第十四戦 時間
あれからどれくらいたっただろう。テラが王国に行ってしまい、俺一人だけがこの洞窟の中にいるこの時が。
よく考えてみれば、テラと会ってからまだ間もないのにいろいろなことがあったよな。初めて会ったときは天使だと思った。勇者になれなかった俺を救ってくれる救世主だと。
だが、時間が経つにつれてその考えが間違えていたように思いはじめた。
おれはただ、勇者になりたいだけなんだ。なのに、テラは俺を魔王にすることしか頭にない。確かに、おれはテラに「なんにでもなってやる」とは言ったが結局のところ勇者以外にはあまりなりたくない。魔王になってやると言ったのはそもそも勇者になれるかもしれないと思ったからなのだから。
こんなこといくら考えても無駄だろうな。過去は過去、どんなに反省しても過去に変化はないことくらいわかってる。
それにしても、どうしたものか。テラが一人で王国に行ってくれている間はここから動くわけにはいかない。もし、ここでおれが自由勝手な行動をしてテラとはぐれでもしたら間違いなく死ぬ。今のおれにはあいつしか味方がいないのだからな。
しかしだ、テラが情報を集めてきたとしても問題は解決されない。おれがあの王国で指名手配されている時点で、外での行動はリスクを伴う。考えすぎかもしれないが、もしも王国が他の国にもおれが指名手配犯だという情報がながしていたとするならば、この世界におれの逃げ道がなくなる。
まぁ、ないとは思うがな。
「よいっしよ」
おれは地面に横になった。洞窟の中であるから地面は少し冷たく気持ちい。難点を言うならば、小石が背中に刺さるのが非常に気になる。
洞窟の天井は、鏡のように亮平を写していた。
そこに写る自分をみて、自然と笑みがこぼれてしまう。
「おれ、なんつー顔してんだよ。あいつならきっと大丈夫なんだから心配すんなよ」
昔からよく、感情が顔にでていると言われていた。そのため、写し出されたおれは心配そうな顔をしており今にでも泣き出してしまいそうな顔だった。どれだけ表面上では平常心をたもっていたつもりでも、心は嘘をつけないのか。
本当のところ、あいつがいなくなってからずっと心が締め付けられるように痛かった。その痛みの原因が、心配によるものなのか、恐怖によるものなのかはわからない。結局のところテラが近くにいればこういったことにはならないというわけだ。
今のおれの心をささえてくれているのは、テラなんだ。おれはテラに守ってもらってるばっかりで、なにもできない。それでも、おれはあいつを守りたいと思う。助けてやりたいと思う。この気持ちは恋とかそんなんじゃない、きっと『感謝』にちがいないんだ。
「ありがとな、テラ」
おれは胸に手をあて、王国に行ってくれているテラに感謝の気持ちを呟いた。きっと届きはしないだろうが、言わないと気がすまなかった。
感謝されるがわになれる日がくるといいな。
おれが強くなって、あいつを守れるようになるその日まで。
一方、王国では。
「す、すんごい! 広すぎでしょ!」
目をキラキラと輝かせ、王国内を見回すテラが王国の大きな門のまえにいた。
亮平と別れたあとどこにも寄り道することなく、まっすぐ王国へと進んだ。ここにつくまでにどれほど歩いたのだろう、両膝が悲鳴をあげてしまっている。
テラは両手を上にあげて、「つっかれたぁ!」と言いながら大きく伸びをしたあとすぐに目的である情報集めに取りかかった。
大きく息を吸い、大声とともに吐き出す。
「すみません! 地獄の宮殿ってどこにありますか!」
通りいく人々をつかまえ、情報を集めた。王国にいた人はとても優しくてわざわざ足を止めて話を聞いてくれるのだが、どの返答からも情報といえるものが得られなかった。
「知らないね」
「他の人なら知っているかもよ」
回答者のほとんどが、この二つの回答だった。
このままでは、なにも手にはいらない。洞窟ではきっと亮平がおびえながら待っているだろう。私が、情報を集めてきてくれると信じて。
だけど、やる気はあっても情報はまったく集まらない。時間だけが過ぎていき、辺りの建物の明かりが次々と消えていった。
太陽のないこの世界では、明かりによって朝と夜を判断している。そのため、明かりのないところはいつでも暗いのだ。いま亮平がずっと待ってくれている洞窟とか。
ひとによるが、暗闇のなかにずっといると精神的にダメージを受ける。昔には、ただ暗い一室に閉じ込めるという拷問もあったと聞くし。それらのこともあり、亮平が心配でならない。もしも、一人で泣いていたらどうしようとかと、考えてしまう。
一刻も早く、帰らないと。
テラは両頬をパチッと叩き、自分に気合いをいれさらに聞き込みを開始する。暗くなるとともに人は少なくなってしまうから、こうして聞き込みをできる時間も限られているというわけだ。
回りをキョロキョロしながら、情報をもってそうな人物を探す。まわりからみれば、迷子になった少女に見えても仕方ない。人がいなくなっていく。テラは焦りながらも必死に大声で問い続ける。
「すみません! すみません!」
しかし、先程のようには誰も聞いてくれない。気づけば一人になっていた。真っ暗な広場に独り。あんなに人がいたのに、いまではテラしかいない。
「そろそろ、帰らないとダメかな……」
亮平も待ってるし。明日頑張ろう。
テラは諦めて一度洞窟に帰ることにした。
またあの距離を歩かないといけないのかと考えるだけでため息がこぼれる。ほんとうに遠いんだよ。まじで。
愚痴をこぼしいても仕方ない。一歩ずつ重い足を前に進めた。歩きすぎて靴擦れをおこしたのだろうか、かかとがヒリヒリと痛む。
「もぉ、痛いよぉ……」
後ろを振り返るとまだ王国が見えた。つまり、まったく進めていなかったのだろう。いままでの疲労がテラに襲いかかる。肩が重くなり、腰には痛みがはしり、足は震え始めた。
ついに、テラは立っていられなくなった。力が抜けてその場に崩れるように座り込む。
「あーあ、ダメだな私は。亮平が待ってるんだから頑張ってよ……」
テラの頬に大粒の涙がつたう。
悔しい。情けない。
亮平が洞窟で待ってるはずなんだ。亮平もきっと独りで恐いと思ってる。
悔しくて、悔しくて。涙がとまらない。
「どうして? 動いてよぉ!」
テラの透き通っているようなきれいな声は、裏返ってしまい声とは言えないものになった。気持ちが無意識で声にでてしまう。きっとこのままでは、亮平に再会できない。
焦りと悔しさが、テラの精神を少しずつ壊していく。
亮平が待ってるのに!ずっと独りで待っててくれてるのに!
「ごめんなさい……亮平……せめてこれだけでも受け取って……」
テラは残り少ない力を振り絞り、震える手を高くあげた。すると、背中から紫の刀が一本出現したのだ。テラはその刀を確認すると、ある一点を指差した。
方向はこの先の洞窟。亮平のところに。
「おねがい」
その言葉を聞いた刀は、指差す方向へと飛んだ。視界からゆっくりと消えていく。刀を飛ばし終えたテラはその場で気を失ってしまった。
亮平が刀を持ってくれれば、一瞬で亮平のもとに帰れる。最初に刀を渡したときに、契約しておいたのだ。亮平が刀を持っているときに姿は見えないがずっと側にいるようにと。
ただ、亮平が洞窟にいないとこの刀は亮平のところに届かない。つまり、再会できなくなってしまうのだ。
刀が、私の願いが亮平に届きますように……




