。
「紙がいっぱいいるんだね」
「うん、私も紙漉きを習わないといけないんだ」
「一緒に習って良い? 紙は買うと高いんでしょ?」
ヨシはバンズ村にいる間、行商人が来ても買い物とかしなかったのかな? まぁ、大人が周りを取り巻いていたから、近寄りにくかったのかもね。
「うん、紙が作れるようになったら、良いと思うよ!」
ヨシが神父への道を進むなら、一旦は人間の町で教会で勉強しないといけない。知恵スキルがあるから、勉強面は心配ないけど、食べていくお金とかも必要かも。紙を売れば、大丈夫なんじゃない?
それぞれが、大人になってどうやって生きて行くのか考えている。子どもに厳しい世界だよね。
そんな事を考えていたら、カーン、カーンと間延びした鐘がなった。これは、危機を知らせる鐘ではない! 商隊がアルカディアに近づいているのだ。




