64話
俺たちは何とか神社までたどり着くと、天空さんの治療を受け今回の怪字への対策を考え始める。あの閃光攻撃をどうしたら防げるか。
といっても、そに対策方法はもう導き出されていた。
「やっぱこれですよね、サングラス」
「だな、これならノーモーションで防げる」
それはさっき駅前の店で買ってきた2つのサングラスだった。サングラスなら一々目を手で覆う必要もないし、逆に奴が光った直後の隙を堂々と突くことができる。壊されない限り大丈夫だろう。
「あの硬さはどうしましょうか?」
「やっぱりヒビを中心的に攻撃する以外無いんじゃないか?」
「でもそれだと時間がかかるんですよね……」
初戦で気づいたのだがあの怪字と戦う際において一番気を付けないといけないのは圧倒的なパワーもあるがずばり体力面であった。
あの防御力を前にして、俺たちはプロンプトスマッシュ以外に直接的なダメージを入れる方法が無い。なので確実に攻撃を当てていく「持久戦」になると思われる。いくらあの怪字の動きが遅いとはいえ避けたり掻い潜ったりするのにもスタミナは削られる、なのでこちらが先にバテるのが予想された。
「それに……サングラスを付けるからいつもと違う視界と感覚に慣れないかもしれないな」
「うーん、何か決定的な対策方法は無いか……?」
そう言って2人で考え合う時間に突入する。俺が過去の経験から何かヒントが無いかと記憶を漁っていると、あることを思い出す。
「そうだ!怪浄隊!カケルさん達に手伝ってもらうのは!?」
それは先月初めて存在を知った対怪字部隊である「怪浄隊」、そしてそれに所属し勇義さんと知り合いでもあるカケルさんのことを思い出した。あの武装力なら何とか強行突破できるかもしれない。
「それだ!早速本部に援軍要請として電話しよう」
勇義さんは携帯電話を取り出しどこかへ電話をかける。その本部とやらが一体どこにあるのかは分からないが、こういう場面では何とも頼もしい限りだ。
するとすぐに電話は繋がり、勇義さんはタメ口のまま話し始める。
「カケルという男が所属している部隊がまだ英姿町の付近にいると思う、この町に来るよう伝えておいてくれないか?」
しかし勇義さんの表情は次の瞬間驚いたものになる。
「――は?行方不明?8人全員が?」
「……え?」
同様に俺も勇義さんが復唱したその言葉に驚かずにはいられなかった。まさか行方不明になっているとは思いもよらず、心配になってくる。
それに8人全員が行方不明となると、絶対に何かに巻き込まれたに違いない。
「一体いつ……先月?……ああ、分かった。もういい」
そう言うと勇義さんは電話を切り、深刻な顔つきで携帯電話をしまう。それもそのはず、あんなに仲良くしていた人が行方不明になってしまったのだから。
「……聞いた通り、先月から行方不明になっているらしい。それも、俺たちと会った日に」
「あの日にですか!?」
確かあの時初めて会った日はもう夜になっていた。つまり俺たちと別れたあの後に何かあったということだ。あの日あの夜、一体何が起きたのだろうか?
「痕跡も何も残っておらず、運んでいた8枚のパネルもどこにも無いらしい」
「……パネルが無い?」
俺はそのことに、何か嫌な感じと違和感を同時に感じる。パネルは燃やそうが沈めようが潰そうが絶対に傷1つ付かないもので、その物質や性質は現代科学でも明らかになっていない。明らかに木製の筈なのに鉄以上の硬さを持っていた。つまり自然消滅したりするものではない。話を聞く限り捜索は行われたのだろう。それでも見つからないということは――
(……まさか!)
カケルさん達の失踪、無くなったパネル。この2つで導き出されて思い出したのは、夏休みに行った合宿で見た……あの針の怪字の顔だった。
「特異怪字が……襲ったんじゃ……!?」
「……何だと?」
その瞬間勇義さんの顔は怒りに呑み込まれる。彼にとって怪字というのは恋人の仇でもある。もし俺の予想が正しければ、カケルさんも――
いや、まだ決めつけるのは早い。それにあの特異怪字は虎鉄さんと鷹目さんからパネルを奪った張本人でもある。本来怪字には無い筈の「知能」を持っている怪字、奴は何故かパネルを奪っている。もしそれとあの時と同じ行動原理なら、パネルを運んでいる車を襲う可能性も大いにあり得る。
だが本当に特異怪字の仕業だとしたら、ジッとはしてられない。虎鉄さん達のパネルを取り返すためにも、これからの怪字退治においても、奴の存在は決して無視できない。
俺たちは直感していた。特異怪字という存在が、より多くの災害をもたらす存在だと――
明らかに人間には友好的には見えなかった、所詮怪字は怪字ということか。対話もできるかどうか怪しい。
「と、とにかく今は今の怪字に集中しましょう!そろそろ休憩もできたことだし、早速向かいましょう!」
「……ああ」
勇義さんの声にはまだ怒りの色が見える。どうやらカケルさんを失った悲しみよりもその原因である怪字に対しての怒りが勝ったらしい。まだ特異怪字の仕業とは決まってないが、可能性は高いだろう。
しかし今はあの硬い怪字を優先した方が良い。俺たちは部屋を出て奴の元へと走っていく。
途中天空さんと会った。
「あれ、もういいのか休憩」
「はい!次こそ倒してきます!」
「お邪魔しました天空さん!」
「ああ、頑張れよ!」
「いたぞ!奴だ!」
それから「一葉知秋」を頼りに逃げた怪字を2人で探しているとようやくその姿を発見することができた。
場所は町はずれにある廃工場、こんなところに工場なんかあったのかと少し驚いたがここなら人目も無いし思う存分暴れられるだろう。それにこうごちゃごちゃしてると奴に傷を付けられるヒントがあるかもしれない。
俺は前に勇義さんは背後にと挟み撃ちの形になり、怪字も俺たちに再び敵意を向けてきた。勿論サングラスは2人とも付けている。
「だぁあああああ!!」
そして2人同時に怪字へと突撃、俺は腹を力強くぶん殴る。そして次の攻撃にキックを奴の首元に当てた。
後ろでは勇義さんがその背中に何度も何度も十手を叩きつけているが宝石のような装甲には傷1つ付かない。
やっぱり腹部と頭部の傷を積極的に狙わなくては、そう思った俺たちは同時に奴の頭部を叩いた。
「ぐぎゃあ!?」
すると怪字は真正面にいた俺を両手で叩くように挟み、そのまま握った後地面に叩きつける。
そして次に後ろへ振り向くと同時にその剛腕を振り、そこにいた勇義さんを薙ぎ払った。
「ぐはっ!」
怪字は後ろの壁まで勇義さんが飛ばされていたのを確認すると、再び俺へと向き拳を握って振り下ろしてきた。
「だぁっ!?」
奴の硬い拳が腹にモロ入り、途轍もない痛みに襲われる。そこから怪字は何度も俺を両手で殴り続ける。
このままではまずい――俺はポケットのパネルを殴られながらも何とか取り出した。
「げほがっ……八方……美人!」
「八方美人」を使用、降りかかってくる怪字の両拳を全て避けながらその懐へと潜り込んだ。
「一点集中ゲイルインパクト!!」
そして連続パンチで俺が付けたヒビをどんどん広げていく。元々が硬いのでよく注意して見ないと分からないが、大きくなっていた。
つまり、今こうして殴っているのも無意味じゃないということ、諦めずに何度も攻撃すれば倒せる筈だ。
すると怪字はこちらを殴ろうとしてくる。勿論俺も普通に殴るだけで倒そうとは思っていない。
「一触即発プロンプトスマッシュ!!」
即座に「一触即発」を使い、待機状態でそのパンチを受け止めスマッシュでカウンターを入れた。俺の殴られた左手は腹と頭同様ヒビが入り、怪字は殴られた威力で後ろに倒れそうになる。
「せやぁあ!!」
そこで勇義さんがで上から顔をぶっ叩き、怪字の背中を完全に地面に付けた。そして素早い手つきで十手から拳銃へと持ち替える。
「ぶっ放してその顔穴だらけにしてやる!!!」
勇義さんは銃口を奴の顔に押し当て、弾が無くなるまで発砲し続ける。しかし全弾撃ってもその顔は崩れず、怪字は倒れたまま自分の体の上で膝を付いている勇義さんに頭突きを食らわせた。
「――づぁがっ!?」
虎鉄さんの「鉄額」を思わせるその力強い頭突きは、勇義さんをその場で伏せさせる。あんなに硬い頭で頭を打たれたらとんでもない痛みと威力だろう。現にあの人は立てずに頭をずっと押さえていた。
すると蹲っている勇義さんを怪字は蹴ろうと右足を浮かせたのを見て、俺は瞬時に「疾風迅雷」使用、超高速で奴の目前まで一瞬で移動した。
「――させるかぁ!!」
そして奴を蹴り飛ばして勇義さんから離れさせた。俺が勇義さんを起こしている間に奴もすぐに起き上がる。
すると怪字はお得意の発光をし閃光を辺りに散らす……が、
「生憎だけどそれはもう効かん!」
迸る強い光の中を俺たちは難なく突破し、発行する仕草で隙を作った怪字を逆に攻撃した。俺は拳で腹を殴り、勇義さんは十手で顔を突き、奴を壁際まで吹っ飛ばした。
すると壁に激突した際その真上にあった瓦礫やパーツが衝撃で落ち、怪字に降り注ぐ。結果奴はガラクタに埋もれてしまった。
それを見た俺たちは手をハイタッチする。
「上手くいったな!正直サングラスで防げるか不安だったが」
「はい!これなら大丈夫ですね!」
すると怪字がガラクタの山からモグラのように出てきた。その表情は今までの無表情とは逆に牙を噛みしめ目を細めてこちらを睨んでいる。
閃光を防がれたことに対して怒っているのだろうか?どっちにしろさっきまでと同じようにはいかないことを直感で察する。
そこで怪字が大きく地団駄を踏み、さっきぶつかった壁を思い切り殴ったりするとこの廃工場全体が揺れ始め、上の階に積まれていたり設置されていたガラクタや機械がどんどん落ちてきた。
「なっ!?危ねっ!!」
「どんなパワーしてんだ野郎!」
必死になって上から降ってくるガラクタを避けまくる。どれもこれも工場に置いてあったものなのでとても重そうだ。当たったら怪我になる事間違いなしだ。
しかしそれで上を注意していたせいで、怪字への警戒が弱くなっていた。
「ぼげがっ!?」
「げはっ!?」
奴は両腕を大きく広げてこちらにタックルし、そのままラリアットで俺たちに突っ込んできた。しかも運悪いことに奴の腕が当たった個所は2人とも顔、おかげでサングラスはぐにゃぐにゃに曲がってしまう。
ラリアットで吹っ飛ばされた俺たちは、すぐに起き上がろうとするも顔を思い切りやられたため上手く立てない。そんな俺たちに一段と重そうな機械が落ちてきた。
「しまっ……!」
受け止めようにもラリアットのせいで視界が揺らいでいる。それに足腰も緩くなっているためこれじゃあキャッチすることも不可能だ。
やがて俺たちと機械がぶつかろうとしたその時――
「――せいやぁあ!!」
突如として機械は真っ二つに分かれ、俺たちは機械の直撃を免れる。
「……痛っ!」
しかし勇義さんにだけ小さなネジが落ちてきた。
一体何故機会が真っ二つになったのか、誰の仕業かはもう分かりきっていた。
「――待たせた!」
工場の高所からこちらを見降ろしている男、宝塚家現当主の刀真先輩だ――!
先輩はそこから飛び降りると、落ちたまま怪字に斬撃を放って牽制、そのまま俺たちの前に立つ。
「先輩、もう傷は良いんですか……?」
「ああ、さっき退院したばかりだ。丁度なまった体を動かしたいと思ってたところだ」
「この……斬るんだったらちゃんと斬れ!」
こうして俺たち3人は更に怒りを強くした怪字と対峙する。
「ところで何だそのぐにゃぐにゃのサングラス」
「あいつ強い光でこっちの目をくらますんです」
「通りでここに来る途中なんか光ったと思った」
「話してる暇は無い、行くぞ!」
そして勇義さんの一喝によって身を引き締め、怪字へと突っ走った――




