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第十五戦 感謝

 風の音がとてもよく聞こえる。そこは草木がいっさい生えていない寂しげな平地だった。そのなにもない平地に一人の少女が見える。

 

 少女は長旅に疲労し、からだが動かなくなってしまうほど無理をしたのだ。さっきまで、心配されないように、笑顔で必死に隠していた。


 亮平を元気つけられるのは私しかいないのだから、私の弱い姿を見せるわけにはいかない。その優しさのなかの強さが。今の少女に牙をむいたのだった。


 少女の最後に放った刀は、紫の直線を描きながらまだ飛んでいた。




 何時間たっても、テラは消えなかった。つまり、テラの刀が亮平にまだ届いていないということになる。刀の速度は遅くはない。むしろ、速い。なのに、まだ届かない。


 届いていないのではなく、きっと届けられない。洞窟に亮平がいない。あるいは、いても刀をとることができない状態。ということが考えられる。


 少しずつ体力が回復しつつあるテラだったが、顔は青ざめていた。もしも、亮平が本当に王国に捕まっていたらどうしようと考えると恐くてたまらないのだ。捕まったという可能性は極めて低いと思う。が、ゼロではない。ゆえに、完全に捕まらないとは言い切れない。


 テラはうつ伏せになっているまま、自分の頭を両手で抱えていた。震えがとまらない。確かめたいのに確かめられない。会いたいのに会えない。今、テラに襲いかかる不安は精神に大きなダメージを与え続けている。


 その瞬間は急に訪れた。からだが少しずつ透明化し始めているのだ。


 テラは嬉しさのあまり、また涙が零れてしまう。肩を震わせながら、喜びを噛み締める。


「待っててね、亮平……」


 視界が真っ白くなった。完全に透明化に成功した証拠だ。あとは、亮平のところに瞬間移動するだけ。


 二秒もたたぬうちに、視界に色がつく。


「亮平!」


「テラ!?」


 テラはその場にいた、亮平に抱きついた。さっきまでの痛み、苦しみが嘘のように体が軽く感じる。


 瞬間移動は成功。テラはあの薄暗い亮平の待つ洞窟の中に戻ってこれた。


「急に刀飛ばしてくるなよな! 危うく刺さるかと思ったぜ」


 抱きついたまま顔をうずめてくる、テラにおれは言ってやった。だが、本当に言わなければならないのはこんなことじゃないはずだ。わかってる、わかってるけど。恥ずかしくて言いづらい。


「テラ」


 俺の声が急に優しい声になる。テラもそれに気づいたのか、涙でぐしゃぐしゃになった顔で俺を見つめた。


「おかえり」


 凄く耳が熱い。心臓もドクンドクンと過激に跳ね回る。顔を赤くしながらも俺は、しっかりと言いとげた。


 それを聞いたテラはクスッと小さく笑い、手で必死に涙をぬぐった。


 しかし、涙をぬぐっても次々と涙が零れてしまう。しまいには、呼吸も荒くなっていった。


 テラにはそれでも、亮平に伝えなければならないことがある。謝らないといけないことがある。


 深呼吸で呼吸をととのえ、伝える。


「ごめん、ごめんね。私、なにもできなかった。独りでなにもできなかった。亮平が待っててくれるってわかっていたのに、私頑張れなかった」


 情報を集められなくてごめん。これがテラの心に大きなダメージを与え続けていた原因でもあった。


 それを聞いた亮平は、一度フリーズしてしまう。自分のことを考えてくれていたんだということにまず驚く。


 やっぱり、俺にはこいつがいねーとダメだわ。こいつなら信頼できる。


 地獄に飛ばされて、テラが一人で王国に行ってしまって、独りになってしまったとき。テラの存在が今のおれの支えになっていることに気がついた。


 俺は再び泣き始めてしまったテラの頭の上に軽く手をのせて、自分の思いを素直に話す。


「謝る必要なんてないじゃん。俺は知ってる。テラが無理してたこと。必死に頑張って、おれに心配をかけないようにしてたことも」


 テラはその言葉を聞くと安心したのか、その場に座り込んだ。俺もそれにあわせて中腰になる。


「でな、おれお前がいないときに気づいたんだ。おれにはテラが必要だってこと。テラがおれの心の支えなんだってこと。唯一の信頼できる仲間なんだってこと。だからな、俺はお前を失いたくない。ずっと側にいてほしいんだ!」


 最後の言葉は、洞窟内だけでなくテラの心のなかにも響き渡った。


 いっけん、告白のようにも聞こえてしまう台詞だが、前回もいった通り恋などという感情はいっさいない。


 

 


 




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