↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造世界  作者: looloohuu
地中に活
20/28

第二十話


 「今日は豪華だな」

 「ガハハハハハハ!なんせ家族が増えたからな!」


 記憶など無かったように、二人は笑い合っている。先ほどまでの光景が嘘だったかのように、住人が笑っていた。

 包帯で顔を隠しているものの、時折血反吐を吐くのはやめて貰いたい。見ていて心配になるが、それを言うべき空気ではないことは百も承知だ。

 ガランは掌を合わせる。

 すると、住人の皆もそれに合わせて掌を合わせる。倣って従うと、少しの静寂の後、ガランが叫ぶ。


 「頂きます!!」

 「「「頂きます!」」」


 挨拶の後、ガランは一目散に肉に齧り付く。鉄皿の上の大きな奇形動物の肉を各々がナイフで切って、口に入れる。わざとらしく頬に手を乗せはふはふと言っている女を、ガランは楽しそうに見つめている。

 ばくばくと食べ始めた住人を見て、ナキも控えめに、手前の生野菜を口に入れた。汁物も、肉も、全てが美味しかった。

 言いようのない違和感を感じながら食べ続けていく。その内会話が流れ始めて、家族と言っても差し支えないだろう空気が流れ込む。ただそれは、偽物だ。空元気な空気が、ナキの胃を縮めていた。


  ◯


 ナキの家で、四人が長椅子やら寝椅子やら寝台やらに座り込んでいる。

 あれから、二回の鐘が鳴った。朝昼夜かは分からないが、頭布の少年の言う通り、ここでは一日三回の鐘が鳴るらしい。その度に広場の中心で、食事をしなければならない。二回目の鐘が鳴った時点で、ナキは鬱屈とした気持ちを抱えながら、ガランの食卓に赴いていた。

 

 「やばいぞ、あれ」

 「やばいというか、怖い...」

 「うん。狂気だね」


 一回目以外の食卓も、豪勢では無かったが、同じようなものだった。ガランを中心に、少年とレディが聞き手。間にキノの茶々が入り、住人が頷いたり、笑ったりする。すこぶる異様だ。キノは顔中包帯まみれで食べるのにも苦労していそうだったのに、和気藹々とガランと話していた。


 「ここ、避難場所じゃないのか?」

 「避難場所?」


 ぽかんとしているセディアに一瞬危機感を覚えたが、得心がいったように笑顔になった。


 「あ、シェルターのことね。いや、私たちもさ...」

 「?」

 「あんまよく分かんないんだよね」


 頭をかきながら、ちょっとした申し訳なさを感じる口調で言った。

 

 「...え?」

 「というのもあのカード。一千年前のものなんだって」

 「..分かんないってことか?」

 

 セディアの顔がキョウに向けば、キョウは慌てたように話し出す。


 「え、ええっと..このカードをガランの跡地、三角大岩の麓に入れなさい。そうすればシェルターが開く」

 「ネリアさんが貴族なんだ。その弟がキョウさん。ネリアさんはカードを持って、私達を逃がしてくれた」


 言葉足らずなキョウの代わりに、ルフリアが説明してくれる。

 ネリアさんというのが巨騎士。そのネリアさんがカードを持って、守護神ではなく化体になって、カイルから大勢を逃したのだ。あの巨騎士は今も家の近くにいる。

 巨騎士もといネリアのお陰で、ナキは今生きれているのだ。


 「中身は異様な光景だったがな」

 「そうなんだよねぇ」


 そうなのだ。今、生きれているのは有り難い。腹も膨れたし、爆睡も出来た。が、永住などもっての外だ。ガランの提案には乗れないし、あの住民達も、なんだか見過ごせない。


 「とはいえここは大蛇の中だ」

 「あの二人を怒らせちゃったらどうなるか分かんないし」


 確かに、ガランの拳の威力を見た後だと、脱出など出来る訳もない。脱出したとしても外は危険で、どちらにしても、ナキ達はここにいるしかないのだ。


 「その、ネリアさんは、どうなんだ?同じ化体なんだから、互角だと思うんだけど..」

 「外にいたらねぇ。ここは中だから、あの子の言った通り確実に負けちゃうね。何回串刺しにされるか分かんないよ」

 

 にへらと笑うセディアに、緊張感は一欠片も感じられない。では、どうやってこの状況を打開するのか。


 「それと、あのガランとかいう裸男。あいつ、凄く強い」


 ルフリアが言い切った。彼女が言うのなら、相当強いのだろう。ナキから見ても、ガランはとてつもなく強い。あの威力は、どう足掻いても死ぬ。キノが生きているのが本当に不思議だった。

 それが無くとも、まだ未熟なナキでさえ、素人でさえ分かる程の威圧感が、ガランにはあった。それこそ化体のような重圧が、体の節々から漏れ出ているかのようだったのだ。

 

 「今の私達の戦力じゃ、ここを手籠にするのは無理だ」

 「しばらくは、大人しく従った方が身のためだね」

 「遅刻するなよ」

 「私はイトさんが一番心配だ」


 避難場所と思っていた所は、操り手が独裁する方舟だった。一先ずの前途多難は終わったと思っていたが、まだまだ先になりそうだ。


 「それと、あの糸目野郎のことだけど」


 糸目野郎というのは、ガランの方舟に落ちる前、地上でライギルドと共にいた想起士のことだ。あのまま戦闘が続いていたら生きていたのかも怪しいが、信じられないことに、糸目想起士はナキ達を見逃した。

 何か考えが無ければ、そんなことはしない筈だ。


 「絶対なんか企んでる..」

 「ナキちゃんはなにか知らない?ロジバルト出身として、何か情報があれば」


 確かにナキはロジバルト出身ではあるが、何も分からないと言った方が合っていると思う。住んでいたのは事実だが、住んでいただけだ。何の疑問もなく、自分の国を崇拝していた。


 「...分からないけど、想起士が俺達をみすみす見逃すなんてのは、あり得ないことだと思う」

 「ふむふむ、なんで?」

 「...俺達は、外の人間を全員、悪魔と見做しているから」

 「悪魔?」

 「少なくとも俺は、こんなことになるまで、外の人間を、その..」

「?」

 

 セディアは何も気にしていなさそうだ。他の三人に話すのは、どうにも緊張する。特にイトには。

 こんなこと、面と向かって話すのは、相当な胆力がいる。


 「躊躇ってないで、早くしろ」


 だが、言わないといけない。ここまで話してしまったのなら、言うべきだ。


 「...人間じゃないと、思っていたんだ」


 言ってしまった。罪悪感が身体を支配する。金縛りにあったように固まってしまった。


 「そんなことは聞いていない。馬鹿なのかお前は」


 イトの割り切った悪口に、ぽかんと口を開けてしまう。他の面々も、いつも通りの表情だ。


 「ごめんね。ロジバルトのことは、大体知ってるんだ」

 「え?」

 「歴史の授業で習うんだよ。ロジバルトって国は最低最悪の洗脳大国だってな」

 「...!」

 

 洗脳大国。その言葉を聞いて、怒りが湧いた。感情の動きが分かりやすく、恐らく全員に伝わったのだろう。ぴりぴりとした空気が、肌に纏わりつく。


 「...ごめん。思い当たらない」

 「そっかぁ」

 

 拳を握り締める。洗脳なんかではない。認めない。認めたくない。それであったら、ナキは一体何の為に生きてきたんだ。


ーー「この悪魔がぁ!!」ーー


 友達に言われた言葉を思い出す。同時に、ロジバルトの仲間達が想起した。

 腰に付けた仮面を、少し触る。この感覚が、切なく、安心する。

 こんな所でぐずぐずなんかしてられない。

 ナキは、知らねばならぬのだ。

 気持ちを拭って、考える。糸目の想起士がナキ達を見逃した理由を。必ず殺せる算段があるはずだ。だから見逃した。その算段は、皆目見当もつかない。ロジバルトにいたとはいえ、ナキとて分からないことの方が多い。

 だから、別の方向で考える。糸目想起士がここでナキ達を見逃した理由は恐らく、大蛇だ。何をしようとしているのか確認した結果、地中から大蛇が出てきた。大蛇に飲み込まれたナキ達を見て、糸目想起士は何を思ったのか。

 ナキは首を振る。いくら考えても分からないなら、ここを出る為に考えることだ。


 「ここを出たら、どこへ向かうつもりだ?」


 自然と口を突いて出てしまった言葉は、しかし不思議に思うところだった。地上に出た所で、行く所は限られている。

 

 「龍人の森」


 ルフリアが答えた言葉は、やはりそうだった。ナキが放浪していた時に考えた逃げどころ。

 龍人の里と呼ばれる、龍人が住む森の要塞だ。

 ロジバルトと龍人は、遥か昔争っていた。お互いに犠牲しか出さなかった両陣は、互いに不干渉を結んだ。それが今の大陸だ。大陸な殆どはロジバルトが、北の巨大な山脈からは龍人が持つこととされた。

 その龍人のところに行けば、可能性はあると思っていた。ナキだけでは無謀だったが、ルフリア達がいれば。


 「私達には行き場がない。ロジバルトは駄目だ。問答無用で殺される。なら、行き先はそこしかない」


 ルフリアの目の奥がゆらゆらと燃えている。初めて、銀髪の少女の本音が聞けた気がした。

 龍人の里へ行ってしまえば、ロジバルトであるナキは危うい立場になるだろう。

 そして、味方なのかどうか危ぶまれる。

 それでもナキは、ついていきたいと思った。何があっても、自分に何が起こったのか知りたい。それと同時に、この人達についても、龍人についても、知らなければいけない気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。