第十三戦 反省
勇者になるはずだった。
だが、気づいたときには指名手配犯になってしまっている。
「そんなに、気にしないでくださいよぉ。今回はたまたま運が悪かっただけですって」
テラは小バカにしたような口調で俺に話しかけてくる。顔を見なくてもわかる、こいつ絶対に笑ってやがる。
「やかましいわ! 誰のせいでおれが指名手配されたんだと思ってんだよ」
俺は半泣きで、テラに怒鳴った。
確かにあのときにテラがいなかったら、おれは殺されていたのかもしれない。だが、ここまで大事になるとは考えてもいなかった。
まさか、死刑まではないよな……
「もし、魔王様が死刑になったとしても! 私は決して忘れません!」
いやいや、そんなこと言われて元気になるわけないじゃん。てか、お前のなかでは死刑確定なのかよ!
「で、これからどーするんだ?」
そんなに難しい質問をしたつもりはなかったのだけれど、テラは眉間にシワをよせじっと考え始めた。
真面目に考えているのかは、わからない。
「実は……とても言いにくいんですけど……」
な、なんだよ。嫌な予感しかしない。
いままで、この雰囲気になったときはだいたいよくないことが起きるまえぶれなのだ。
「もしかすると、地獄の宮殿までの道を間違ったかもしれないんです……」
おれを見たテラは顔が真っ青になり、冷や汗がとまらない様子だった。
殺気を放ちながら少しずつ上に上がっていく拳に気づいたのだろう。
テラは両手をバタバタさせ、おれの感情を必死におさえようとする。
「いやいやいや! 待ってください! お願いですから話を聞いてください!」
両手を合わせ必死に祈る姿は、本当に魔王の娘なのだろうかと思わせた。
そもそも、こいつに角とあの刀がなければただのガキなのだから。
「なんだよ? 言ってみろよ」
その問いを待ってましたと言わんばかりのリアクションをテラは見せてくる。
すぐに調子にのってしまうのも、こいつの悪いところのひとつだろうか。悪いところなど見つけようと思えばいくつでも見つかりそうなきがする。
「近くの王国で情報を集めます!」
「いや、却下だ」
なに考えているんだこいつは、おれに捕まってほしいのか!?
「なんでですか!」
逆にこっちが問いたいくらいだよ。なんで、おれが指名手配されてるのを知ってるくせに入国しようとするんだ、と。
「悪いけど、行くなら一人で行ってくれ。おれは誰かさんのせいで指名手配されてるらしいからな」
これほど、わかりやすく嫌みを言ったことはない。いくらこいつが相手でも少しは罪悪感があるのだ。
「……」
テラは黙ってただこちらを見続けている。
やはり、言い過ぎたかな。
助けてくれのは事実だし、感謝くらいはしないとな。
「すまん、やっぱり――」
亮平が、言い過ぎたと言おうとしたそのときだった。
話の途中でテラが乱入してきたのだ。
「そういえば、そんなこともありましたね。あー、これは大変なことになりますね。どうしましょ、王国で無罪を主張しますか?」
そんなこともありましたね、だと。頼む、忘れないで。大切なことなんだから。
テラは、おれのことはまったく気にしていなかったようで。自分の提示した案が実行不可能だということに気づいた。
ふたたび、テラは悩んでいた。
もうこいつの案は役に立たない。だったら、おれがひとつ提案するとしようか。
「とりあえず、指名手配はどうにかしたいよな。王国には確かに情報がありふれてるだろうから、その手段だけは失いたくない」
解決策としては、テラ一人で王国に行かせて情報を集める。おれは王国にさえ入らなければ問題ないのだから。
しかし、この案をテラに言ったらだいたいの返事がよめる。
「え、私一人でですか?」とか、「私女の子ですよ?」とか面倒くさい返答が帰ってくるのだろう。
だが、一応この方法も考えておいてはほしいからな。言うだけ言っておくとしようか。
「で、王国で情報を集める方法なんだけど。やっぱり、テラが一人で行って情報を集めてきてほしいんだ」
テラは両手をパチッと合わせた。
「その手がありましたか!」
…………え?
嘘だろ、まさかこの方法を考えなかったというのか?
この返答には意表をつかれてしまい、少し我を忘れて呆然としてしまった。
「ですが、一人で大丈夫ですか?」
「どういうことだ?」
「私がいなくても大丈夫か、という話です。私がいないときに王国からの兵士があなたを捕らえたりする可能性はないとは言えませんから」
たまにこいつが恐い。
わずかな確率だが、このように正論を言ってくる。
「それは、まかせとけ。隠れるのは得意だからな!」
まだおれが冒険者だったころは、よく隠れてたもんだ。
隠れてた理由は言えないけども、内容はとてもずる賢いものだ。
「では、いい情報をもってきますね」
「ああ、頼んだ」
テラはそう告げたあと、王国に向かって歩いていった。
おれはテラを信じて大丈夫なのだろうか。とても心配だ。
自分の子供にはじめて、おつかいを頼む親というのはこういった気持ちなのだろうか。
「無事に帰ってきてくれよ」
おれは、テラの背中を見ながら小さく呟いた。




