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創造世界  作者: looloohuu
出逢い
11/32

第十一話

 「え」

 「....ナキさん!?」


 歓声が絶え間ない中、どすっと、何か重たい音がした。ニャニャッチがいち早く気付くが、それももう遅かった。

 

 「リリー」


 リリーが、投げられた槍に貫かれていた。槍はぐわんぐわんと揺れていて、それが投擲に向いた武器だと分かる。

 リリーはそのまま地上に落ちていく。そのまま、ナキとガッチも落ちていく。


 「ガアアアアアア‼︎」


 悪魔の声が、戦場に轟いた。その声にはっと目が覚めて、瞬時に立ち上がる。周囲は、戦場だ。


 「ガッチ、立てるか」

 「ああ...」

 

 戦場と言っても、何故か巨騎士は居なくなっている。この目で拝むことはなかったが、側神レイラに恐れをなしたのだろうか。

 空色の怪物がいなくなったことで、悪魔達の士気は地に落ちた。巨騎士もいなくなり、少なくともナキ達は、悪魔達に勝利するだろう。


 「やるぞ。一匹でも多く殺せ」

 「...了解」


 頷きながらも、背後に横たわるリリーを見遣る。血が土に染み付いているが、咄嗟に身を捩ったのか、致命傷には至っていない。

 それでも、すぐに治療しなければーーー。


 「くそ...たれ....」


 声がした。


 「!」


 触れられたナキの右足に、悪魔が、掴んでいた。その悪魔は血塗れで、両脚が切り捨てられている。肌は切れ爛れ、土に黒く染まっていた。

 その姿に、悍ましい程の悪寒がナキを襲う。

 

 「ああああああ!!」

 

 携帯していた剣を腰から抜き、必死に悪魔を滅多刺す。創造出来る程の余裕さえ、今のナキには無い。恐怖が脳を支配していた。


 「ナキ!...くそ、次が来るぞ」


 ガッチの声がして、前を見る。悪魔が、何かを叫びながら突進してくるではないか。巨騎士の登場で、ここは混戦になっている。だが、もう巨騎士はいないし、悪魔達の士気も下がっているのではないか。それに、あの悪魔の背中には剣が刺さっていた。手負いだ。二人もいれば、簡単に殺せる。

 

 「ガアアアああああ!!」

 「ひ...!」


 悪魔の叫びの後に、人間の声が聞こえる。おかげで、土を踏み損ねてしまった。その間に悪魔は何かを振り上げて、ナキの頭部めがけて振り下ろす。

 剣ではない、鈍い音がした。

 ガン、ガン、ガン、ガン

 ナキはそれを受け止める。悪魔の振り下ろす物が何かも分からない。ただ受け止めることしか出来なかった。

 

 「何をやって...いる!」


 側面から、悪魔に槍が繰り出される。ガッチの創造した槍は、青く、澄んでいる。その槍の切れ味は、一流の鍛治師が造る槍にも劣らないだろう。


 「ギアアアア‼︎」


 すると、悪魔は突然方向転換して、ガッチの槍を掻い潜り、我武者羅に何かーー石を振り上げた。

 手負いだ。あと一撃下せればこの悪魔は動かないのに、心が乱されている。そもそも、ここに落ちた時からーーいや、もっと前、ガッチが落ちた時、ニャニャッチに止められた時に感じた気持ちの悪い感触が、胸のどこかにひしめいていた。

 

 「くっ...!」


 ガッチは槍を横にして、悪魔の攻撃を受け止めている。

 その槍の柄から悪魔に向かって、槍が伸びた。悪魔の脳を突くつもりなのだろう。瀕死の悪魔はそれも見越して、伸びてくる槍を寸でで避けた。返しに今度はガッチを押し倒す。


 「この、野郎!」


 悪魔はそのまま強引に馬乗りになると、石を持って、振り下ろした。


 「ガあァあァあァァ....くっそがああぁぁ...!!」


 間一髪、ナキが悪魔の肩口を切ると、悪魔は身を捩り地面を這いずり回った。いつもより切れ味のない剣で切った為か、傷が少し浅い。それでも十分な傷だったのか、そのまま、悪魔の動きは止まった。


 「....駄目だ」


 切った肉の感触が、今もこの手に蘇る。吹き出した血の色も、鮮明に。


 「そんな訳無いだろ」


 血は、赤色だった。当たり前だ。悪魔は人間の振りをする醜悪な化け物の筈だ。その筈なんだ。喋ることは出来ないし、その筈なんだ。

 その、筈なんだ。

 しかし。

 ナキがこの手で殺した悪魔は、この目にはどうしても、それにしか見えなかったのだ。


 「悪魔は、人間だ」


 王律法の、最初の一節。

 

 ・王は、我々ロジバルトの民の象徴であり、絶対的に正しい。

 

 「ナキ...お前」


ーー王律法は、王や貴族が定めた法であり、これに従わないと、ナキ達は悪魔となり、自死を決断してしまうーー


 ガッチが、焦りを孕んだ声音で、ナキを呼ぶ。それでもナキは、ただ一点を見つめていた。今さっきナキが殺した、悪魔ーー人間を。


 「悪魔は、人間だったんだ。俺たちは、間違ってーー「この悪魔がぁ!!」

 「っ!!」

 

 横から怒号が押し寄せて来たと思うと、青い槍が、ナキに突き出されていた。訳も分からず反射的に避けると、脳天に突かれた槍は、ナキの左肩を貫いた。


 「ああああ!!」

 

 身体の内側に異物が入る。痛みが身体中に充満する。この状況とこの痛みに、何をどうすればいいか、何がどうなっているのか、何も分からなくなっていた。


 「ヒヒーーーーン‼︎」


 背後から、天馬の声がした。その数秒後、蹄の蹴る音がナキの耳元に近づいた頃、背中に衝撃が加わった。

 衝撃、といったって、柔らかい衝撃だ。左肩が多少傷んだが、それもその程度。衝撃がした途端、くるっと世界が九十度、反転した。


 「ーーーはぁっ..!」


 瞬間、黄昏の夕日が一面に流れていた。

 リリーが助けてくれた。そう思ったと同時に視界が鈍くなる。夕日がまるで空の怪物のようにぐわんぐわんと蠢いていて、怪物が再来したのかと、他人事のように思った。しかしそれは当然怪物ではない。景色はどんどんどんどん狭まっていき、やがて、視界が暗闇に埋め尽くされた。


 ◯


 天馬に乗りながら、二人の見習いは戦場を見据えている。焦りと恐怖の滲んだ顔で、目下の戦場を見据えている。

 そこには、ガッチに槍で肩を貫かれている、ナキの姿があった。


 「悪魔は、人間だったんだ。俺たちは、間違ってーー「この悪魔がぁ!!」


 ガッチの叫ぶ言葉の意味に、ニャニャッチとカドレアは、暫く閉口した。

 

 「嘘だ。ナキが、悪魔だって」


 いつもは豪快なカドレアも、慎重に言葉を操って、現状を確認した。ニャニャッチも、その言葉を反芻して、理解する。

 腑が煮え繰り返りそうな心地だった。

 

 「逃げました」


 平坂な口調で、ニャニャッチはナキの動向を凝視している。その目はどこか、暗澹としていた。

 槍で貫かれたナキの背後から、一匹の天馬が突進してくる。確か、ナキがリリーと名付けた、気怠そうな天馬だ。

 その天馬は突進する勢いで、蹄を蹴る。ナキと直面したと思うと、天馬は頭をナキの背中に押しつけて、器用に上に飛ばした。即座に翼をはためかせ、上に飛んだナキを背中にがっしりと乗せる。空中に飛んで、どんどんと戦場から、ロジバルトから離れていった。

 二人は、そこから一歩も動けずにいた。仲間が悪魔だと知った時、こんなにも心が空っぽになるのかと思い知った。屈辱感と、無力感。どの感情でも現しようもない、ただ空虚な景色が、目の前に広がっていた。

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