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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第五章:刺客
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65話

刀真先輩も合流したところで、改めて現状を今一度把握する。

奴の特徴は硬い装甲に閃光による目くらまし、そして装甲を活かした圧倒的な破壊力。

まず閃光への対策であったサングラスはいとも簡単に破られている。予備を買っていれば良かった。

そしてあの凄まじいパワーの攻撃は、奴自身が鈍いため簡単に避けることが可能。


「先輩、あの怪字の硬さは異常です。普通の攻撃じゃ歯……というより刃が立ちません」


「成る程、あらかたあのヒビはお前のスマッシュでつけた傷というわけだ。伝家宝刀でも切れるかどうか怪しいな」


先輩の言う通り多分普通にあの刀を振っても傷はつかないだろう、俺の「一」を使った「一刀両断」か「猪突猛進」を用いた突きか居合斬りのどれかが当たるかもしれない。ここは「一」を貸すと俺がプロンプトスマッシュを打てなくなるため「猪突猛進」で攻めてもらおう。

狙うは腹と頭のどちらか、そこを攻め続ければ勝機はある。


「どりゃああああああ!!」


まずは俺が先行して突っ走り、2人もそれについてくように走り出す。

奴の懐に潜り込もうとすると握り締められた拳がこちらに迫ってきたのでそれを受け流すように躱し、そのまま腹を殴った。

次に勇義さんが俺を飛び越え怪字の頭を十手で叩く。

三手目は俺と勇義さんが同時に腹部のヒビを殴った。


「2人とも左右に避けろ!」


するとそんな警告が聞こえてきたので俺は右側に勇義さんは左側に身を移す。そうすると後ろから刀真先輩が俺たちの間を凄まじい勢いで通過した。「猪突猛進」による突進、そして刀の先端を奴に向けているってことは……


「猪突猛進突きぃ!!」


先輩の突き攻撃が怪字のヒビの中心に当たり深く突き刺さる。今までの攻撃で一番深く入ったかもしれない。

怪字もまさか装甲を貫通されるとは思っていなかったのか低い呻き声で苦しみだした。


「だりゃあ!」


そして俺が怪字を蹴り、伝家宝刀を奴の体から離す。すると腹を刺されたことに余計腹を立てたのか、怒号を上げながらまるで機関車のようにこっちへ突進してきた。

しかしどんなにパワーがあろうが当たらなければ意味が無い。俺たちはいとも簡単に怪字のタックルを回避した。


「パワーがあるだけで動きは遅いのか……発彦、お前の付けた傷は役に立ってるぞ」


「それはどうも……っていってもまだまだ致命傷じゃないですけどね」


「よし2人とも、俺が奴の両腕を手錠で拘束する。その隙に腹のヒビを攻めまくれ!」


そういって勇義さんは手錠を取り出し、まるでカウボーイのように振り回す。鎖の部分が普通のものより長いそれは、人より少しデカイ怪字の動きを封じるにはピッタリだろう。


「そうカッコつけてるとまたドジ踏むぞ刑事」


「なっ……俺はドジなんか踏んだことはない!」


「どの口が言うか……」


それにしても相変わらずこの2人は仲が悪い。まぁそれでも連携は取れているので今は余計な口は出さないが。喧嘩するほど何とやらだ。


「まぁ期待しない、行くならさっさと行け」


「ああもう分かったよ!」


そういってヤケになった勇義さんは単身で怪字に向かって行く。

しかしヤケになっているとはいえ冷静じゃないわけない。現にあの人は怪字の猛攻を余計な動きをせずスムーズに躱してヤツの背後に回った。


「大人しくしろ!」


そして奴の両腕を手錠で繋ぎ、体の前に出さないようにした。


「今だ!凄いのかましてやれ!」


「「おう!!」


あれなら拳による邪魔はほぼない。俺と先輩は怪字に向かって突っ走る。


「猪突居合斬りぃ!!」


先輩は「猪突猛進」を使ってその勢いで抜刀し、凄まじい居合斬りを奴の腹に当たる。火花が散り耳に痛い金属音が廃工場に鳴り響く。

そしてもう1人の俺は奴の目前で高い跳び、怪字の頭部へと向かった。そのまま空中で「一触即発」を使用し、待機状態のまま重力に従って自分から頭に触れた。


「プロンプト……スマッーーーシュゥ!!」


そのまま怪字の顔に力強くスマッシュを当て、奴を後ろへぶっ飛ばした。

怪字は何とか自分を封じる手錠を引きちぎろうとするもその手錠は対怪字用に作られたもの、何かで切らない限り力ではほぼ絶対と言っていいほどの耐久性を誇る。

チャンスだ。元々遅い奴の動きが更に鈍くなったので、今を攻めずにいつ攻めるか。


「今の内だ!ぶっ倒すぞ!!」


俺たちは雄叫びを上げながら各々の武器を構えて怪字へと突撃する。そしてトドメの一撃と与えようとしたその時……


「な!?手錠が切れた!?」


突如上から投げられた()()()によって、手錠の鎖部分が断ち切られ怪字が解放してしまう。

ナイフが投げられた方向を見ても誰もいない。一体誰の仕業だろうか?

いや、今はそんなことよりも自由になった怪字に集中しなければ。


「来たぞ!」


自由になった怪字はこちらに向かって突進してくる。ここは3人係で奴のタックルを受け止めてもう一度攻撃しようと防御の姿勢に入るが……


(なっ!?ここで閃光!?)


奴の体がこちらに触れる前に怪字は両足で急ブレーキしそのまま発光しだした。

完全に閃光攻撃にはノーマークだってので事前に防ぐこともできず思わず目を伏せてしまう。その隙に怪字は攻撃してきた。


「ぶげらっ!?」


俺は顔面を殴られ、先輩は掬うように蹴られ、勇義さんは叩かれて吹っ飛んでしまう。

油断していた、まさか攻撃姿勢からあんな急に光ることができるなんて思いもよらなかった。

極め付けには腕払いで3人とも吹っ飛ばされてしまう始末だ。


「なんだ今のナイフ……あれがなければ勝てたぞ!」


「工場の部品とか……でもただ落ちるスピードじゃなかったし……どっちかというと投げられたような……」


どう見ても誰かの故意によって助けられた怪字、援軍ならともかく怪字の方を助けるなんてどういうことだ?

すると怪字は再びこちらへ突進し殴りかかってきた。それを躱した後距離を取って次の案を考える。


「どうします……もう無理矢理にでも殴りますか……?」


「……もうそれしか方法は無いな」


これ以上長引かせるわけにもいかない、少し危険だが無理にでも特攻して攻撃することにした。

こちらの体力もそろそろ切れそうだし、スタミナがあるうちに決めないと後々バテてしまう可能性があった。


「うおりゃああああああああああああ!!!!」


雄叫びを上げ、何も考えずに怪字へと突っ込んでいく。

すると怪字は再び発光してこちらの視界を奪おうとしてきたが、俺たちは完全に目を瞑りながら走っているため意味がない。


「はぁあああああ!!猪突居合斬りぃ!!」


まずは一番体力がある刀真先輩が先行し、「猪突猛進」による居合斬りで腹のヒビを更に広げる。


「だりゃあああ!!!」


そして追い打ちに勇義さんが十手で同じところを打つ。するとなんの対策もなく突っ込んでいったため2人は怪字に殴られ吹っ飛ばされてしまった。


「先輩……勇義さん!」


盛大に飛ばされた2人の身が心配だが彼らが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない、俺はそのまま走っていく。

やがて怪字の目前まで来た俺は、迫り来る怪字の拳を何の四字熟語も使わず避け、その懐へと飛び込んでいく。


「一触即発……!!」


そして足で地面を蹴った後即座に「一触即発」を使用、待機状態のまま奴に触れようとする。

しかしその瞬間怪字は身を後ろにして俺から離れようとしてきた。もう数発受けているので警戒していたのだろう。しかし今更遅い。


「プロンプトスマッーーーーーシュッ!!!!!!」


怪字の回避は間に合わず、もうほぼ全体と言ってもいい程広がっていたヒビにスマッシュが命中した。そこからガラスの割れる時とよく似た音が連続的に鳴り響き、俺の拳が宝石の甲殻を突き抜け、そのまま奴の体を貫通した。


「だりゃああ!!」


そして勢いよく奴の体から手を引き抜くとその硬い装甲もろとも粉々に消え去ってしまった。残ったのはその体を形成していた4枚のパネルのみ。


「……ふぅ」


その後は達成感に包まれながら溜息をつく。何とか勝てた、そういう気持ちで頭がいっぱいになる。

いや、それよりもさっき吹っ飛ばされた2人は無事だろうか。


「だ、大丈夫ですかー!」


慌てて彼らの元へと駆け寄り、その容態を心配する。見たところ大きな外傷は無いし意識もある。どうやら大丈夫そうだ。ゆっくりと2人が立ち上がるのを手助けした。


「まったく……退院直後にはきつかったな……」


「はは、その口じゃ宝塚家当主なんかやってられるのか?」


「……前言撤回する。それにアンタよりかはまともに戦えた!」


「言っとくが俺はお前よりもっと長くあいつの相手をしていたんだからな!」


このように悪態を言い合えるならすぐに元気になるだろう。興奮している2人を宥めながら間に入る。


「そういえば、あの怪字の四字熟語は何だったんだ?」


「あ、まだ見てませんでした。今取ってきます」


そう言われて俺は怪字の亡骸があった場所へと走る。そしてそこに落ちていた4枚のパネルを……俺ではなく()()()()()()()


「……え?」


その人は本来ここにはいない筈の人でもあり、今日の昼初めて会ったばっかりの人でもある。その恰幅の良さと人柄の良さそうな顔つきは数時間程度では忘れられない印象であった。


「蕎麦屋の時の……」


そう、昼俺の蕎麦代を奢ってくれた男性であった。何故ここにいるのか、何故パネルを拾うのか、予想だにしていない出来事が急に来たため軽くパニック状態になりそうだった。


「よぉ!さっきぶりだな!」


しかし男性はそんな俺などお構いなしにまるで友達のように話しかけてきた。勇義さんも先輩も俺の横に立ちその人の顔を見る。


「知ってる人か?発彦」


「ほら、病院で話した俺を助けてくれた人です」


先輩にも彼の話はしたが、それはあくまで「さっきこんなことがあった」ぐらいの軽い気持ちで口にした話題であり、そこまで重要そうには話していなかった。

一方勇義さんは何だか不思議な目つきで彼を見ている。


「……なんかどこかで見たことのある顔だぞ」


もしかしたら有名人なのか、ここに見覚えのある人がいた。まぁそう言われてみれば何だか名の知れていそうな雰囲気である。テレビとかに出演したことでもあるのか?


「それにしても驚いたぜ……まさか君が今回の()()()()()だったなんて……そう知っていればあの時逃がすんじゃなかった」


「……ターゲット?何の話ですか?」


すると男性はさっき拾った4枚のパネルに黄緑色の装飾品のような物を取り付ける。装飾品というよりまるで絵画の「額縁」を小さくしたような形で、パネルがまるで一枚の絵のようになった。

ちなみにその四字熟語は「光彩陸離」、意味は光が入り乱れて美しくて眩いという意味だ。


「俺の今回の任務は……触渡発彦、そして宝塚刀真が所持しているパネルを()()()()だったんだ」


「……お前、ただの一般人じゃないな」


ここで勇義さんが拳銃を構え銃口を彼に向けた。それを見て先輩と俺はギョッする。


「ちょっと!?何してるんですか!?」


「刑事が市民に銃向けるなよ!」


「市民……ねぇ、本当にそう思うか?」


しかし男性は銃を向けられても慌てたり逃げ出す様子も見せない。まるで今の状況に慣れている……というより()()()()()()があった。勇義さんの拳銃に対しただ笑いながら降伏の腕を上げているだけ。

俺もそれで気づいた。何かおかしいぞ……と。あの両腕を上げてる仕草は降伏の意図が見られず、ただふざけているようだった。


「まぁあの時会ったのも何かの縁だと思ったし、俺自身あんまり自分の手を汚したくないんだよなぁ……だからさっきの怪字を()()()()()んだ」


「……『差し向ける』」?


その口振りだと、まるで自分が怪字を操っているようではないか。さっきから何を言っているんだこの人は?

会った時に友好的と感じたその笑顔は、今となっては不気味なものにしか見えない。正体不明、底が見えないといった感じだ。


「結果怪字はやられちまった……俺も仕事だからなぁ、あまり私事に流されちゃ駄目なのは分かってるんだ。だからこうして俺が出た」


「……何を言ってるんですか」


「まさか『光彩陸離』を倒すとは思っていなかった。強いパネル使いってのは聞いてたがここまでとはな」


「何を言って……」


「別に絶対にこの任務を達成しないといけないという訳でもないんだ。だけど俺にも信用(・・)ってのがあるんでね、真面目に仕事をしないとな」


「何を言っているんだと聞いているんだ!!」


確信、俺が抱いていた不安感は、そこから生じる敵意と恐怖が入り混じったものとなる。

こちらにとってあり得ないことをさも当然のように話し、何も思っていないように思わせてくるこの人が……こいつが怖くなってきたのだ。


「まぁ言いまとめるとな……」


そう言って男は懐から何かを取り出し、それを見せつけてくる。それは、さっきのとは別の呪いのパネル、「牛」「飲」「馬」「食」と四字熟語も完成していた。そして、あの額縁のような装飾品もそれに付いていた。


「……ここでお前らは終わりってことだよ!」


そしてなんとその4枚のパネルを自分の胸の中に()()()()()


「なっ!?」


4枚のパネルはどんどん男の胸の中に沈んでいき、やがて完全に体内へと取り込まれていった。

そこから男を取り囲むように骨格ができ、その上から肉が固められていく。やがて彼の体はまるで心臓のように「それ」の中に入り、そして腕、足が形成されていき、段々人の形へとなっていった。

そんな光景を、俺たちは固唾を呑んで傍観していた。見てるものが異常すぎて指一本すら動かせない。


(何だこれ……一体何が……!?)


俺はこの場であることを思い出す。遠い昔の話、初めて怪字を見た時のことだった。今はそれと同じ気持ちになっている。

やがてある程度人型になると、その右肩に牛に似た頭部が生えてきた。それに伴い左肩は馬のような頭が出来上がっている。

極め付きにはぷっくり膨らんだ腹に裂け目が広がり、大きな口ができた。そして全身に血管のような赤と青の線が浮かび上がる。

変身、いや変貌といったところか、その姿はもうあの男のものとはかけ離れている。

この見たことの無い化け物を、何と呼ぶか俺たちは知っている。でも目の前にいる「それ」を普通にその呼称で呼ぶことはできなかった。だけど俺は、こう呟いた。


「怪字……!?」


そう、目の前で()()()()()()()()のだ。あまりの出来事に脳が理解に追いつかない。いや理解してもしきれない。人が、怪字になる。そんなことがあり得るのだろうか?そうは思っても現に目の前でそれが起きた。

元々デカかった身長は更に大きくなり、俺たちを見下ろす形になっている。恰幅の良かったその腹には、鋭い牙を生やした口がある。そして優しそうだったあの顔は、まるで鬼のように変わっていた。


「……さて、どうかなご感想の方は?」


「喋った!?」


しかもその怪字は、さも当たり前のように人の言葉を話す。しかもその喋り方を聞くに人間の時と同じような感じだ。

突如怪字となったその男は、月が輝いている夜空を見上げている。


「――()()()()()な。好きなものを好きな時に好きなだけ食う……いい世の中になったとは思わないか?」


そして俺たちを睨みつけ、涎を垂らしながらニヤリと笑った。


夜食(おまえら)は、どんな味がするんだ?」

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