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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第八章:刑事と兎
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99話

「囚人番号6110!!何をしている!?」


ここは何処かの刑務所、とある牢に入っていたとある囚人が、とある日鉄格子が付けられた窓の近くに立っていた。

看守はそれを見て脱走の疑いが無いかその男を番号で呼ぶ。6110番のその囚人はゆっくりと振り返って看守と目を合わせる。

元々の髪型は白くて長い髪型だったが、今となっては丸刈りにされて見る影もない。高身長でスラッと痩せていて細かった。

知人が見ても誰も彼とは思い出せないような程に変わり果てた6110番には、唯一投獄前から変わっていなかったものがあった。

それは赤く輝いたその目、この目だけが男の特徴であり、それはとても不気味に窓からの月光を反射していた。

看守もそれを見て一瞬竦むが、相手は牢屋の中。臆することはないと判断し強気に出た。


「何をしていると聞いているんだ!早く答えろ!」


「……月を見ていたんですよ、看守さん。見かけない顔だね、これからどうぞよろしく」


それに対しニヘラと不気味な笑みを見せ、更に己の怖さを引き立てる。薄暗い牢の中、赤い目の男が三日月のように口を曲げている、それがどれ程恐怖の対象かなんかは男には分かっていない。

しかし看守を驚かすには十分であり、「紛らわしい真似をするな」とだけ言い残してその場を去ってしまう。


「もう逃げちまうのか……寂しいねぇ」


時間的に他の囚人たちも寝ている時間だ、つまり6110番の独り言など誰も聞かないし、耳にしても「()()()()()」と片付ける。

というよりかは日常的に深夜の時間帯にこの男の独り言を聞いているため慣れてしまったのだ。最初こそ「うるせぇぞ!」「静かにしろ!」と怒号が飛んで来たが、今となっては注意する者もさっきのようなたまに通る新人の看守ぐらいだった。逆にいつまでも囚人の独り言に慣れない看守に批判が飛び交う始末だ。


「ずっとこんなところにいたんじゃ……寂しくて孤独死しちまうよ」


男はそう言うが一応食事の時間は他の者と取っているはずだし、休憩時間だってあるので他人と触れ合う機会は沢山ある。

ならば何が寂しいのか?それが分かるのか囚人自身だけだった。ただ「寂しい」を口にするだけで具体的に何故寂しいのかは決して言わない。

月を眺めるのも飽きたのか、男はゆっくりと腰掛け寝転がり、掛布団で全身を包む。ヒンヤリ冷えたこの牢屋では、この布団が唯一の救いである。

囚人は繭のように毛布を纏い、自分を捕まえたあの刑事のことを考え出した。

あいつにさえ捕まっていなければと思っているが、決して恨みなんかじゃない。刑事という立場なら、自分を捕まえるのはおかしなことじゃないからだ。

しかし事実自分はあいつのせいでこんな寂しい生活を送っている。心の中で恨むか恨まないかというちょっとした対立ができていた。

すると男は、誰もいない筈の牢屋に気配を感じ取り、布団から出て見る。するとそこには見慣れない服装の人間がポツンと立ち尽くしていた。

全身を黒いコートで隠し、顔も仮面で誰にも見せないようにしている。これまた月光を反射する綺麗な光沢のある銀髪で、囚人の赤い目といい勝負をしている。


「……何だぁ?」


この牢屋は6110番の個室の筈、それに囚人服も来てない輩が牢の中に入っているというのは中々おかしな光景だ。

男は最初こそその人物に驚きはするも声には出さず、冷静に事態を考えている。どうやってここに来たのか?何者なのか?分からないことが沢山ある。

すると仮面の男は、こちらに向けて屈んでとあることを提案してきた。


「……ここから逃げたくはないかい?」


「……あっしを自由にしてくれるのかい?」


その質問に対してこちらも質問で返す。兎にも角にもその提案にはとても興味があった。

どういう手品か知らないがこの仮面男は音も立てず扉も開けずここに入ってきた。何か脱獄の方法を持っているのは確かだ。ならば話を聞くだけなら損じゃない。


「君……()()()()()()()()()()()()んだろ?なら彼に復讐できると言ったらどうする?」


「あっしはあの人を恨んじゃないよ、まぁ抜け出すなら考えてもいいかもしれないねぇ」


「じゃあここから出れる力と彼に復讐できる力を与えよう。その代わり、勇義任三郎を殺してくれ」


そう言って仮面の男が出してきたのは4()()()()()()、全てに抑制する装置が付いていた。

始めて見る呪いのパネルに囚人は一瞬目を点にして凝視しだす。関わりのない人間にとってはパネルなど漢字が書かれたただの木の板である。


「これを自分の体に入れれば超人的なパワーが手に入る。どうだこの話、乗るか?乗らないか?」


そう言って仮面の男は6110番にその四字熟語を差し出す。囚人は最初こそ警戒したが、やがてそれに手を伸ばし、力強く握りしめる。

ニヤッと口角を曲げ、パネルと仮面男を交互に見る。そしてパネルを持っている方の手で自分の胸をドンッと叩き胸を張る。


「良いだろう。こう見えてもあっしは約束は守る質なんだ。そこまで恨んじゃいないが、牢屋でくたばるよりかは一度脱獄ってもんを経験したもんが楽しそうだ」


そして躊躇なくパネルを自分の体に入れ、自身の体をどんどん異形の者へと変えていった。仮面の男はそれを満足げに傍から見ている。


「捨て駒にしては上等すぎたかな?」


するとその仮面の男は()()()()()()()()()()()、そのまま鉄格子の隙間を通って牢屋から抜け出した。

いつしか中に残ったのは、人間の姿など完全に捨てている6110番だけであった。

その次の朝、点呼の時間にいつまでたっても布団の中から出てこない囚人を見た看守は、何かあったのかと確かめるために数人で扉を開ける。

その瞬間、布団から何かが飛び出しあっという間に看守たちを通り過ぎていった。

瞬く間に囚人は脱獄、その後周囲の町を警官隊が包囲したが気づかれる暇も無く逃げられてしまう。

これは刀真が茨木に行く2日前の話であった。










「へぇ~刀真先輩茨木行くんですか?」


『ああ、「為虎添翼」を召喚するためにな』


時刻は5時近く、俺は刀真との通話中に彼が明日茨木に行くことを耳にする。何でも貰った「為虎添翼」を使いこなせるようになるために、何かヒントが無いか情報収集に行くんだとか。

通話中「画竜点睛」ことリョウちゃんは天空さんと戯れており、すっかりこの神社の暮らしに慣れてきた頃だ。天空さんの振る猫じゃらしの先端を必死に追っていた。

なんかこう祖父と孫が一緒に遊んでいるようにもいえ、少しだけほっこりした雰囲気になった。


「じゃあ英姿町は俺と勇儀さんに任せて下さい!茨木でのお土産、楽しみにしてます」


『ああ、買っておく』


そうして通話を切り、リョウちゃんを指で招く仕草をすると、こっちに飛んできて嬉しそうに俺の首に纏わりついた。


「刀真君何だって?」


「式神召喚するために茨木に行くっていってました。明日電車で行くそうです」


「ほぉ~高校生は行動力があるな、受験勉強は大丈夫だろうか……そう言えばお前は将来どうするんだ?」


そう、2年生にもなるとそろそろ進路のことも考えないといけなくなる。どうやらこの町の学生たちの大半は、2つの大学のうちどちらかに行くらしいが何も考えていない。


「俺は神職について……これからもこの神社に住もうと思ってます。どうせやりたいことなんて無いし……」


「……私の跡を継ぐつもりか?別にいいが決めるのはもう少し後で良いんじゃないか?」


自分の方から急かすようなことを言ったのに、天空さんは冷や汗をかいて慌てるような素振りで、逆のことを言ってきた。

分かってる、天空さんは優しい人だ。多分俺にこれからも怪字と戦わせる未来で過ごしてほしくないのだろう。

まるで息子を危険な道に行かせないようにする父親だ。この時点でもう俺と天空さんの関係性は親子のそれに近い。息子と同じように想っているから別の道を選ばせようとしているのだ。

だがその思いやりを無駄にするようで罪悪感があるが、今の現状を変えるつもりは無い。

ただでさえ呪物研究協会エイムやその特異怪字など色々立て込んでいるのに、今自分が戦いに抜けたら駄目だ。自惚れるようだがまだ怪字退治には俺という子供でも必要だと思う。それほどまでに事態は悪化していた。


「……そうですね、まだ時間はありますよね」


しかしそれを正直に口にしても余計に天空さんを心配させるだけだ。ここは嘘でもいいから安心させるために肯定しておこう。

その際の笑いが逆に怪しく見えたのか、彼の表情が明るくなることはなかった。

……このままだといつまでも暗い雰囲気が続くな。ここはテレビでも点けて穏やかな空気に変えるか。

そう言ってリモコンに手をかけ画面を点ける。丁度ニュース番組の時間でありアナウンサーが一番最初に見えた。


『昨日脱獄した「抜蔵(ぬけぐら) 兎弥(とび)」脱獄犯は依然として発見されておらず、○○刑務所の周囲には警備隊が包囲網を作っていたものの、それを掻い潜り遠くに逃げたと思われます』


そう言って画面にその脱獄犯の写真が映し出された。白髪の坊主頭で顔も女性に見えるほど美男だった。もし髪が長ければ絶対に女と間違えそうなくらいだった。

何より特徴的だったのはその目で、まるで宝石のように赤く輝いていた眼である。ここまで目立った容姿だとすぐに見つかると思うのだが……

その後すぐにチャンネル変え、少し面白そうなドキュメンタリー番組にする。

別に脱獄犯がどうしようが俺にはどうしようもない、興味も薄かったのでその日はあまり気にしなかった。

しかし次の日、まさかあんな形で遭遇することになるとは、この時は誰も知らなかったのである。

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