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厨二病棟の夜  作者: 東京 澪音
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知を司る者

マーリンと205号室に戻ると、ファウストとちょうど入口で鉢合わせた。

「やぁ、お疲れ。大体この病棟内の事は理解できたかい?」


ニコッと笑って話しかけてくる。


「あぁ。だが途中で冴木某って女と遭遇したうえ、頼みもしないのに同行を余儀なくされたのは少々不快だった。しかしマーリンがいてくれたおかげで、色々と助かった。こちらの質問に対して細かく解りやすく説明してくれる。物腰も柔らかく、まるで春の風のような耳に心地いその声に、我の荒ぶる心も少し晴れたわ。ファウスト、彼女はとても優秀だな。君達姉弟に感謝する。マーリン・ファウストありがとう。」


我の言葉に少し驚いた顔をしたのはマーリンだった。


「羅刹さんは意外と紳士なんですね。名は体を表すと言いますが、もっと魑魅魍魎な荒ぶった方かと思いましたが、意外や意外ビックリです。」


ファウストもどうやら同じ見解だったらしい。


「確かに。それには僕も驚いたよ。君は人に頭を下げれるんだね。話の通じない鬼って訳じゃなさそうで安心したよ。」


二人はニコニコと笑ってこちらを見る。


「失礼な。確かに我は悪鬼。だが訳もなく災害や人を喰らう訳ではない。仮初めのこの姿で、仮初めのこの世界を生きる為、それなりの常識と処世術は身につけている。まぁ、我は紳士故、細かい事にいちいち腹を立てたり、訳もなく亡びをもたらす事はないから安心するがよい。」


そんな会話のやり取りを交えつつ、その他この施設内の細かい事を説明してくれる。

食事は夕方18時からで、風呂は17時から21時まで使えるらしい。消灯は一応22時半という事になっているらしいが、騒がなければある程度は目を瞑ってくれるらしい。


それもそうか。

今の時代、22時半じゃ小学生だってまだ起きている時間だからな。


「そうそう、兄さん。ちょっと気になる事があって。3階の301号室に一人幽閉されてる女の子がいるの知ってる?璃々須さんって言って、少し変わっていて独特な雰囲気な子なんだけど、その子が少し気になる事を話していてね。」


そう切り出したのはマーリンだった。


「3階か。その階には行った事がないけど、璃々須って子には一度だけ会った事があるよ。ひと月位前に一階のカウンセリング室の前で。同一人物かは分からないけど、確か・・・私の住む世界が滅びに瀕しているとかなんとか言っていたな。一方的にそれだけ言い放つと、それ以上は何も話さない。後は自分を夜を司る者とも言ってたな~彼女。」


間違いなく我が会った者と同一人物だ。


「おそらく同一人物の様だな。確か、知を司る者・未来を見る力を持つ者・魔の言霊を操りし者・全てを切り裂く力を持つ者、そしてその者達を統べる者を探しているとか。自分の住む世界が滅びに瀕していて、この世界に救いを求めやってきたとか言っていたから間違いないだろう。だがこの話にはもう少し続きがある。」


我の話に興味を示したのか、近くにいた賢者にして哲学者のタレスが耳を傾けている様子だった。


「その問いに我は質問した。願いに対する対価は?と。滅びに瀕した世界を救うのにタダって訳にはいかないであろう?幾ら我が悪鬼でも危険と隣り合わせな訳だ、まして我は善人でもない。対価を要求して当たり前であろう。するとリリスは答えた。望みのままにと。それ以上は何も喋らなかったが、その答えに我は興味が湧いた。もう一度会って話をしてみたいと思うのだが・・・ファウスト、キミ達はどうする?」


205号室の住人達を見渡すと、タレスと目が合う。


「羅刹、アンタは何が望みなんだい?是非それを聞かせてもらいたいね。」


初めてタレスが口を開いた。

賢者にして哲学者がどんな答えを我に望むのか?そんな事には興味はないが、我は思った事を口にする。


「この支配からの、卒業。」


我の答えにタレスが急に笑い出した。


「あっはっはっは!アンタの口からどんなドス黒い望みが出てくるものかと、少しばかり興味があったんだけどさ。まさかそんな答えが返ってくるとはね。ソイツはウチら親の世代じゃないと理解出来ないギャグだぞ。しかし羅刹、アンタ意外と古いね!」


腹を抱えて笑うタレス。


「この世界での我の親父の十八番オハコだ。」


理解出来たのは我とタレスだけで、ファウストとマーリンはキョトンとした顔で我らを見ている。

兼光は興味がないらしい。


「つまりアンタはこの施設からの解放。自由が欲しい訳だ。それについてはこの部屋の連中、皆同じ意見だろう。兼光、アンタもだろ?もしもそのリリスって子の話が全て本当で、望みを叶えてくれるって言うんなら、その話私も一枚噛んでもいい。その辺を確かめる為にも、一度5人で301号室に顔を出してみないか?」


タレスの提案に、兼光が割って入る。


「何故5人で行く必要がある?興味がある奴等だけで行けばいい。それにそんな胡散臭い話、簡単には信用できないであろう?」


それが兼光の答えだった。


「だからその真意を確かめる為に会いに行くんだろう?それと今の羅刹の話を聞いてアンタは気付かなかったのか?羅刹は言った筈だ。知を司る者・未来を見る力を持つ者・魔の言霊を操りし者・全てを切り裂く力を持つ者、そしてその者達を統べる者をリリスは探していると。つまりこの205号室にはその全ての者が揃ってるんだよ。そしておそらくこれは偶然なんかじゃない。私らを連れて来たあの女、運び屋も一枚噛んでんだろうな。全ては必然だろうってのが私の見解だ。そしてもう一つ。彼女は夜を司る者、そう名乗っている。尋ねるのは昼じゃなく夜が正解だ。」


運び屋とはおそらくチェイサーの事だろうな。

しかし今の話だけでここまで推測したのには些か驚いた。流石は賢者タレスと言ったところか。


「タレス、確かにアンタの見解は凄い。流石は賢者だ。だがそれはあくまでもアンタの推測であって真実じゃない!真実ってヤツは誰かに諭されて渋々了承するもんじゃない。そのリリスって奴の話が嘘か真か。この心眼で見抜いてやる!」


兼光のその言葉にニコリと笑うタレス。

恐らく、ここまで計算済みだったんであろう。正に知を司る者。


「では、今夜決行って事でどうでしょうか?ちなみに職員の定期巡回時間は1時半~4時頃までがかなり手薄になります。ここを狙う他ありません。」


マーリンが決行について、時間帯を提案する。

どうやらファウストもマーリンもリリスに会う事に賛成らしい。


決行時間。これについて、誰からも反対意見が出なかったので、思い立ったが吉日って事で今夜リリスに会いに行く事にした。


我らはその時を待った。

息をひそめて、その時を。







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