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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第七章:為虎添翼
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98話

私たちはその後お土産を買った後電車に乗って英姿町へと帰っていった。ちなみに私の体の傷は茨木で治している暇は無いので、病院にも行かなかったのが、周りの人達は「何でこいつこんなボロボロなの?」と言わんばかりのおかしな物を見る目で見られた。

ガタンコトンと揺さぶられる度に殴られた場所に痛みが走り、とても辛かったが何とかそれを顔に出さずに到着する。

辺りはもうすっかり暗くなっており、まだまだ夜とは言えないような時間だが、それも冬が近づいている証拠だろう。

そうして駅前で純桜と別れることにした。


「純桜、今日はありがとう。正直お前を連れていくことが少し不安だったが……お前のおかげでこいつも召喚できた」


そう言って周りに見えないよう「為虎添翼」がリュックの中から顔を出す。純桜はそれに小さく手を振った。


「トーマ君も私にあの事を話してくれてありがとう。安心して、絶対に誰にも話さないから」


「そうか、もし怪字とか見かけたらすぐに私に電話してくれ」


そう言って携帯電話の連絡先を交換し合い、その場で別れて私は神社へと向かう。今回の事を発彦や天空さんたちに報告するつもりだ。

思えば今回の遠出にもし純桜がいなかったら「為虎添翼(こいつ)」も召喚できていなかったし火如電にも敗北していたと思う。

改めて礼を言わなければ、そう思いつつ私は神社に向かって足を進める。あの長い階段は怪我だらけの体には苦行のように感じたがゆっくりと一段一段上がり、遂に玄関前へと辿り着いた。


「あ、刀真君!そんなに傷だらけになって……寒かっただろう、中に入っても良いよ」


「こんばんは天空さん、遅くに失礼します」


中に入ると天空さんの包容力のおかげなのか、何だか暖かい気持ちになりコートも脱ぐ。

そして案内された部屋に入ると包帯や湿布などを貼られている発彦と刑事がいた。


「刀真先輩!おかえりなさい!怪我だらけですけど大丈夫ですか!?」


「ははっ……お前もだぞ発彦、刑事は転んでその傷を付けたのか?」


「戦ったんだよ俺も!!」


実家じゃない筈なのにまるで家に帰ってきたような安心感に包まれる。私の心配をしてくれた純桜には悪いがやはり私にとってはここが居場所だ。

私には一緒に戦ってくれる仲間がいる。もうこれだけで十分であった。

すると、今までリュックの中に隠れていた「為虎添翼」が突然興奮した様子で飛び出す。


「あ!それが『為虎添翼』ですか!」


発彦と刑事は始めて見る「為虎添翼」に視線を奪われる。次に発彦の服の中に潜んでいた「画竜点睛」も飛び出した。


「……まさか」


刑事が不安そうな声でそう零すと、自分でも予想していたのか2匹の式神が一気に刑事へと飛んで行き、これでもかというぐらい奴の周りを飛び交って虐め始める。


「のわぁああ!!やめろこのっ!!」


「……相変わらず勇義さんは式神に嫌われていますよね」


「ああ……『為虎添翼』なんかは初対面のはずなのに……最早才能だな」


「こんな才能嬉しくないっ!」


しばらく襲われている刑事を傍観しているのも良かったが、発彦がそれを許すわけもなく2人で自分たちの式神を宥める。

すると2匹は今度は仲が良さそうに並行に並んで部屋中を飛び回り始める。そういえば「画竜点睛」と「為虎添翼」は知り合い同士だったな、研究所でその絵を見たことがあった。


「ところで名前は付けないんですか?俺のリョウちゃんみたいに」


「名前?『為虎添翼』で良いだろ別に」


「え~それだと何か可愛げが無いですよ」


もうすっかり「画竜点睛」をペット扱いしているなこいつは。まぁ減るもんじゃないし一応つけておくか名前。

でも「画竜点睛」のリョウちゃんのような可愛らしい名前は駄目だな。もうちょっとこう……カッコイイ感じの名前をだな……


「じゃあ『トラテン』で!」


「え……トラテン……?」


思いついた名前を口に出してみると発彦も刑事も信じられないような顔でこちらを見てくる。

虎が翼で天に昇るから虎天(トラテン)、中々良さそうな名前の筈なのに2人は苦虫を噛み潰したような顔で納得がいかなさそうだった。

何故だ?リョウちゃんよりかはカッコイイ名前だと思うが?


「何か……天ぷら屋の名前みたいな……」


発彦が言いにくそうに何か言い零したが小さすぎて聞こえない。だが刑事はゲラゲラと笑いながらこちらを指で指してきた。


「なっはっはトラテンって!ネーセン皆無だな宝塚ァ!!くくくっ……トラテン……!!」


「――おいトラテン、やれ」


俺がそう言うとさっきまで「画竜点睛」と戯れていたトラテンが目の色変えて飛ぶ方向を曲げ一気に加速、そのまま刑事の脇腹に突っ込む。


「うぼげっ!?」


そして命令していないのに「画竜点睛」までもが刑事に襲い掛かった。恐らくこいつの笑い顔が気に食わなかったのだろう、2匹そろって再び暴れ始める。

その光景を見て私は笑いながら指で指すことによって同じことをやりかえす。


「はっはっは!懐かれているようだな刑事ィ!」


「ちょ先輩!やめさせてくださいよ!リョウちゃんもやめろ!」


そこから数分ぐらいドッタンバッタンと大暴れをし、2人とも笑い合いながら式神と戯れていた(1人は不満そうだったが)。

そこでようやく落ち着き、私も報告を始める。


「今回来た刺客は『電光石火』を使う火如電、そしてそいつを助けに来たのはあの『針の特異怪字』だ!」


「……とうとう姿を現してきたか」


発彦も深刻そうな顔で顎に手をやる。そう、私と発彦は一度奴と遭遇しコテンパンにやられてしまった経験がある。だからその強さは身で感じており、あの時の悔しさでいつまでもその味を覚えていた。

四字熟語は不明だが、物を小さくする能力。奴はそれで針を巨大化させて武器に使う。自身も小さくすることができて小人のように素早く動き回れる。分かっているのはそれぐらいだ。

能力も厄介だが最も注意すべきはその強さ、あの時はまだ今ぐらいに成長してはいなかったが私と発彦がほぼ一瞬で圧倒される程の強敵だ。今あの時の光景を振り返ると、特異怪字としての戦い方をよく理解できている動きだ。


「すまんが逃げられた……お前らの事を言われて油断してしまった」


「まぁ無事なら良いですよ!もし1人で奴と戦うなんてことになったら厳しいかと思います!」


励ましのつもりなのか声を大きくして微笑みながら発彦がそう言ってきた。まぁあの時は「為虎添翼」もいたがそれでも勝てるかどうかはまだ分からなかっただろう。

しかしここで逃がしてしまったのは痛手だ。もし捕まえることができたのならエイムのことについて色々聞き出せたかもしれないというのに。

だが奴はこう言っていた。「同じ町に住んでるんだ、近いうちにまた顔を合わせるさ」と――

分かってはいたが呪物研究協会エイムの根城がこの英姿町にあることが敵の口から証明された。つまりこの町のどこかに奴らは潜んでいるという訳だ。

このことを2人に話すと、待ってましたと言わんばかりに刑事が立ち上がり、自分の胸を叩く。


「捜査なら現職刑事の俺に任せてくれ!絶対に奴らのアジトを見つけ出してやるぜ!!」


そう、こういう時にだけこいつの刑事という立場が上手く使える。この町の警察なら私たちよりも英姿町の土地に詳しいだろうし捜索もスムーズにいくかもしれない。

まぁ奴のあの言葉が本当かどうか定かではないがやってみる価値はある。英姿町は開発こそされているがまだまだ自然豊かな場所は残っている、隠れられ生場所だって見る限り地図にだって沢山ある。


「そう言えば、お前らの方はどうだったんだ?」


「あぁそれがですね、今回の相手は昔勇義さんが捕まえた……」










話し合いも終わり、私はトラテンを連れて家へと帰っている途中だった。発彦と一応刑事にも茨木のお土産である納豆大福なるものも渡したし、あまり遅くまでいると天空さんにまで迷惑が掛かるので早めに帰ることにした。

そして歩きながら夜空の星を眺め、今日は色んな事があったと1日の出来事を振り返る。

純桜にパネルのことを話し、トラテンも召喚でき、針の特異怪字とも再び会うことができた。

このうちの2つはいつかやるべきことだったので、1日でかなり進歩することができたと思う。

次はいよいよ奴らのアジトの捜索だ。上手くいけばそれで全てが終わらせることができるかもしれない。何せもしそうなればアジトに乗り込むことになるだろう。

針の特異怪字の正体やそのボスの顔、他にも人造パネルや装置の生産方法など、知りたかったことを一気に知り奴らを一網打尽にするチャンスだ。

思えば初めて針の特異怪字と遭遇して数か月、ここまで来るのに長かったような短かったような、まだ終わってもいないのに達成感が感じられた。

そんなことを考えていると、前の方から誰かの足音が聞こえる。やばい、トラテンは今完全に全体を出している、急いで隠さなければ。

押し込むようにトラテンを服の中に隠そうとすると、その人影が知っている人のものであることに気づいた。


「小笠原さん!」


「やぁ宝塚君、こんな夜更けに偶然」


鶴歳研究所の小笠原さんだ。この前ここに引っ越してきたと言っていたから、こうして道端で偶然会うのもおかしくはない。

その手には買い物袋が持たされている。どうやら何かの買い出しらしい。少し気になってそのことを聞いてみた。


「研究で時間を忘れちゃってね……少し遅めの晩御飯さ。そう言えば茨木はどうだった?」


「あ、そうなんです!見てくださいよこいつを!」


この人になら見せても良いか、そう思い隠していたトラテンを彼に見せて見た。

私はてっきり驚くかと思ったが、トラテンを始めて見ても特に何も言わず驚きもしない。まるで()()()()()()()()()視線だった。


「……小笠原さん?」


「ああ……凄いじゃないか!召喚できたんだね!」


そして少し間を取って反応を示す。それに対し少し疑問を持ったがまぁ「比翼連理」の式神を常に連れまわしている比野さんの同僚だ、式神なんかは見慣れているのだろう。


「今度研究所(うち)においでよ!翼のやつ喜ぶと思うからさ!」


「是非そうさせてもらいます。近々挨拶にも行こうと思ってましたし!」


そう言って彼と別れ、家へと再び歩き出す。

小笠原さんは相変わらず爽やかで優しい雰囲気を出していた。ああいう人を守るためにも、これからも一層頑張らなければ。

そう思うとジッとなんかしてられない。まだ体は痛むが、このまま家まで走っていこう。


(そう言えば小笠原さんに茨木行くって言ったかなぁ?)


まぁ細かいことは気にしないでおこう。私はそのまま走り出し、それを追うようにトラテンも飛び去った。

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