第16話「裏切りと奇襲」
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大人の階段を登ったゴールデンウィークも終わり、魔法師育成学園では中間試験を目前に控えていた。
中間試験では主要五科目に加えて魔法の実技試験も行われるため、俺は放課後の時間などを使って魔法の訓練に励んでいた。
その日の放課後も、俺こと黒霧優人はマジョリティブラックに変身して屋内訓練施設でマリ達と魔法の訓練をしていると、戦乙女科に所属する少女、蒼柳恋歌がやって来た。
「おー!ブラックはん、なかなか魔法上手くなっとるやん!ゴールデンウィーク前とは見違えたでー?」
「おー!レンカ!久し振りやん!」
「レンカちゃん!もう風邪大丈夫とー?」
レンカとはゴールデンウィークの初日に会って以来実に二週間ぶりくらいの再会となるのだが、彼女はゴールデンウィークの終わり頃に厄介な風邪をひいてしまったらしく、学校が再開してからもしばらく休んでいた。
「うん、おかげさんでな。今日の昼頃にようやくまともに歩けるようになってなー、ほんでリハビリがてら散歩のついでに、皆の顔を見たなってなー」
「いや、オレらの顔見るだけなら寮で待っときゃいいのに、あんま無茶すんなよ?」
「そうだよ、病み上がりで無理してまた風邪ぶり返したらどうすんのさ?」
俺の幼馴染であり同じ魔法少女クラスに所属する赤城結都と青羽フレンダも、レンカの長引いている風邪のことを心配していたため、その表情は少し安堵しているように見えた。
「あはは、心配あらへんて!この通りピンピンしとるさかい!」
「ならいいけどさ」
「にしても、レンカちゃんとシイナ先輩が同じタイミングで同じような風邪をひくなんてねー」
と俺の妹であり、魔砲少女クラス所属の黒霧摩智がそう言った。
そう、マチの言う通り、魔法少女クラスの二年生の先輩、海原詩奈先輩もまたゴールデンウィークの終わりに風邪をひいたらしく、一昨日まで休んでいたのだ。
幸い、シイナ先輩の方は昨日から復帰して登校してきていたが、レンカの方は今日まで学校を休んでいた。
「ああ、それは多分アレや!ゴールデンウィーク中、ウチとシイナ姉ちゃんでずっと一緒におったからなー、それで互いにどっかで変なウィルスひっかけてきたってところやろなー!」
「え!?二人一緒やったと!?」
「それにシイナ姉ちゃんって、二人はどういう関係だよ!?」
俺の幼馴染であり戦乙女科の緋崎郁凪と、魔砲少女クラスの紅垣悠貴のその質問に、レンカは「あら?話しとらんかったっけ?」と大袈裟に首を傾げるとこう続けた。
「ウチとシイナ姉ちゃんは幼馴染やったんよ。ただ、何年かぶりの再会やったから、最初の内はお互いにぎこちなかったけど、ゴールデンウィーク期間中にすっかり距離が縮まってな、まぁ、元の木阿弥ちゅーか、そんな感じや」
「元の木阿弥って…、それだと逆の意味にならない?」
「元の鞘に収まる、が正しい言い方じゃないかな?」
魔砲少女クラスの焔優依と、戦乙女科の白波麻里亜のツッコミに、レンカは豪快に笑いながら答える。
「なははは!そーとも言うってな!まぁ、ともかくそんなわけで、ゴールデンウィーク中はマサトはんと仲良う出来んで申し訳なかったな?でも、その分、他の皆とはナカよーしたったんやろ?」
「うぐ…っ!?」
と、ニヤニヤした表情でこちらの反応を伺ってくるレンカに、俺が何も言えずにいると、レンカがさらに追撃してくる。
「ほいで?今夜は誰がマサトはんの部屋にお呼ばれしとるん?」
「な…っ!?んなこと、」
「今夜は私とマリアちゃんの番だよ♪」
「「マリ」ちゃんっ!?」
どうにか誤魔化そうと思っていた矢先に、マリが今夜俺の部屋を訪ねてくることを堂々と明かしたのだ。
ゴールデンウィークが明けて以降、寮に戻って来た俺達は夜の行為についてのルールを決めた。
それは二人から三人組に分かれて、日替わりで行為に及ぶというもの。
組み合わせや順番に関しては、くじ引きやジャンケンなどで毎週変えることで皆が平等になるようにするとのことで、今夜はマリとマリアが当番、ということになっていた。
ちなみにその辺りのローテーション管理に俺は一切関わっていない。
「もう!マリちゃん、何でバラすとー!?」
マリアが珍しく顔を赤くしながら大きな声をあげた。
思わず方言が出てしまっていることから、かなり気が動転していることが伺えた。
しかし当の怒られているマリは、飄々とした様子で言葉を返す。
「えー?別に隠す必要なかろーもん?レンカちゃんだって一応はマサト君のハーレム候補の一人なんやし」
マリの言う通り、レンカも俺のハーレムに入りたいと言ってくれている女子の一人ではあるし、俺達はもう成人扱いされる歳なのだから今更恥ずかしがることでないのはその通りだが…
「なはは!ホンマ羨ましい限りのモテモテっぷりやな〜、マサトはんは!まぁ何や、ウチも近い内にマサトはんにお世話なる予定やし、どーいうローテーションなんか確認しときたくってな!」
「そーいうことならあたしも確認しておきたいですっ!!あたしもマサトさんのハーレム希望の一人ですからっ!!」
今ここにいるメンバーの中では、まだユイとレンカ(と妹のマチ)だけは俺と一線を越えていない。
だがそれは、これまでタイミングが合わなかったというだけで、俺のハーレム入りを諦めたわけではない。
だから、そういう話になったタイミングでユイがここぞとばかりに俺との繋がりを求めてきたのだ。
正直、俺としてはユイもレンカも素敵な女性だし、見た目の特徴としても実に俺好みなグラマラスな体型をしているので断る理由は無く、俺の恋人達からも反対意見はでていない。
しかし、いざとなるとやはり躊躇してしまう。
「あー…、えっと、それは〜…、」
「はいはい、そういうことならお兄ちゃんのマネージャーである私にお任せを♪」
俺が戸惑っていると、マチが間に入ってきてくれた。
「お兄ちゃん達の夜のスケジュール管理は私がしとるけん、お兄ちゃんとエッチしたいなら私を通してね。勿論、初エッチのシチュエーションとかご希望があれば出来るだけ沿うようにスケジュール組むよ?」
いつの間にマチがそんな役目を担っていたのかとツッコミたくなったが、マリ達の様子を見ると特に何とも言っていなかったので、どうやら俺の知らないところで本当にそういう管理をしているらしい…
「分かりました!!じゃあ、あたしは………、」
「そーいうことならウチは………、」
と、俺をそっちのけでマチ達が話し合いを始める様子を、俺はただ遠目で眺めることしか出来なかった。
「ま、マサト君はこの世界では貴重な男子の魔法師ならぬ魔法少女やけんね、これからも大変やと思うよ〜?」
「が、頑張ってね、マサト君!」
マリとマリアが他人事のようにそう言って俺を励ましてくれるが、果たして俺の体力は持つのか…
およそ二ヶ月前の俺に言っても信じてくれないような今の俺の現状に一抹の不安を抱きつつも、男子として一度は夢に見る美少女ハーレムな将来に少しのワクワク感もあるのだった。
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マサトの放課後魔法練習の場にレンカが顔を見せたその日の深夜。
自室で寝間着に着替えたマチがベッドに横になって小説を読んでいた。
読んでいるのは最近流行りのライトノベルで、前世で悪役令嬢だったヒロインがスライムに転生して、勇者候補だったが落ちこぼれの劣等生扱いを受けていたイケメン騎士の使い魔となって世界を救うという王道ラブコメファンタジー作品だ。
「ふぁ〜…、そろそろ寝ようかな…?」
半分くらいまで読み終えたところで、マチは栞を間に挟んで本を閉じ、ベッド脇のサイドテーブルに本を置いて眼鏡を外そうとしたところで客の来訪を告げるインターフォンが鳴った。
「あれ?こんな時間に誰やろ…?お兄ちゃん…、は今頃マリちゃん達とよろしくやってる頃やろうし…」
魔法師育成学園の寮は防音がしっかりとしているため、各部屋にインターフォンが取り付けられており、他人の部屋を訪問する際には部屋のインターフォンを鳴らす必要があるのだ。
「誰かと約束はしとらんかったよね…?」
マチは深夜遅くのアポ無し訪問に疑問を抱きつつも、寮のセキュリティ的に不審者はおろか、男子生徒や他学年の女子生徒の可能性が訪ねてくる可能性もほとんど無く、同じ一年生女子の誰かだろうと思いながら扉を開けると、そこにはレンカがいた。
「レンカちゃん?」
「やぁやぁマチはん、こんな夜遅くにえろうすんまへんな〜」
相変わらず微妙な大阪弁っぽい口調で話すレンカに、マチは特に怪しむ素振りも見せずに話を続ける。
「それはいいっちゃけど、急にどしたん?何か急用?」
「実はそーなんよ!急ぎマチはん、というよりマサトはん達に確認したいことがあってなー!せやけど、今は三人でよろしゅうヤってる最中やろ?そんなとこにまだハーレムメンバーやないウチが顔出すのもいかがなもんかと思ってな、そいでマチはんに仲介してもらおう思ってん」
「ん〜…、そう言われても私だって三人の邪魔はしたくないし、とりあえずメッセだけ送っといて明日の朝にでも…、」
「いや、今日やないと駄目なんよ」
不意に、それまで陽気な雰囲気を纏っていたレンカの表情が変わり、同時に180度人が変わったかのような不気味な雰囲気を纏わさるレンカ。
「え…?レンカ……、ちゃん…?」
そのレンカの豹変ぶりに思わず一歩後退るマチだったが、その時にはもうすでに遅かった。
「ウチと、一緒に来てくれるよね、マチはん?」
「…うん、分かったよレンカちゃん」
マチはぼうっとしたような表情のまま、レンカと共にマサトの部屋へと向かうのだった。
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マサトの部屋の寝室のベッドに、一糸纏わぬ姿のマリとマリアが左右からマサトに抱きつくようにして横になっていた。
ちょうどそういう行為が終わったところらしく、一戦、いや何戦も戦い抜いたマサトの呼吸はかなり乱れていた。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…」
「ふふ♥ゴールデンウィークの特訓のおかげか、マサト君ずいぶん逞しくなったね♥」
「うんうん、さすがマサト君だね♥」
一方のマリとマリアは、息こそ乱れてはいないが、ゴールデンウィーク以前までの生殺しのような状態だった時と比べて、思う存分にマサトに甘えられて、性欲をぶつけられることから、大変に満足した表情を浮かべていた。
「はぁ…、はぁ…、まぁ、皆を恋人にするって決めた以上は、皆に満足して貰わんといけんしな…!もっともっと頑張らんとな」
「おっと、その感じやとまだまだ行けそうな感じ?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるマリに、マサトは焦った表情でこう答える。
「い、いや〜…、さ、さすがに今夜はもう…、ってか昨日も一昨日もユウト達に散々搾られたけん、もう限界が…、」
「大丈夫だよ、マサト君!明日は休養日だからなんとかなるよ!」
と、いつになく積極的なマリア。
マリアの言う『休養日』とは、マサトが誰ともセックスしない日のことだ。
さすがに毎晩毎晩セックス三昧というわけにもいかないので、週に二日から三日程休養日を設けることにしたのだ。
「いや、何も大丈夫やないけんな!?今夜は本当にもう限界、」
と、そのタイミングで客の来訪を告げるインターフォンが鳴った。
「おっと、誰か来たな!ちょっと出てくるっ!」
「「あ!マサト君!」」
これ幸いとばかりに肉食獣と化した二人から逃げるようにマサトはベッドを飛び出し、床に落ちていたバスローブを身につけて扉へと向かった。
「というか、こんな深夜に誰だ…?」
バスローブを着ながらふと壁の時計を見た時、時計の針は日が変わる寸前を指しており、誰かが訪ねて来るにも不自然な時間だよなと一瞬冷静になったが、寮の部屋に訪ねて来る人物は一年生女子くらいしかおらず、大方マリ達以外の恋人の誰かがローテーション破りで押しかけてきたのだろうと思いながら部屋の扉を開けた。
「あ、ごめんねお兄ちゃん!こんな時間に」
「あれ、マチ?どしたん?何かあったと?」
そこにいたのは意外にも妹のマチだった。
いや、正確にはマチの背後にもう一人いた。
「いや〜、お取り込み中すんまへんな〜、マサトはん」
「え、レンカもおると?」
妹のマチがこの時間に部屋を訪ねて来るのは特段不自然なことではないが、レンカがここにいるのは予想外だった。
「えっと…、こんな時間にどしたん?まさか…、このタイミングでレンカも…?」
マサトはハーレム入りを希望しているレンカが、てっきり夜這いをしかけてきて、その付き添いにマチがやって来たのではないかと考えたのだが、返ってきた答えは違った。
「いやいや、そういうことやあらへんねん。まぁ、マサトはんがその気ならウチとしてはかまへんねんけど、今日来た目的は別にあってな?」
「別…?」
すると、それまで陽気な笑顔で話していたレンカの雰囲気が変わり、不気味な笑顔を浮かべたレンカが、マサトの顔を凝視しながらこう続けた。
「ウチと一緒に来て欲しい所があるんよ」
「え…?来て欲しい所って……?」
いつもと様子の違うレンカの視線から目をそらしたくとも、何故かそらせず、その場に釘付けにされたようになるマサト。
そんなマサトに一歩近付いたレンカは、さらにこう続けた。
「ウチらの救世主様…、【魔女】様の元に」
「な…っ!?【魔じょ、……っ」
その瞬間、マサトの意識はブレーカーを落とされたかのように真っ暗となっていた。
「マサトく〜ん…?」
「どうしたの?誰が来てるの…?」
そこへなかなか帰って来ないマサトを心配したマリとマリアの二人が、薄手の掛け布団を全身に巻いて身体を隠しながら寝室から出てきた。
「おお、マリはん!マリアはん!ちょうど二人のことも呼びに行こ思ててん!」
すると、玄関の前で突っ立ったままのマサトの陰から、ひょっこりとレンカが顔を出した。
「あれ、レンカちゃん?」
「レンカちゃん、どうしたの?」
二人がレンカに声をかけたその時、ドカーン!!と窓の外から何かが爆発したような音が聞こえた。
「「えっ!?」」
その音に窓の方へと振り向いた二人の目に入って来たのは、暗い月夜を照らす真っ赤な炎だった。
「え、か、火事!?」
「爆発事故!?」
何が起きたのか分からないマリとマリアに対し、レンカだけは一人落ち着いた口調でこう呟いた。
「お、ちょうどええタイミングやな」
「え、レンカちゃん…?」
「今何て…、」
レンカの呟きに、ただならぬモノを感じた二人は再びレンカの方へと視線を向けると、
「ほな、二人も一緒に【魔女】様の所に行くで」
マリとマリアの意識はそこで途切れ、その場で彫刻となったかのように動かなくなった。
この日の夜、第12魔法都市魔法師育成学園は【魔女教】による襲撃を受け、マサトとマリとマリアを含む数名の生徒が行方不明となった………




