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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第七章:為虎添翼
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91話

「あ、いらっしゃい先輩。待ってましたよ」


比野さんたちと別れた後神社へ向かい、戸を叩けば発彦が出迎えてくれた。相変わらずこの神社の階段は長いが数回上がり下りしていれば苦にはならなくなる。


「おう来たぞ、今さっきそこで比野さんたちとすれ違った」


「そうなんですか。まぁ多分そうだろうなぁとは思ってました」


中へと入り、長い廊下渡る。数回も行けば大体部屋も覚えてきた。発彦の部屋まで一直線に向かっていると天空さんとも会う。


「お、刀真君じゃないか。いらっしゃい」


「おじゃましてます天空さん」


「ゆっくりしていってくれ、私はこの後用事があって出かけるから留守は任せたぞ発彦」


「はーい」


そう言って天空さんは出かける準備を終えた状態で玄関へと向かう。私たちは予定通り発彦の部屋でゲームだ。

こいつの部屋は相変わらずゲーム類が多く、寧ろ前来た時よりも増えているような気がする。唯一違うことは、部屋の真ん中で小さな竜がこちらを出迎えてくれたことだけである。


「リョウちゃん刀真先輩が来たよ」


発彦が新たに手に入れた力である式神の「画竜点睛」改めリョウちゃん。まだ1日しか経っていないというのに随分とこの家に馴染んできたようだ。

本来の姿は30mぐらいの巨体で、それはもう竜と呼ぶしかない姿らしいが見たことが無いのであまり実感が湧かない。

今ここで大きくなってもらうこともできるらしいが怪字が現れたわけでもないので駄目だろう。神社に竜が現れたところなんか見られたらどんな騒ぎになるか分かったもんじゃない。

リョウちゃんは最初こそ私を警戒していたがあの刑事みたいに襲い掛かってはこなかった。単にあまり見ない私を少々不安に思っているのだろう。

そしてそこが定位置なのか昨日と同じように発彦の服の中に入り首元から顔を出す。


「どうだ?1日式神を飼った感想は」


「天空さんにも懐いてくれたし大分順調ですよ。気づけばお風呂も寝る時も一緒にいました」


「……学校にも連れていくのか?」


「行きませんよ!小学生がハムスターを同級生に見せびらかすんじゃないんですから!」


冗談のつもりで言ったが慌てて発彦はそれを否定する。まぁ常に服の中で蛇状の生き物が動き回っていたら授業に集中できないだろうしすぐにバレてしまうのがオチだ。


「でもそんなに懐いているなら勝手についていくんじゃないか?」


「……いいかリョウちゃん?俺が学校に行ってる間は家でお留守番して天空さんと遊んでいるんだぞ」


ようやくその危険性に気付けたのか発彦は自分の首元に居座っている「画竜点睛」の方は首を曲げ冷や汗を流しながらそう言い聞かせる。

こうしてみると発彦と「画竜点睛」の関係性は飼い主とそのペットに近い。比野さんが「家族のように接していれば出るかもしれない」と言ってたが強ち間違いじゃないかもしれないな。


「そういえば先輩は『為虎添翼』は召喚できましたか?」


「……いやまだだ。さっき比野さんにもアドバイスをいただいたがお前からも欲しくてな、何か方法とかないか?」


「そう言っても……俺も土壇場でほぼ偶然で召喚できたようなものですから……お力にはならないかと」


「何でもいいんだ、何かないか?」


私はそう急かすように発彦にアドバイスを求める。ウーンと目を瞑りながら考え始めるが中々答えは出ない。

すると何か閃いたのか大きく目を開けた。


「そういえばさっき比野さんから聞いたんですけど……なるべく身近に置いとけば良いそうですよ!」


「……身近に?」


「はい、これは比野さんが『比翼連理』の式神を召喚しようと試したことなんですけど……それでウヨクちゃんとサヨクちゃんを召喚できたそうです」


「おお!どんな方法なんだ!」


話を聞くに、彼女は毎朝パネル状態だった「比翼連理」に対し「おはよう!」、寝るときには「おやすみ」、出かける時には「行ってきます!」など声をかけ続けたらしい。

そして普段から持って身につけていることでその距離感を縮めていたという。出かけに行く時もらしい。

それを続けていると急にパネルが反応して、見事あの2匹を召喚できたという。

そんな近くに置いていたらあの母性が身につくのも納得がいく。きっと声をかけ続けていく過程でそのような感情を抱いたのだろう。


「声をかける……か」


今までの価値観からパネルの形に声をかけても本当にその式神に聞こえているのか怪しく思ってしまうが、今は手段を選んだら必要はない。

早速試してみよう、「為虎添翼」の四字熟語を取り出し床に置くと、今まで発彦の服の中に潜んでいた「画竜点睛」が飛び出し、そのパネルに顔を近づけた。


「お?どうしたんだこいつ」


「さぁ……」


そしてパネルの周りを飛び交いながらもその視線は「為虎添翼」に釘付けとなっている。まるでこいつが式神の形になることをまだかまだかと待ち望んでいるようだった。


「……そういえば、研究所でリョウちゃんが描かれた絵があったじゃないですか、あの絵に虎の姿もあったんです」


「そういえばそうだったな」


今は燃えて無い鶴歳研究所、そこで「画竜点睛」と「為虎添翼」は保管されていた。しかし大切にされていたのはその2つの四字熟語ではなく2匹に関する資料もあった。

2匹の式神に乗って妖怪たちと戦う陰陽師の姿、発彦の言う通り確かにあの絵には「画竜点睛」の竜と恐らく「為虎添翼」の式神としての姿であろう翼の生えた虎の姿が一緒に描かれていたことを思い出す。


「もしかしたら……そいつとこの『為虎添翼』は昔会ったことがあって……言わば知り合いなのかもしれんな」


式神にそう言った感情があるかないかは決めつけられない。しかし怪字と比べてこいつらには感情がある、なのでもしかしたら前の持ち主の時の記憶も残っているかもしれないという訳だ。

かつての持ち主の元でどういった扱いを受けどう使われていたかは分からない。だけど私は、そこに何かヒントがあるかもしれないと考えた。


(少し調べてみるか……他にも資料があるかもしれない)


取り敢えず今は声をかけることから始めよう。「為虎添翼」に対し良い印象を持たせなければならない。


「こ、こんにちは……」


まず最初に挨拶、無意識の内に正座してその四字熟語に声をかける。だが何も起きない。

まぁこんなに簡単にいければ苦労はしていない。もっと話しかけなければ……


「どうか……よ、よろしくお願いします」


そして一応私の式神になるかもしれないのでよろしくは言った方が良いだろう。何はともあれ失礼の無いようにしなければ。

だがそれを発彦が否定してきた。


「もっとこう……軽い感じにしたらどうですか?なんか硬いというか……礼儀正しすぎるというか……」


「そ、そうか……?」


こいつが言うにはもっと柔らかい感じで話せという。確かにさっきの2つはまるで初対面の自分より身分が高い人にする挨拶みたいだったな。

ならばもっと軽い感じの、言わば友達のように接してみよう。


「お、おはよう!きょ、今日もいい天気だね!」


こういう崩した話し方は苦手だがこれで「為虎添翼」を呼び出せるのなら安いものだ。さっきの敬語よりかはマシかもしれない。


「わた、私の名前は宝塚刀真!これからよろしく!」


だいぶ慣れてきた。この調子でどんどん話しかけて「為虎添翼」を使えるようになろう、そう思って更に会話を続けようとしたが……


「……発彦、何だその目は」


「……いえ」


『グルル……』


発彦は光を失った目でこちらを見て、「画竜点睛」に至ってはまるで気味が悪い物を見る目になっている。

人がこんなに頑張っているのにそんな目で見るのは些か失礼である。


「あの……先輩、怒らないで聞いてください」


「……何だ?」


「今の先輩の姿……見ていて滑稽というか……なんか痛い人みたいです」


「……そうか」


傍から見れば木の板に爽やかな声で話しかけている光景、確かにその姿を自分でも想像してみると中々に不気味なものが浮かび上がった。


「ま、まぁ最初は持ち歩くことから始めたらどうですかね?」


「……そうだな、今度は1人の時に声をかけ続けてみる」


新しい力を手に入れることはそう簡単なことではない。発彦のように誰もが運よく式神に懐かれるわけではないのだ。

……嫉妬ではないとさっき言ったばっかりなのに、いつの間にか発彦のことを羨ましく思っていることに気づく。

専用の武器であるグローブも作ってもらい、リョウちゃんという式神を手に入れた。

私にだって「伝家宝刀」という専用武器も持っているし「画竜点睛」だって何も発彦だけにしか力を貸さないというわけじゃないだろう(刑事は無理かもしれないが)。

だけど、まるで神や運命がこいつにばっかり贔屓しているようにも感じているのだ。

悔しいという気持ちは無い、寧ろ対抗心が燃やせて良いと思う。だけどその対抗心があるが故に少々焦りも感じられる。


(いかんいかん、こいつを嫉んでどうする!私は私で強くなればいいのだ!)


これ以上このことを考えていると次第に恨めしい気持ちも湧き出ることは明白だ。ここは気を紛らわさないと。


「じぁ、じゃあ早速ゲームで遊ぶか!」


「そうですね!いつまでも式神のことを考えていると折角の休日も台無しになってしまいますし!!」


待っていました!と言わんばかりに目を輝かせて大きく返事をした発彦、そこから携帯ゲーム機を取り出すまでの時間はわずか3秒。

こいつは本当にゲームが好きだなぁ~と呆れに近い思いをさせられる。


「先輩あれどこまで行きました?」


「この間殿堂入りしたばっかだ」


ちなみに今2人で遊んでいるゲームは古くからある少々特殊なRPG、主人公を操作して可愛らしいキャラを捕まえてそれを育てて戦わせるという内容だ。

結構昔に初代が発売されているらしく、そのシリーズ数やスピンオフ、登場してくるキャラのグッズなど多くの物が世に出ており、一時期社会現象になったという。ちなみにプレイヤー間で通信もでき、キャラの交換や対戦などもできる。

するとここであることに気づき、今度は私が発彦と「画竜点睛」を見た。


「……何ですかその目は」


「思ったんだが……このゲームと今のお前の境遇……なんか似てないか?」


そしてさっきの仕返しとしてゲームの要素を使ってからかってやった。これには発彦もしてやられたという顔をして悔しそうにする。

だがすぐに真顔になると、近くを飛んでいた「画竜点睛」に何かを命じる。


「リョウちゃん、『かえんほうしゃ』」


『グオオオオッ!!』


「危なっやめろ!」


すると「画竜点睛」がこっちに向かって火を噴き出してくる。いくらライター並みの火力とはいえ危なっかしい。

こうして今日一日は怪字やパネルの事など忘れ、2人+1匹で遊びまくった。

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