89話
触渡発彦、宝塚刀真、勇義任三郎の3名は明石鏡一郎から手に入れた呪いのパネルを無害化する装置を田舎にある鶴歳研究所に運搬。
そして運び終わり研究所に泊まると、例の組織から3人の刺客、万丈炎焔、同島表光、同島浦影が襲撃。
万丈炎焔VS宝塚刀真&勇義任三郎、同島兄弟VS触渡発彦という展開になり、結果両方とも触渡たちが勝利と言っても良いだろう。
万丈炎焔の場合は仲間による連絡で戦線離脱、なので勝敗が決まってないと言える。
同島兄弟の方は触渡発彦が式神タイプの四字熟語である「画竜点睛」を使い見事2人を撃退、情報を手に入れるため捕縛しようとしたが例の狙撃手によって弟は撃ち殺され、兄の方は飲まされていた特殊な毒薬を作動され死亡、2人が使っていた「表裏一体」のパネルとそれに付いていた装置も回収できた。
そして明らかになった組織の名、「呪物研究協会エイム」。これにより敵の詳細が徐々に分かっていくことになる。
鶴歳研究所から来るまで約1時間、ここまで来れば街並みも少しは発展しており本来なら人も多いはずだがさっき朝になったばかりなので火とも車も少なかった。
ここはどこかというと小さな道の駅であり、刀真と任三郎はボロボロになった車に寄りかかりながら発彦との合流を待っていた。
いつもなら止める発彦もいないので喧嘩をしていただろうが、何分夜中に特異怪字と戦ってその後車に乗ってここに来たためそんなことをできる元気は既に無い。
刀真は腕を組みながら目を瞑り、任三郎は煙草を取り出してそれを吸おうとしたがすぐに咽た。
「……お前煙草なんて吸うのか」
「煙草は大人の嗜みだぞ」
粗方カッコつけたくて吸い始めたのだろうと察した刀真は、普段ならそれを材料に煽るのだがそれもしない。共に疲れ切っているのだ。
ちなみにもう眠気なんかは既に感じられなくなっており、それどころか眠ろうとしても何故か目が覚めてしまう始末。
きっと戦いによって火照っていた体がまだ治まっていないのだろう、疲れてはいるが休めない、何とも辛い状態だった。
そうこうしている間に2人の車の隣に別の車が駐車しようとしてきた。そっち側にいた刀真たちは急いでそこから離れる。すると案の定その車は発彦と比野翼たちだった。車は比野が運転している。
「発彦!比野さんも無事でしたか!」
「先輩たちこそ無事……じゃないみたいですね」
互いの無事を喜び合ったが、発彦は2人が乗ってきた車の状態を見て同情的な目をする。
人造パネルから生まれた怪字兵、そいつらによって窓ガラスは割られ車体は凹み、万丈炎焔による炎攻撃で車は所々焦げていた。見るも無残な姿であり傍から見ればただの廃車である。
「これどうやって帰るんですか俺たち」
「今天空さんに連絡して迎えに来てもらっている。宝塚には悪いがこの車は廃車確定だ」
「嗚呼……だからうちの車なんか貸したくなかったんだ」
刀真は自分の家の車が使えなくなったことに酷く落ち込んでおり、彼だけ暗い雰囲気を醸し出していた。
兎にも角にも情報の交換を始めようとしたが、この場に2名程足りないことに気づく。
「そういえば鶴歳所長と小笠原さんはどこに?」
「あ、2人なら別の所に避難してるってさっき連絡きました。ですよね触渡様?」
「はい、こことは反対側の方の町で……後に比野さんと合流するみたいです」
その連絡は発彦たちが車で移動している時にかかってきて、運転している比野は出れないため代わりに俺が出たところ、小笠原さんの声が聞こえ所長の鶴歳含め向こうの無事を知らせてくれたのだ。
「なら大丈夫だな。じゃあ今回の出来事をまとめようか」
「あ、勇義さん。その前に……あの……何と言うか」
すると発彦が何やら歯切れの悪そうに何かを伝えようとする。伝えにくいことなのかモジモジして視線も四方八方へ泳いでいた。冷や汗もかいているからただごとではない。
「どうした?触渡」
「何かお前変だぞ……ってうわ!」
そうしていると発彦の服が内側からうねうねと動いていた。まるで虫か何かが服の中にいるようで2人は気味悪いその動きに驚き、一体なんだとジロジロと見ていると、その正体が首元から顔を出した。
「……蛇?」
手首の太さぐらいで緑色の顔の蛇らしき生き物が、発彦の服の中に潜んでいる。何とも愛くるしい顔つきをしており、その眼もまるで幼い子供のように潤っていた。
しかし見たことも無い生き物を目の当たりにした任三郎は恐る恐るその蛇を指で突っつこうとしたら……
「あ痛っーー!!??」
人差し指をガブリと噛まれ、指を握りながら悶絶しだす。
何故そうなったのか、時は戦いが終わった直後にまで遡る。
狙撃が終わった後、急いで発彦と比野は車まで走ろうとしたが、ここで発彦があることに気づく。
「比野さん……こいつどうすればいいの?」
そう、同島兄弟を倒すべく一緒に戦ってくれた「画竜点睛」のことについてだ。こいつのおかげで2人も倒せたし頼もしい限りなのだが、何分巨体すぎて戦闘以外はどう扱ったらいいか分からない。
「こいつも『比翼連理』みたいに小っちゃくなるんですかね?」
「さぁ……私この子たち以外の式神を見るのは初めてなんです。このミニマム化が式神に共通している現象かどうかはまだ分かってなくて……」
比野が飼っている「比翼連理」の式神であるウヨクちゃんとサヨクちゃんは戦う時はちゃんと大きくなるがそれ以外の時は手のひらサイズで活動している。だから「画竜点睛」も同じようなことができるかもしれないと踏んだのだ。
「お前……ちっさくなれる?目立たない程度に」
人気が少ないとはいえまさか竜を連れて車に乗るわけにもいかず、なんとかならないかと命じてみると、竜が急にパッと発光しだし、その光に目を覆っているとほぼ一瞬でそのサイズは最小化、片腕ぐらいの長さまで縮まった。
「のわっ、本当にできた」
すると小さくなった竜はまるで犬のように発彦に頬ずりをし舌でペロペロと顔を舐め始める。
「なはは!やめろくすぐったい……」
「どうやら懐かれたようですね」
「懐かれたって……俺別に何もしてないのに」
しかし発彦が無自覚なだけで、火に包まれた際に「為虎添翼」と共に回収した時、彼は「待たせたな、もう大丈夫だ」と声をかけていた。その優しさも理由の1つに入ったのかもしれない。
それからマスコットと化した竜は誰かに見られないよう発彦の服の中に入ってもらったというわけだ。
「成る程……つまり『画竜点睛』の式神というわけだな」
「まぁそういうことです」
そう言って事情を聞いた刀真は発彦と比野と共に、ミニ竜によってガジガジとちょっかいをかけられている任三郎を傍から見て話していた。
途中動けるようになったウヨクサヨクも竜に便乗するかのように任三郎の頭を嘴で突きまくる。
「のわっー!やめろお前ら!!髪が!髪が散るっ!」
「あーもう駄目じゃない2匹とも!」
「お前もやめろこら!」
これ以上傍観しているのも何なので飛び回る3匹の式神を何とか落ち着かせて任三郎を守る。まるで猛獣とかに襲われたように髪がボサボサになってしまう任三郎、息を荒げて整えていた。
「刑事の奴最初の時も『比翼連理』にやられてたよな。もしかして式神に嫌われる体質なんじゃないのか?」
「まぁ勇義さんもパネルのことを嫌ってますし……お互い様じゃ……」
「ハァ……ハァ……こんなにボロボロにされて何がお互い様だ!!」
それでもまだ任三郎に襲い掛かろうとする竜を手で撫でながら必死に抑え込み、比野も同様にウヨクサヨクを扱っていた。
「結局のところ『画竜点睛』は誰が所持するんですか?やっぱり元々は研究所のパネルだから……」
「いや、私たちは式神の研究に加えその子たちを使えるようにするのも目的の1つだったんです。その後は優秀なパネル使いに譲渡する予定だったんですけど……その子が貴方に懐いたんなら是非触渡様が持っていてください!『為虎添翼』もどうぞそちらで!」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
こうして「画竜点睛」と「為虎添翼」は発彦たちの物になる。その事が嬉しいのか竜も締め付けない程度に発彦の首元に巻き付いた。
「で、名前どうするんだ?」
「そうですね……じゃあ『画竜点睛』なので……『リョウちゃん』で!」
「……何か安直だなぁ……」
こうして新しい仲間も増え、発彦はグローブという新しい武器も手に入れ、どんどん戦力を増やす。それで何をするかはもう決まっていた。
「それにしても……呪物研究協会エイムか……」
「勇義さん、前代未聞対策課に所属している刑事として噂とか名前は耳にしたことありません?」
「……いや、パネルの研究所を行っている機関でそんな名前は聞いたこと無いな。だけどこっちでも調べてみよう」
打倒エイム、そう目標を掲げて3人は前へ突き進む。パネルを研究しそれを悪用、人々に害をもたらす奴らを絶対に許すわけにはいかない。
名前は分かった。後は居場所など他の事についても調べないといけない。そこは任三郎の刑事としての立場が役に立つだろう。
「じゃあ私は小笠原さんたちと合流しますね!3人共、私たちを守ってくださりがとうございました!」
「はい!こちらこそありがとうございました!グローブや貴重なパネルまで譲ってくれて……また機会があったらその時もよろしくお願いします!」
そう言って比野は別れを告げた後車で小笠原がいる場所へと向かっていく。後ろのガラスからウヨクサヨクがこちらに翼をパタパタと振っていた。それに応えるかのようにリョウちゃんも尻尾を振る。
(……何か式神同士で通じるコミュニケーションがあるのだろうか?)
しかしその光景は何とも愛くるしいもので、ウヨクサヨクに母親の如く愛情を注ぐ比野の気持ちが何となく分かった発彦であった。
「あ、そう言えば先輩、これ」
「ん……って『一』のパネルじゃないか!」
「敵が使っていたやつです。比野さんに浄化をしてもらいました」
「敵って……もしかして『表裏一体』か?」
「良く分かりましたね!」
発彦と刀真は一度「表裏一体」と戦ったことがある為その特異怪字がどのような攻撃をしてくるのかまたはどんな性質を持っているのかは大体分かっていた。
しかも今まで2人は発彦の「一」を共有して使っていた。とどのつまりこれからはどっちが使うか揉めることはないというわけだ。
「じゃあ俺たちは道の駅で天空さんが車で待っているか……」
「そうですねぇ……俺もうヘトヘトですよ」
「こっちなんか眠れない程疲れてるからな」
そう言って見事特異怪字から研究所の人間とその他諸々を守り抜いた3人は、迎えが来るまで道の駅で休むことにした。
「ふぅ……まったく、邪魔しやがって……」
一方その頃、研究所のある山の近くの別の山にて刀真たちと戦ったエイムの一員、万丈炎焔が今回の任務について不満を零していた。
折角のいい勝負を命令によって邪魔されたことが何より気に食わないらしい。
「同島兄弟も殺されちまって……悲しいねぇ」
「……心にもないことを」
そう独り言を呟いている万丈炎焔を、ある女性が指摘した。
茶髪のポニーテールで鋭い目つきをしており、その細い手はさっきからずっと狙撃銃の手入れを行っている。
「随分使いこなせるようになったわね『気炎万丈』、正直今回のミッションで上手く使えなかったら撃ち殺してでも取り返せと先生に言われてたわ」
「おー怖い怖い、そういうお前さんも大分それに慣れてきたよな」
そう言って万丈炎焔が指さしたのは彼女が持っている装置付きの4枚のパネル。そこから出来上がる四字熟語は『飛耳長目』、それは元々かつて刀真と発彦の教育係となった「猿飛 鷹目」のものだった。
「くぅ~~!!やっぱ中途半端なところでお前に邪魔されたから欲求不満だぜ!何であそこで見逃すかなぁ~!やっぱ俺もう一回行くわ!」
万丈炎焔は更に不満を垂れ流しながらその場から立ち去ろうとするが、突如の銃声を耳にした瞬間足を止める。そしてその頬は、弾丸が掠った跡ができていた。
万丈炎焔が振り向けば、そこにはこちらに拳銃を向けている女。既に発砲した直後だった。その目は、まるで薄汚い物を見る目ように冷たく、そして感情が籠っていない。
「……先生の言うことは絶対よ。あの人に逆らうなんて真似したら……次は眉間に穴が開くと思いなさい」
「分かってますよ。やれやれ、これだからあの人の生徒はめんどくさい」
撃ち殺されかけたりしても万丈炎焔のふざけた口ぶりは戻らず、頬を伝う血を指でなぞりそのまま口の中に入れて舐める。
「じゃ、次こそはうんと暴れられるよう祈っときますかね」
そして狙撃銃の手入れを終わらせた女性は一通りの道具は全て終い、両腕を豪快に振りながら歩く万丈炎焔の後ろを何も言わずについていった。
辺りには何も起こらなかったかのような静粛な時が流れ始める。
触渡 発彦
所持するパネルの枚数 25枚 その内重複しているのは無し
宝塚 刀真
所持するパネルの枚数 23枚 その内重複しているのは「刀」二枚